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ライティングパターンを極める編 【ライブ写真の撮り方】最高の推しを最高の写真にする方法 #4
●ライブ写真がグッと映えるライティングパターン大全
今回はライブハウスという空間を非日常たらしめているものとしての色とりどりのライティングを画に落とし込むことの意義について。そんな光と色彩のお話です。
ライブを撮るときに多くの撮影者が意識するのは推しの表情であり、動きであり、写真を見る人もまた観たいのは被写体そのものだと思います。特にアイドルが被写体である場合にはその比重はかなり高いでしょう、なんせ推しは可愛いですからね。
しかしながら、情景という視点でいうならばその写真をドラマティックに見せているのは光と色彩です。かのレオナルド・ダ・ヴィンチ曰く、「絵画の構成要素の優先順位は光・闇・色彩・形状・遠近の順である」。写真においても示唆に富んだ言葉だと思います。
なぜならカメラを使って撮影するということ、これはすなわち「光を捕まえる」という行為そのものだから。被写体そのものだけでなくそれを照らし出す光と闇と色彩ごと的確に捕まえられたなら、被写体の魅力も最大化できるはず。
ここで一つ、この動画を観てください。人物の顔がライティングと色彩でどれほど印象が変わるのかを示した映像作品です。たまに一時停止などして比較するのもいいと思います。
光源の角度と色彩の違いによって人物の雰囲気や表情の情感が大きく変わるのがお分かりいただけるのではないでしょうか?
写真において被写体の表情や存在感が大きかったとしても、光と色彩が違えば直感的に感じる雰囲気は大きく変わります。故に映画やドラマなど人物の感情を表現するメディアでは登場人物の心理描写にこうした演出が随所に盛り込まれていますよね。少なくもSNSのTLをスクロールする一瞬においては表情そのものよりもインパクトが大きいかもしれません。
つまり人間って言うのは、意識的に見ているのは被写体だが、無意識の感情に訴えるのは色彩と光になる生き物という理屈なわけです。
当然、プロのカメラマンはこのことを熟知しているので、たとえばスタジオであれば写真にどんな印象を与えたいかによってライティングを事細かに設定したり、野外においては太陽の位置を計算し、レフ板などを使って光をコントロールして狙った光を作ります。
しかしライブ撮影をする人間は自分の意志でライティングを制御することはできません。その代わりに一つのライブ演出の中にはスタジオワークで意図的に作ろうとしたらとてつもない手間がかかるであろう多彩なライティング環境で一気に撮影することが可能です。制約の多さのほうが話題になりますがそもそもすごい贅沢なことなんです。
単に被写体のみを追うだけでなく、効果的なライティングの瞬間を見極めて撮影する、という発想の転換ができれば、ライブ写真は単なる記録写真ではなく、ステージの情感を伝える写真へとアップデートすることができるはずです。
そこで具体的に、狙うと良いスチル向きのライティングパターンをいくつか紹介したいと思います。
●プレーンライト
一般的な定義では前方斜め45度付近から光が顔を照らしている、肖像画などで多いライティングです。音楽室のベートーベンとかのアレ。
光そのものが被写体全体に行き渡っており、顔の一部分にだけ影が落ちます。フロントライトが十分な球数を持ち、全体に光が行き届いている大きな会場では発生しにくいのですが、特に横長のステージの小さい箱の時、端っこにいるメンバーを照らす光によってよく発生します。かなり雰囲気が出るのでチャンスです。
↑光源との距離によって陰影の濃さやコントラストが変わる。光が近いほど影のコントラストは強くメリハリがつく。立体的で表情に説得力が出るため、演者の存在感を伝えたいときに有効である。
●フロントライト
プレーンライトにかなり近いですが、真正面からそれなりに強い光が当たってる状態のライティングです。リリイベ環境などで多いです。
影はほとんど出ません。したがって立体的な存在感はあまり出ず、表情などの情感を伝えるのには向いていませんが、衣装などの形状や色を際立たせたい時に有効。
真正面から十分な光があたり、陰影も出にくいことから「単純に綺麗に撮る」という意味では歓迎されやすく、スマホも含めて機材依存度が低いライトです。顔に陰影が出にくい、ということはスチルで撮るのが難しい表情の一つである「笑顔」も可愛く写りやすいです。
↑情感のような面白みは少ないものの「綺麗に写る」という観点からはほぼ無敵の光。
