『メイドという萌えと癒しと闇と』
みなさんの初体験はいつだろうか?
私は23の夏に友人から誘われて。
友人曰く、以前から気になっていてなかなか行動に移せずにいたのだが今回は勇気を振り絞ったそうだ。
私も確かに多少興味はあった。
2人とも何も知識が無かったが何事も経験だと思い勢いでその扉を開けてきた…、
そう、コンセプトカフェに!
コンカフェというのは様々な形態があるようなのだが今回は女の子がメイドとして給仕をするいわゆるメイドカフェに行ってきた。
初勤務・初対面・初デート…そして、初メイド。
初めてというのは緊張する。
しかし、緊張し過ぎてぎこちないのも格好が悪い。
慣れている常連客を装うって入ろうと試みると…、
入り口を素通り。
…。
誤解しないで欲しい。
これはお店が営業しているかどうかを一旦確認しただけだ。
次こそは!と勢いよく…、
入り口を素通り。
…。
誤解しないで欲しい。
ミーティング中だったら邪魔してしまうのは申し訳ないだけだ。
…。
ダメだ。
2人共に完全に怖気付いてしまった。
大の大人が行ったり来たりしている姿は常連客というより変質者にしか見えない。
すると、
「すみません。入らないならどいてくれませんか?」
美少女キャラが描かれているパーカーを着たロン毛の男性が私達を追い越して店内に入って行った。
「こんにちわ!今日もよろしくです」
どうやら常連客のようなのだが、君に届けの風早くんが学校に登校してきたくらい爽やかな入店だ。
少なくても今の私達よりは格好良い。
すると、このタイミングだとすかさず友人が常連客に続いた。
「お帰りなさいませ!ご主人様!」
噂に聴いていたあのセリフだ。
慣れていないお迎えになんだか恥ずかしくなるが、友人はあまり感じなかったのか堂々としていた。
何だかんだでいざとなれば頼もしく見える友人の後姿。
今日はどこまでもついて行くぜ!
「…きょ、今日もよろしくです」
テンパっていた。
慌てるな。
お前は10秒前までモジモジしていた初めて側の人間だぞ。
こうして挙動不審な2名のご主人が帰宅することとなった。
清潔感がありながら女の子が好きそうな可愛いが積め込まれている店内。
ガチャガチャと装飾品が付いていて歩くのにも気を遣うイメージだったのでこれは意外だった。
5人くらいのお客さんは全員ご主人でそれぞれにメイドさんが付いている様子。
私達にはメガネ・関西訛り・猫耳と誰もが可愛らしいと思える要素を備えた1人のメイドさんが担当してくれた。
一通り説明を聞いた後に飲み物を注文することに。
メニュー表を見るとソフトドリンクが基本800円!?
これがメイド料金というやつなのか。
取り敢えずアイスコーヒーとコーラを頼むことに。
「こっ、コーラをお願いします」
ただ噛んだのかコカコーラと言ったのか分からない友人。
「僕はアイズコーヒーを…」
シンプルに噛んだ私。
「緊張されなくても大丈夫ですよ!」
そんな挙動不審者達を優しく接して下さるメイドさん。
慣れない空気感に注文するのにもどうもぎこちなくなってしまう。
担当のメイドさんは20代前半くらいの方で始めたばかりの新人とのことだった。
「お待たせしました」
すると、アイスコーヒーとコーラもすぐに運ばれてきたのだがガムシロップとクリームが付いていない。
もしかしたら豆から挽く拘りがあるコーヒーなのかもしれない。
緊張で喉が渇いていたので早速口にすると、シュワッとした炭酸が美味しい…コーラになっている!?
