まず何買えばいい?編 【ライブ写真の撮り方】最高の推しを最高の写真にする方法 #6
●「まず何買えばいい?」「どんな設定にすればいい?」に簡単に答える
最初に書けよ!と怒られそうなくらい、一番よくある質問である「まず何買えばいいですか?」これ一番悩みます。
「とりあえず…チケットですかね?」
とかになってしまう。だってその人の予算もわからないしどんな写真を撮りたいのかもわからない。
一方で機材レビューをずっとやってて、実際はどんな写真撮ってるかわからない写真ブロガーやYoutuberカメラマンが多いことを考えるとすごく需要はあるのだろうと思います。実際、安くないですから少しでも失敗しない買い物がしたいですよね。
ぶっちゃけますと世の中の大抵の撮影ジャンルにおいてはそこまでハイスペックな機材なんかいらないんですけども、「暗所で撮るのが普通」のライブ写真では通常引き出さないようなカメラの限界性能が一番体感できちゃう側面もある。だからオススメを聞かれたらある程度のハイスペック機や明るいレンズを勧めることにはなります。
設定についても「自分と同じクラス」のカメラであればざっくりは言えますが、違っていると難しいし、そもそも同じ雰囲気の写真にはならないし。
ただ一定水準(フルサイズや大三元、単焦点)があるなら、それを前提にした情報は数多あるでしょうから自分みたいなそこまで機材詳しくない人間が書くことないなと思ったんですが。逆にそうでない機材のメリットとかモチベを保つ方法、みたいな切り口もそこに含めたら意義があるかもしれない。
振り返ってみても本シリーズは実は技術よりも心構えと意気込みとマインドセット(ほぼ同じ意味)が主題なので、その観点で言えそうなことをつらつら書こうと思います。あ、本当に目安ですけど簡単な初期設定も書きます。
●機材選びは愛着が持てる物語を探そう
僕はNikonユーザーです。愛機はD750。たぶんですけど買い換えるにしてもNikon以外を選ぶことはありません。後述しますがもうライブ写真界隈はSony独走と言ってもよいような状況ですが、それでもNikonを選ぶと思う。
理由は父の影響です。自分の父はカメラ好きでした。写真をどの程度撮ってたのか、父が家族写真以外で撮った「作品」的なものは見たことないですが、フォトコンテストみたいなものに参加したりはしてたみたいですね。
週末になると愛機のNikon F3の手入れをしながら「これは世界一のカメラなんだ」「Nikonは世界一なんだ」と幼い自分によく自慢してました。
実際のところ、Nikon F3は当時の35mmフィルムカメラとしてはトップランカーと言える名機でしょう。
楽しそうに愛機を愛でる父を見て育った僕の脳みそにはいつしか、
「Nikonのカメラは世界一ィィィィイ!」
と叫ぶ謎のドイツ軍人的なキャラ棲みついてしまったわけです。
なので、今でも迷わずNikonをチョイスします。親父の誇りだからです。幸いにしてNikonの作る画も好き…(厳密に言うとNikonにSigmaのレンズをつけた写真のベースの色味が好きで純正レンズだとそんな好きじゃない)ので、痩せ我慢とかではなく普通に愛してもいます。そりゃ瞳AFとかゴリゴリ効いたら楽ですが、機械任せには仕切れないところも気に入っています。
何が言いたいかというと、今時は一定以上のお値段を出せば「撮れない」なんてことはないですから大事なのはその機材に「愛着が湧く物語」だと言うこと。
例えば早い段階でミラーレスの帝王であるSonyを購入したユーザーはαシリーズの、これまでにないデザイン感と「人と違うぜ」感が愛着を沸かせる物語としてあったはずだと思います。
何も高スペックだけが愛着ではない、例えエントリー機であっても、はたまたコンデジだって「それでハイエンドカメコをころしてやるぜ」と思ってやってたら、その機材はまたとない戦友であるわけです。
そんな物語が各々の相棒にはあるのです。アイドルとオタクに常に一対一の物語があるように。だから、求められてもないのに「そんなカメラじゃ撮れないよー」とか他人にいうべきではありません!カメラおじさんやっちゃいがちなので気をつけて!
