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プロット沼 / 推敲ってなに?ニラ栽培農家(S家のこと5)20230321tue
1300文字・30min
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男は、ロードバイクごと畑のなかに倒れていた。何かを考えながらペダルを漕いでいた。それから大きな壁のような風にぶつかった。風に吹き飛ばされたようなトレーラーと接触事故起こしたような衝撃が走ってから、記憶がない。
男は頭を擡(もた)げると目の前に黄色いレンギョウが咲いていた。ちがう。これはレンギョウじゃない。オウバイだ。男は春になるたびにレンギョウとオウバイをまちがえる。昨今はハクモクレンとコブシのちがいがわかるようになったばかりだ。レンギョウはコブシのように細い花びら。オウバイはモクレンのような(男が頭で覚える手段のイメージだ。正確には桜のようにひらく)花びらだ。
突然に挿入された蒼井の創作メモ
上記の段落は不自然だ。男の視点で書かれるべきところに筆者の説明が混じりこんでいる。一人称と三人称がごっちゃになっている。書き直し。
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男は咳きこんで目覚める。畑のなかに倒れていた。頭を擡(もた)げる。目の前に黄色い連翹(れんぎょう)が咲いていた。ロードバイクはスタンドとともに立っている。鍵は掛けられていなかった。たしか、考えものをしながらペダルを漕いでいて、それから突然大きな壁のような風にぶつかった。そこからは記憶は曖昧だった。夢のなかにいたような感覚だった。
男は大きく頭をふって立ち上がる。尻についた土を手で叩いて、ロードバイクに跨った。また黄色い花が目に止まる。
ん? これは連翹じゃない。黄梅(おうばい)だ。なぜさっきは連翹だと思ったのだろうか。
男は携帯のディスプレイを見る。家を出てから五分しか経っていない。喜ちゃん飯店までは残り一キロほどの距離だった。
蒼井の創作フィードバック
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蒼井の読者への質問コーナー
ここで黄色い花の「連翹」と「黄梅」が出てきて、男が別個の夢を平行して見ていた、その暗喩になる。逆に「連翹」か「黄梅」がまた、別の異形の世界に入る(出る)門(入り口)の役割(装置)にもなる。しかし、そういうタイムトラベルを扱ったジャンル小説(プロット)ではないので、改稿を重ねた後はカットになるくだりだ。そもそも男の妄想のくだり(先の番外編・下記)丸ごとをカットすれば、連翹か黄梅の黄色い花のどちらかを本稿に残せばいい。
「連翹(れんぎょう)」「黄梅(おうばい)」は漢字にルビの方がいいと思った。文字の雰囲気の問題だが。
ここで蒼井の読者(ぼくの読者のなかで物書き読者は多くはないのですが)に聞きたいのですが、推敲ってなに? 上記の書き直しって推敲ですよね。
井伏鱒二の「山椒魚」のように、六十年かけて作品が別物になるような改稿(推敲)もあるけれどぼくは「プロットの筋は基本は変えずに段落ごとにプチ整形手術をする」という感じです。
書き手のみなさんはどういったレベルが推敲なんだろうってふと思い。記事に載せました。こういう交流記事ってなかなか見かけないので参加型記事もいいかなと思いまして。これからも実験的にやっていきます。
推敲ってのは結局のところ、創作者個人のさじ加減の問題なので読者にこの手の話題をふるような話ではないとも思いますが。
筆者がでしゃばりすぎて似非エッセイになったので、今回の記事はここまで。
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