↑そもそもの被写体の強さはさておいても笑顔が綺麗に写るアドバンテージはものすごい。
●エッジライト
このあたりからライブハウスならではの光になります。被写体の後方もしくは側面からかなり強い光源が当たり、かつ全体があまり明るくない状況で発生します。
具体的にはバックライトが演者の後方に重なった時やスポットライトの端に演者が少し外れたときに生まれます。輪郭がライトによって輝き、浮かびあがるようなライティングで、特に女の子の場合は髪の毛が輝き、非常に神々しい印象の写真となります。これが現場だとうっとりするほどキレイなんです。
前述のように強い光源と位置がマッチした時にのみ発生するため、シャッターチャンスは長くはありません。また全体的な光量がある大きな箱ではあまり発生しないので、小さなライブハウス特有の画の一つです。
↑顔自体が見えなくても輪郭が強調されることから存在感がある写真に。
↑レッドのカラーライトが髪の毛の輪郭を作っている。全体的には暗く、背景に溶け込んでしまうところがしっかりと浮かんで存在感が出る。ブルーの衣装とのコントラストもキレイ。
↑髪の片方だけエッジライト。アシンメトリーなバランスがつくだと単なる正面写真にも情感が宿る。
↑皆既日食型エッジライト。全体が暗い時に一定の距離がある後方から強い光が来た時に演者が完全にそれを覆うと発生。文字通り輪郭をなぞる光。
↑髪だけでなく体の一部分が照らされるのを捕らえることも。ちょっとフェティッシュな印象に。
↑全体が暗くて何も写らない!という時でもわずかな光を捕らえれば輪郭が立った意味のある写真になることも。暗くとも光を丁寧に追うと面白い。
●逆光
一般的な写真においては逆光はあまり良い光源ではありません。しかしライブにおいてはそれも非日常的なワンシーンのエッセンスです。
ライブ写真における逆光の生かし方は大きく2種類です。一つ目は全体の光量が大きくてかつ逆光であるもの。非常にまばゆい印象を与える写真になります。その分、被写体そのものの情報もステージの雰囲気も大きく飛んでしまい、雰囲気は出ますがあまり伝わらない写真になってしまうことも多いです。
二つ目は全体が暗くてかつ逆光。逆光の良さはシルエットが立つことなのでこちらがどちらかというと本道です。被写体の表情やディテールは影になってしまいますが、その分、シルエットのカッコよさだったり、かすかに見える表情のミステリアスさだったり、鑑賞者の想像をくすぐる写真になると言えるでしょう。
特に躍動感あるダンスカットなどは表情が事故ってしまうことも多いのでシルエットに落とすことで動きの美しさだけ画にするなども。
光源を被写体で隠すか出すかでも趣きは異なり、その位置によってエッジライトになったりもします。光と闇のバランスが逆光写真のバリエーションを作ります。
顔や全身に影が落ち、シルエットが強調された写真はその後光効果によるカリスマ性などにより、バンドライブ写真などでは非常に好まれます。
が、反面、限られた情報量からそれを汲み取るのはコアファンだけであり、よほど魅力的なシルエットを描かない限り、内輪ウケでどこにも届かない写真になりがちでもあります。撮る側も選ぶ側も意識しておくべきことかもしれません。
↑客観的に観て、伝わる写真なのかどうか、究極的には撮影者にはわからないものではあるかもしれない。また強力な逆光にレンズを向けてもファインダーで被写体を完全に認識することはできないため、演者を信じる気持ちがこれらの瞬間のシャッターを切らせるとも言える。
↑ジャンプアクションは事故写率が高く、世に出しにくいケースが多いがシルエットにすることで躍動だけを抽出することもできる。全力でシャウトする顔、なども同様の効果が期待できる。
↑メンバーのみならずフロアのファンに対しても有効。シルエット化することで個が立ちすぎず風景として一枚になる。振り上げる拳などシルエットに落とすことで主張しすぎない情景に取り込むのは有効。
↑シルエットではなく眩さを強調した例。強烈な後光で撮ってる時は何も見えない。ただしちょっと位置を動いて被写体の後ろに光源を隠すと全然違う写りになる。当たり前だけど面白い。
↑逆光と言っても応用は様々で光をどの部分で隠すか、それが髪ならば髪だけを光らせるという効果も。エッジライトとも違う印象を与えるもの。
↑光量やフロントライトのバランスによっては必ずシルエットになるわけではない。柔らかな夕日を背にしたような黄昏を描くことも。