実際にそんなモチベかはともかくコンデジですごくいい写真撮る人もいますし、スマホでもちゃんと反響得てる人もいる。写真の良さは画質だけに宿るのではないと教えられます。
またスペックが限られるからこそ、鍛えられる部分もすごくあると思います。学び、考えるモチベはこの趣味には絶対必要ですから、何も考えないで撮れる機材よりもずっと撮影者の成長は早いかもしれない。
実は自分もカメコ始めたときに使っていたのはNikon 1シリーズというレンズ換装ができるコンデジでした。
1インチサイズのセンサーのカメラで、暗所耐性もへったくれもないんですけど、35mm換算で2.6倍の焦点距離、あとべらぼうに速い連写性能が売り。撮れないシーンがめちゃくちゃ多い反面、光がハマればパルーザ柏の最後方からこのくらいは撮れる。
これとその後に買ったAPS-C機のD5500。これを使っていた時代が長かったので、本シリーズ記事のミソである「光を見極めること」、「現像のノウハウ」、「構図を整えること」などの大半が身につきました。だって画質や撮れ高じゃ勝てないもん!工夫で戦うしかなかったので。
最終的にはフルサイズに乗り換えたにしてもそれまでの間、特に繋ぎという気持ちもなく常にメイン機として工夫してでもこれらの機材を使い続けたのはやはり「愛着」というほかないのです。
だから何を買っても「それを使う理由」さえ有れば頑張れるし、撮影者本人も成長する。だから単純なスペックよりも大事なことなのじゃないかなと。
でも自分が成長するといつしか限界がくる。「写真の質に対して機材の言い訳をしながらアップする」ようになったら買い替え時かもしれないです。
趣味ですから「言い訳しながら遊ぶ」というのは技術も上がりませんし、精神衛生上よくないです。「機材が悪い」と思ってやってると本当は機材のせいじゃないことまでわからなくなってしまうから。何よりその頃には「どんなカメラが欲しいか」という自分なりのビジョンがハッキリしてるはずです。高額機材はそれからでも遅くはないでしょう。
ただ…沼ジャンルらしく悪魔のささやきをするとライブハウスで使えるような大口径ズームや単焦点ズーム、定番ボディは常に人気ラインでさほど値崩れなく売れてしまいますので、高い買い物のようでいて実は事実上の格安レンタルアイテム、という考え方もあります。またエントリー機の中古市場も常に活況ですから、これも買った値段とそんなに変わらず売れてしまったりします。
あとは単純に好きなカメコと同じにする、知り合いのカメコと同じにする、です。機材は一緒にして言い訳を無くせば、あとは腕磨くしかなくなるのと、知り合いと一緒にしとけば困った時に質問できる、これも結構大事なことです。
●ポエムはいいからもっと具体的に言え
まあざっくりした分け方をすれば一般論ですがCanonのほうが色味がポップでNikonに比べて女の子を綺麗に撮れる。一方でNikonの方がAFスピードや精度は良いとか。あと頑丈。ただ今勧めるならライブではSony一択でしょうか。すごい暗所耐性、瞳AFの優秀性など既に他の追随を許さない性能がありますし後述のように「ミラーレスのメリット」はどんどん高くなっています。
●ミラーレスか一眼レフか?
ミラーレスはなんと言っても小型軽量であり、液晶ファインダーも実際に写る画が見えるという意味でやはり便利です。以前の章でも書きましたがカメコが多い現場などはシャッター音がうるさいので「シャッター音禁止ルール」も増えてきました。そうなるともうミラーレスがないとどうしようもない、ってのもあって今から買うならオススメにはなります。
ただ、カメコと言えどできるだけ生の雰囲気の推しを観たいじゃないですか。そういう意味では光学ファインダーの臨場感はやっぱりなかなか捨てられない、というのが個人的な本音です。
●レンズはどうしたらいい?