どうやら注文を間違えられたらしい。
「すみません。すぐにお取り替えします」
担当のメイドさんはドジまでも習得していた。
【メガネ・関西・猫耳・新人・ドジ】
ここまでくるとキャラの大渋滞だ。
「すみません。お待たせしました」
コーラでも良かったのだがせっかく取り替えてくれたのでアイスコーヒーも頂く。
ゴクゴク飲めるタイプで舌に残る微妙な豆の苦味がどこかで味わったことがある味…。
そう、業務スーパーだ。
すると、
「ダメです!ご主人様!」
なぜか呼び止められる。
「これから飲み物が美味しくなるように魔法をかけますので!」
主人なのに注意をされるというのはなかなか難しい侍従関係のようだ。
すでに2回も飲んでいたのは無かったことにしよう。
「美味しくな〜れ!萌え萌えキュン」(うる覚え)
…。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
これを真剣にされているメイドさんは本当にプロなんだなと思う。
「ご主人様も一緒に!」
マジか!?
これは主人に辱めを与える拷問なのか。
「萌…萌え…キュ…ン」
これが限界だった。
申し訳ないが我々のような気軽にメイド喫茶も入れないメンタルには少々ハードルが高い技術だ。
きっと友人も隣で震えて…、
「萌え萌えキューン!」
やってた。
しかもキューンってアレンジ効かせてた。
10分前のお前の挙動を見せてやりたくなった。
「どうぞお召し上がり下さい!」
笑顔ですすめられたので今度はしっかりと味合わせて頂こう。
魔法の効果は美味しくなる。
なるほど。
恥ずかしさもあるが可愛らしい魔法の効果で飲み物も更に美味しく…、
安定の業務スーパー風味だった。
いやいや、これは味の問題ではない。
メイドさんと楽しくコミュニケーションを取ることに意味があるのだ。
30分くらい経つとある程度はこの空気感にも慣れてきた。
ロン毛の風早くんも推しのメイドさんにデレていたこともあり爽やかを失ったデレ早くんに変化していた。
ふと気づいたのだが猫耳がメイドさんによって微妙に異なっている。
もしかしてそれぞれに担当の猫の種類があるのではないだろうか。
試しに聞いてみると、
「え〜っと…その…」
悩んでいるところを見るともしかしたらそこは適当なのかもしれない。
「アレです。ぽめ…ポメラニアンです」
…?
…?
…?
友人との間に?マークが飛んだ。
どうやら魔法の効果は混乱だったようだ。
分からないはマズいと思ったのか一か八か知っている動物を取り敢えず上げたのか、それともドジっ子アピールなのか、どちらにしても恐ろしい対応だ。
いや、一生懸命さが裏目に出てしまった可能性を信じたい。
ただその場合それは犬ではないのかと伝えるのは野暮ではないだろか。
ここは大人の対応で話を合わせることにしよう…。
「それは犬じゃないの?」
気遣いという空気感を友人の無神経が全力で一刀両断した。
「で、ですよねー。冗談です!私お笑い担当なので」
と言って笑顔で対応するメイドさんなのだが、これが漫画だったらたった1人で完結出来る程のキャラの豊富さだ。
人1人が抱えられるキャラのキャパシティを越えてないだろうか。
そんなたわいもない話をしている間にあっという間に1時間が経とうとしていた。
色々な意味でお腹いっぱいになったのでこれで退店することに。
「いってらっしゃいませ。ご主人様!」
の掛け声と共に出入口の扉を開ける友人の姿はやりきった感で清々しく、
「また来ますね!」
と、メイドの主人という設定があるからか凛々しくも見える。
今日の友人は一味も二味も違ってもしかして別人なんじゃないかと思う程だった。
「…何だか緊張しちゃうしあまり楽しめなかったな…」
安心しろ。
あの主人の中でダントツで楽しんでたぞ。
今日の私も一味も二味も違って別人なんじゃないかと思う程ツッコめた日だった。
数年後…。
またあのメイド喫茶の前を通る機会があった。
相変わらず人気なのか確認してみるとメイドさんが犬耳になってた。
もしかしてあのメイドさんはこれを暗示していたのでは…。