冒頭で出会うVol.7_後夜祭
隔年で行われる、倫也の、高校生活で最後の学園祭が終わった。片付けはそっちのけで夕方から、後夜祭恒例のキャンプファイヤーが校庭の真ん中で焚かれた。あかね空から夜空になっても燃えあがっていた火の粉は、炭となった黒い巨木のなかで火種になってパチパチと爆ぜている。男子校の校庭にはスピーカーで坂本九の「ジェンカ」が流れる。レッツ、キッス、若者よ、校庭には闇が(ボツ)
まった、
「トモヤさんですか?」
網に凭れて履き潰した靴の先で砂を弄っていた倫也は、キャンプファイアーの影になった女子を見た。燃え上がる炎で顔は確認できなかった。制服のシルエットは霧沼女子だった。ポニーテールの髪が肩まで伸びていた。丈の短いスカートから、大人になりきれてないまだ肉付きのない細い二本の足が伸びている。中学からあがったばかりの少女だ。いや、姉の制服を借りた中学生ってこともありえる。と倫也は思った。影は倫也を見つめている。
「踊ってもらえますか?」
グラウンドの四隅に立つスピーカーからは、坂本九のジェンカが流れている。♪レッツ、キッス、若者よ♪ ♪レッツ、キッス、頬よせて♪ キャンプファイアーの周りでは、倫也が所属する男子高の生徒と、気の合った他校の女子がフォークダンスを踊っている。霧沼女子の制服を着た少女は倫也の腕を取ろうとした。一瞬、倫也は身を引いた。拒絶反応ととらえたのか少女は体を硬らせた。沈黙が横たわった。キャンプファイアーの火は弱まってきた。ジェンカの曲もあとワンコーラスで終わってしまうだろう。坂本九が歌っている。♪レッツ、キッス、頬よせて♪ ♪レッツ、キッス、恋人よ♪ ♫ラ〜ラ〜ランランラン初めてキスをした〜♫ ♪レッツ、キッス、照れないで♪ 霧沼女子の制服を着た少女はポニーテールを宙に浮かせキャンプファイアーへ駆けだした。倫也は、彼女の腕を握っていた。
⑴状況だけを抜き取れば、このシーンは「学園祭である必要があるのか?」おそらく、ない。「学園祭の後夜祭のキャンプファイアー」という設定の説明は冒頭では完全に無視できる。ずっと後(の段落)で説明(処理)はいくらでもできる。冒頭ではやはり「出会いの描写」だけ(が)でいい。これは発見だった。
⑵端から、物語の「設定」(輪郭)を文字でなぞろうとしたらダメだ。
⑶「外部からの会話」とその「反応」。
⑷「場所」の「感覚」、音、匂い、味覚、視覚、体温、汗、暑さ、感じた「反応」を掬いとる。
⑸「いや、姉の制服を借りた本物の中学生ってこともありえる。倫也は思った。」☜筆者の当て推量だ。良くない。読者をミスリード(誤読の誘導を)してしまう。カットすべきところ。