#02【ラリーカー模型 製作の引き出し】パンクしたタイヤ
第2回はラリーにつきもののパンクしたタイヤです。
WRC(世界ラリー選手権)では、単に穴が開いてぺちゃんこになるだけでなく、ムースタイヤ⁂でそのまま走り続けて破裂し、タイヤのゴム部分をほとんど失って中が剝き出しの状態になるケースがままあります。
特にサファリやアクロポリスといった過酷なグラベルラリーでよく目にしますが、今回これをイメージして再現してみました。
⁂ムースタイヤ タイヤの内側にムースと呼ばれる特殊なスポンジ状のものを入れ、走行中にパンクしても、ほとんどタイムロスすることなく走り続けることができる。WRCではワークスで使われ、2008年に禁止された。
工作
ディスク部
ラリーカーキットの場合、車載のスペアタイヤが付属しているものがありますが、現在製作中のハセガワ1/24トヨタ カローラWRC 1998年サファリ仕様には付いていませんでした。
そこで、ホイールのディスク部(スポークがある面)を複製し、その後、リム部(タイヤが接地する面のホイール側)の再現を考えました。
複製にはウェーブ「型想い」を使用。百円ショップの「おゆまる」と同じようです。
これをキットのホイールに押し付けてかたどり、型にポリエステルパテ(タミヤ ポリエステルパテ40g)を塗りこんで複製。厚さは1、2mmほどで充分です。本来はかなり薄くした方がリアルなのですが、ポリパテは欠けやすいので、ある程度厚みを確保しました。
かたどりの結果はまずまずでしたが、スペアタイヤのためボルト穴やハブ穴を開けたり、歪みを削るなど表面処理します。気泡が入ったり欠けたのでラッカーパテ(タミヤパテ)で埋めましたが、多少残して、破損したホイールらしい傷やダメージとしました。(これにより後述のウェザリングでチッピング不要とした)
ディスクと反対側の奥の縁は、0.3mmプラバンをサークルカッター(オルファ製)で切ってリング状にして使いました。
リム部
リム部はタイヤ幅の真ん中へ向けてくぼんでいきますが、この再現はなかなか難しいと感じ、今回は、ホイールの直径より一回り小さいプラスチックの筒を探しました。
ちょうどよい直径だったのが、リップクリームのフタです。適当な高さにするためカッターノコ(プラッツ 職人堅気ハイパーカットソー0.1)で切り取りました。
(スペアタイヤ入りのキットであろうとなかろうと、タイヤは基本、ゴムをはめる構造のため、このリム部分が再現されたカーモデルはあまりないのでは?と感じています)
裂けたタイヤのゴム
ここが再現の見せどころです……。基本、脊椎で作っている自分としては、とりあえずマスキングテープ(Mr.マスキングテープ ワイド50mm)を使ってみることに。
①幅広のマステにサークルカッターで穴をあけます。直径はホイールと同じくらいですが、あとで切り込みを入れて大きさを調整すればよいのでだいたいです。タミヤ カッティングマットの円ラインのガイドを初めて使った!
