めまい(ジェームズ・スチュアートとキム・ノヴァクのバラッド)
高層マンションの窓から通りを見下ろすと、
頭に奇妙な揺れを感じた。
昨日まで屋根の上を飛び回っていた英雄も、
今は椅子の上にすら立てない。
男が行き着いたのは、
めまい、
めまい、
海辺のめまいーー
グレーのスーツを纏った女が、デパートへ行き、
美術館で絵を観るのを、カメラは尾行する。
そして制止も虚しく、やがて女は塔を登ってゆく。
一方、彼女の庭で、うずくまるだけの彼の、
知っていることとは、
めまい、
めまい、
坂道のめまいだけーー
美しいブロンドの髪が渦を巻くような、
その海へ、彼女は身投げした。
彼が助け出し、その体を暖めていくと、
過去と現在が、陰謀の中で結ばれた。
バーナード・ハーマンが流れるのは、
めまい、
めまい、
暖炉の前のめまいからーー
モンゴメリー・クリフトが聖職者の身なりで、
殺人者の告白を聴いたように、
誰も悪を止めることはできない。
妻殺しの男の部屋に潜入したグレース・ケリーも、
モナコの王妃になってしまった。
そして彼も、ただ堕ちたのだ、
めまい、
めまい、
銀幕のめまいにーー
世界が悲劇に顔を歪める。
愛は裏切られ、目撃者は沈黙し、
身に覚えのない罪に破滅を突きつけられる。
同じことを、フランツ・カフカも思ったか。
かつては陽気だったヨーゼフ・Kも、
今はめまい、
めまい、
黄昏のめまいーー
この冷酷な悲劇をそのまま書き残そう。
誰が私を蔑んでも、私の意図ではない。事実、
現実は悲劇を孕むーー日が昇ろうと沈もうとも、
隣にいるのが、勝者だろうと敗者だろうとも。
彼が愛したのは同じ顔の2人の女性。
あまりの「類似」に、彼は狂人になった。
逃れようとしても、愛憎に呑み込まれていく。
それでも、その渦から這い出ようと必死に泳ぐ。
死んだ女の庭を出て、もう一度塔に登りたい、
真実を受け入れ、本当の幸福に包まれたい、
目の前の彼女と愛し合いたい、
彼女を離したくない、人生をやり直したい。
そうやって
なんとか、
なんとか塔を、
登りきった、
その時、
例のめまいが男の頭を襲ったのだ!
彼が行き着いたのは、
めまい、
めまい、
永遠のめまいーー
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