とりあえずレンズキットの万能ズームで良いと思ってます。決して明るくないので撮れ高は少ないですが、光をよく観て狙えば写らないことはないです。本気でやりたくなったらとにかく明るいやつを。F2.8 70-200ズーム、中古で良いからもっておくと捗る。比較的、小さい箱だったり密度がそうでもなければ50mm1.8とかの明るい単焦点レンズ一本って手もあります。
↑D5500(APS-C)+高倍率ズームで撮って出し。もしRAWで撮ってたらと考えると十分にそれなりの画は撮れてしまう。
●設定の目安くらいさすがにあるだろ
高倍率ズームを勧めた前提で、シャッタースピード250〜400、絞り開放、ISOは上限6400くらいの自動設定でまず撮ってみよう。いきなりマニュアル!?ってなるかもしれないんですが、変える項目を最小限にしつつ、調整しながら撮る、というのは最初からやってた方がいいと思います。ただこれらの数値は箱によって、自分の機材によって適正値は異なります。場数場数です。
6400は高いという説もあるけど、個人的にはまず写る状態の体験が大事だと思ってて、許容ノイズは機材と箱で自分で調製するしかないと思います。本当は3000くらいにしたいですね。
グループ全体にピントが来るようにしたい時、会場の奥までピントがくるようにしたい時は絞りを変えていきます。絞るほど(数字がでかくなるほど)奥までピントが合うようになりますがその分暗くなるのでSSを下げたりして組み合わせて運用します。
自動調整にするとカメラが適正ISOを推奨してきますので、それを見ながら、まずはSSを調整することから始めて見ましょう。絞り開放で単焦点や大口径ズームだと被写体深度が浅い(ピントが合う範囲が狭い)ために、極端な話、鼻にピントがきたら眼がボケる、みたいな扱いにくい状態になったりしますので、ISOを見ながら光に余裕があれば気持ち絞るなどするとパキっとした上がりになります。
AFは機材にもよりますが瞳AFがあればアップメインで撮りたい人はそれを使いつつ(通常のAFは高頻度でマイクにピントが来ちゃう!)多くのカメラは暗いところで動体追従するのは得意ではないので、手動でシングルポイントやグループエリア(シングルポイントよりも広い範囲を指定する)とかで自分の意志でやった方が後悔が少ないし楽しいです。
測光モードはスポット測光(ピントを合わせた場所を重点的に測光する)、ハイライト重点測光(ハイライト部分を重点的に測光して白飛びしにくいように調整する)あたりがオススメ。(Nikonの表現なので似た設定を)
もっとこの辺詳しく知りたい人は他に解説記事たくさんあるんでそっちをご覧ください。
●そうは言っても結局機材で差がつくんでしょう?
↑iPhoneで撮影。推しメンも何も写ってないけど無理やり撮らずに、機材の特性を活かして割り切った写真にしようと思えばこれはこれで「伝わる写真」じゃないでしょうか?
もちろん、いかなる趣味も道を極めて行けば最後はそうかもしれない。かの弘法大師も実際はめちゃくちゃ筆を選んだという。ただ機材のグレードアップがもたらすのは撮れるシチュエーションが広がると言うのが大きくて、それでも結局、光や色を見極めて来ることに変わりはありません。
たとえばAPS-C機は焦点距離が1.6倍ですからその分ズーム稼げることも考えるとライブ用途としてフルサイズに劣るとは限りませんしサブ機で使う人もいます。
またスマートフォン。こいつもあながちバカに出来ません。確かにカメコが撮るような推しメンにグリっと寄った写真には向いてませんがライブ全景の雰囲気の伝わる写真は撮れます。
要するにその機材が得意とする写真に特化して割り切れば、意味のある写真にすることはできるのです。
↑これもスマホ。後方の一段高い位置から撮っており、掲げカメコではありません(笑)
また瞳AFや強烈な暗所耐性、優秀なソフトウェアなどが進化するほどにマニュアルで自分で調整する楽しさ、わざと不便なところを残しておかないと人間シャッター切るだけマシンになってしまう。
実際、iPhoneにはすでに構図補正機能がある(このシリーズで書かれたロジックを学習させれば難しくない)し、そのうちセレクトすらもやってくれるようになるでしょう。それもつまらないなとも思うのです。
あとこれは個人的な主観ですが最新鋭機の強力な暗所耐性の力で昨今はおそろしくノーノイズな写真が増えてきてますが…ライブ写真としてそこまでヌルヌルな写真がベストだとも思わないんです。そこはそもそも埃っぽくて音と熱気でパンパンの場所ですから、あまりに「澄んだ写真」はなんか違和感がある。
↑コロナ前にアルコール入った状態でたまたま持ってたコンデジでグチャグチャに沸きながら適当に撮った写真。いい写真かどうかはともかくその時の酩酊感は写っている気がして嫌いじゃない写真たち。
●まとめ
基準は主観ですが「もっとも良い機材がもっとも良い写真を生むわけではない」とも思っています。意図されたもの(結果論だとしても)があるならノイズも悪じゃないし手ブレもピンボケも悪じゃない。
だって今のご時世では忘れがちですが、ライブってそもそも、お酒飲みながらカオスに乱れて遊ぶ場所じゃないですか。暗くて埃っぽくて湿度が高くてでかい音とわけわからなくなった人間の雄叫びでパンパンな場所じゃないですか。
「ライブ写真はキレイでバキっとした画質と整然とした構図だけが全てじゃない!」とここまでの全部をひっくり返したところで、結局大事なのは…
何を伝えたいのか、何を届けたいのか。
大切なのはそれだけ。貴方の眼となる愛着の湧く相棒と一緒に、ライブのカオス空間を切り取りましょう。キレイなだけのハイエンドおじさんなんかぶっ倒しましょう。
最後までお読み頂きありがとうございました!