②穴の周りにマステを残しながら、カッターでギザギザを入れていきます。こうして、外周がギザギザになった輪っかを作ります。
③ホイールのディスク部とリム部との境目に、このマステを貼りこんでいきます。マステの糊がある方が、タイヤの表側にくる感じです。
④貼りこんだものの、ちょっとギザギザが不自然。ハサミでわざとランダムにしたり、ギザギザをなくした箇所を作りました。
マステにしたことで、この後のサフ吹きまでの間にマステが内側に曲がってくれたり、クセをつけやすく、ある程度ゴムタイヤの形を出せるようになりました。
剝き出しのカーカス
ここまでだと物足りない。タイヤのカーカスコード類が剝き出しになった状態を再現したい……。
手元にあったのが、タミヤ モデリングワックスのクロスです。最近買い換えたものの、どうもこのクロス、薄っぺらくなっていて、紙のようなのです。使用中に穴が開き、ちぎれてきました。
ええい、使ってしまえ! と細かく千切ってマステで再現したタイヤの残骸の裏に瞬間接着剤で貼りつけていきます。繊維質が再現できました。
これはティッシュペーパーやキムワイプなどで代用できそうです。布は少しオーバースケールになりそうで避けましたが、試す価値はありそうです。
缶のサーフェイサー(タミヤ ファインサーフェイサーL 仕上げ用ライトグレイ)を吹いた状態がこれ(下の写真)。
その前に、マステへの塗料の定着を考え、ガイアマルチプライマーアドバンス(P-01a)をエアブラシで吹いています。マステの表面のような素材への効果はわかりませんが、真鍮やエッチング、メタルパーツへの塗料の食いつきがよかったので試してみました。
基本塗装
ここからは難しくありません。が、塗装とウェザリングによってこそ、素材感が生み出されるため、大事な工程だと思います。
ホイールを塗装。今回はカローラWRCですので、ホワイトで。ガイアノーツのEx-ホワイト(ラッカー塗料)を使用。このホワイトは隠ぺい力が高いので重宝しています。
タイヤはカンカン照りのサファリで色褪せた?感じをイメージ。黒は使わず、タミヤアクリルのダークグレイとニュートラルグレイを筆塗り。
カーカス部分は写真を参考に、タミヤアクリルのイエローグリーン、ダークイエロー2(ドイツ陸軍)を筆塗り。
この辺りは好みですが、変化をつけるため、各部に複数色を使っています。まあ、次のウェザリングで充分だった気がします……。
ウェザリング
私はピグメントやウェザリングカラーによる汚しがあまり好みではないので、今回は古典的なスミ入れとドライブラシで。
スミ入れ
タミヤスミ入れ塗料のダークブラウンでホイール、タイヤ、カーカスすべてのくぼみにスミ入れ。さらに奥まった所に陰をつける感じで、同ブラックでスミ入れ。
いかにも塗ったような筆目が出たら、エナメル溶剤(タミヤ)をふくませた筆や綿棒で拭きとったり境目をなじませます。
サファリをイメージした割に、少々色が濃すぎた感がありますが、まあいいか、メリハリも出たから、と先へ進みます。
ドライブラシ
タイヤのゴム部分にタミヤエナメルのニュートラルグレイ+少々のフラットホワイトで調子をつけます。
土埃の表現には、バフ、デッキタン、フラットアースあたりを使用。
ホイールのディスク部には、薄めたバフをポツポツと筆で置くなどしてシミ汚れを入れました。
AFVプラモの経験が生きました。先述のピグメントやウェザリングカラーを自分がまだ使いこなせておらず、他の仕上がりとの解像度に差が出てしまう点はあるにせよ、ドライブラシやスミ入れの模型的な汚しの感じが(リアルさもあるけれど)味という点で好きです。
使い方とか
今回作ったタイヤは、製作中のカローラWRCの資料を参考にし、タイヤ破損後に交換した設定で、リアの燃料タンクの上に置き、ベルトで固定する予定です。これをやると、室内や外観も少し汚した方がいいよな、と妄想が膨らみ、痛し痒し……。
(私は台座やジオラマに頼らない仕上げ、汚しを目指しているので、地味でも今回は室内に置くこととします)
さらにサファリ仕様の場合、スペアタイヤは二つ載せ、もう一つはどうやらコ・ドライバーのシートの後ろに押し込んでいるようなのですが、よくわからないので割愛しようと思います。
ムースについては、実車写真を見ると、ゴム部がなくなったホイールにひょろひょろと輪っかが付くように残っていたりしますが、模型映えしなさそうなので、これもやめました。
一番の課題は、ホイールのリム部の再現度でしょうか。プラの筒を二つ以上使って段差を出すとか、はたまた3Dプリンタが使えればなぁ。
ともあれ、資料をあれこれ見ながら作るのは、趣味の醍醐味ですね。
さらによい方法がありましたら教えてください!
了
参考資料
『ラリーエクスプレス』1998 Vol.3(サファリ)、山海堂、1998年
『WRC 世界ラリー選手権のすべて』飯島俊行著、グランプリ出版、2004年
『クルマのメカ&仕組み図鑑』細川武志著、グランプリ出版、2023年
Reinhard Klein, “Rally”, Könemann, 1998.