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時間を味方につける。20230115sun196

(962文字・40min)

好きな落語家に柳家小さん(五代目)師匠がいる。
みなさん知るかどうかわからないが戦後すぐの白黒テレビ時代のお笑いスターといえば落語(噺家)だった。それからざっくりとかけば、ジャズマン、芸人、マルチタレント、バラドル、八木亜希子、ジャニーズ、AKB、いま、という流れか。
小さん師匠は昭和のお茶漬けのCMでおにぎりの形の愛嬌のある顔の小太りのひとだ。師匠はいう。
「稽古はやるんだよ。いつかそれがね。でるんだから」
非常にかんたんな話だが、ぼくはこの言葉は大好きだ。


タイトルの「時間を味方につける」は村上春樹さんの、小説やエッセイによくでてくる言葉だ。村上春樹さんの座右の銘に近いのかもしれない。
エッセイに書かれた彼の正式な座右の銘(読者の質問の答え)は、
「腹が立ったら自分にあたれ、悔しかったら自分を磨け」だ。
これも村上春樹さんの人柄がよくでている。

ぼくは中国で語学留学のあと韓国女性と所帯をもつことになって、上海に拠点のある「上海養楽多国際貿易公司」(上海ヤクルト)に入社した。
それからすこし内陸に入ったN京市の支店で科長をした。
「面接でキミを採用したのはぼくなんだよ!」と常々ぼくにつっかかってきた現地の営業本部長Nさんは、世界中で現地法人ヤクルトを立ちあげては奮闘して、結果がでる前に別の国に飛ばされるという仕事人生だったようだ。
逆にいうと、出国した後にその国のヤクルトの収益がバカ売れする、いわゆるバズるわけだ。つまりNさんは販売の仕掛け人だった。
Nさんはオランダを始め、ブラジル、中国、北米などに現地のヤクルト社を立ちあげた。
「夢とかあるんですか?」と聞いたところ、
「アフリカだよ。アフリカに健康を届けたい。一本八十円だ。それで命が助かるんだ」
まるで子どものように笑ったあの無邪気な顔はいまでもぼくの脳裏に焼きついている。
当時のN京市の人口は1000万。なぜかヤクルトの売れ行きは、他の北京市や天津市などに比べ、伸び悩んだ。
熟練の仕掛け人Nさんはぼくにいう。
「どの営業もそうだが、爆発点ってのが、ある。必ずくる。やるだけやったら爆発点をまつしかない

それから、ここでよく話す二十五年前に劇団を立ち上げたYの言葉。
客の入りが芳しくなく焦るぼくに、彼は
「待つのも仕事だ」

時間を味方につける。
みんな、違った形でおなじことをいう。

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