↑光源を被写体で隠すか出すかで位置を微調整。いずれが良いかは好み次第だが、被写体を動かせない分、撮影者が動いて被写体と光源の位置関係を調整するのはライブ撮影に許された光源位置調整の有効な方法だ。
●アンダーライト
文字通り下からの光です。不穏、不敵、挑発的なイメージが強くなります。あまりこの状況が発生することは多くはないのですが、比較的大きな会場では稀に発生します。アップ写真の中でほどよい角度のアンダーライトは日常では稀な光だけに強い意味合いを帯びた情感を演出します。
↑純粋なアンダーライトが当たるケースはあまり多くはない。少なくともライブハウスでアンダーライトを備えているところは限られるだろう。
●スポットライト
舞台ライティングの基本的なものの一つです。メインの被写体だけを光源が切り取るため、テーマがわかりやすい写真になりやすいのでシャッターチャンスと認識している人も多い瞬間だと思います。
しかし、実のところ、ライブハウスのライティングはこのスポットライトが無数に方々を照らしている状態であり、その光源に対してメンバーがどの位置にいるかで、あがる絵の雰囲気はかなり変わります。前述のエッジライトも実際はこれの応用として浮かぶ場合も多いですね。
ハマれば天使が降臨したような神々しい写真にもなりますが、一方で近すぎるスポットライトはその強烈な光量ゆえに白飛びしてしまう可能性が高い。狙う場合にはアンダー気味に撮るなど対応が必要かもしれません。
↑わかりやすいスポットライトの例。演者との位置関係や光量によって描く絵は様々。演者によって遮光されて変化したりする。
●レーザー
運営や箱のある種のこだわりや趣味によって展開される特殊光。難点はレーザーを立てるためにミストが多めだったり他のライティングが控えめだったりすること。それでもうまく撮れれば通常のライティングとは全く異なる画を描く。
魚眼などを使うと光が曲がったりなどしてまた一興でもある。ただレーザーが主役になりメンバーがあまり見えないので運営の自己満足になりがち。
↑ミストが強いので自然とふわっとした仕上がりの写真に。レーザーとの位置関係(手前か後ろか)などでいろいろ遊べる。背景の模様に見立てて画角を組むと楽しい。
●多重露光
バンドライブ写真では定番アプローチの一つ。本稿では番外編と言えるアプローチ。すなわち光がないならば入れてしまえばいいじゃない戦術。
別撮りしておいたライティングのみの写真に重ねてしまう。この時に、SS1桁、露出を極限までマイナスにした上で、光に向けてカメラを揺らすように撮って光自体に動きをつけると画面全体の躍動が出る。(これは動かざること山のごとしな駆け出しバンドのライブ写真に動きをつけるテクニックの一つで最初からダンスが主体のアイドルライブ写真ではそんなに必要性は高くない)カメラの多重露光機能を使ってもできるが実際には都合良くレイアウトするのはかなり難しいのでアプリとか使っちゃうのも手。
↑グラフィカルだが需要は謎。こんな手を使わなくともライブアイドルはそもそも美しく撮れる。ものすごくどうしようもない時、例えば後方で広角しかなくてやることない時、などにトライするも一興。
●まとめ
大きくわけると上記の光の時を意識的に狙っていくと撮れ高のバリエーションが増えます。ライブ中にレンズチェンジすることは可能ではありますが、実際はなかなか難しいことも多いでしょう。どうしても画角が単調になりがちな部分を補うことができます。
それ以外の瞬間は暗かったり、判然としなかったりして闇雲に撮ってもなかなか良い一枚にはなりません。光と演者の立ち位置を把握し、最良の位置関係を常に狙うのが大切です。
開演前の場所撮り時にバックライトなどの位置を確認して、演者との関係性を想像しながら立ち位置を決める、などもよくやります。僕は個人的に逆光は好きなので、後ろの強い光源はあえて撮りにいくこと多いですね。
ポイントは強い光源がしっかり被写体を捉えているかどうか。その瞬間にシャッターを確実に切れば機材自体のスペックが足りなくても確かな一枚を押さえやすいです。
ただし実際見るとわかるとおり光は常に明滅し、様々に色彩を変えていくものなので、その周期パターンにあわせてシャッターを切ることも重要になってきます。繰り返しの明滅があるならばタイミングを合わせて切ることもできます。諦めずに一瞬の光を狙う姿勢が大事です。
では逆に撮りにくい、撮っても成果が得にくいライティングはどのようなものでしょうか?光と色の関係から考えてみます。さらに、第二章と組み合わせて、光と構図に取り込む作例パターンと撮り方のコツも解説してみたいと思います!