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小説感想『凍りのくじら』辻村深月(読了:2022/9/11)


作品紹介

辻村深月の『凍りのくじら』は2005年に講談社より出版された作品。第27回吉川英治文学新人賞候補作。

『かがみの孤城』を読み終えたあと、昔読んだ辻村深月作品を久しぶりに読み返そうと思い手に取った。読み進めている途中で、中途半端なところで読むのを止めてしまっていたことに気がついた。なので、結果として初読。

一部を除きネタバレは避けるけど、ある程度内容には触れているので注意。

以下はあらすじの引用。

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。

引用:講談社BOOK倶楽部

主人公のクセがスゴい

主人公のクセがとにかくスゴい。キャラクターとしては正直苦手なタイプで、序盤~中盤は性格に馴染めず読み進めるのが辛かった。あえてそういうキャラクターとして書かれているわけだが、初めて手に取った当時は自分も若かったこともあり、気恥ずかしさが勝ってしまい読み進められなかったのだろうなと思う。

物語中盤で郁也と多恵さんというキャラクターが出てくるが、この二人が作品の清涼剤となっている。この辺りから主人公の内面も見えてきて、物語も大きく動くこともあり、今回は最期まで読み進めることができた。

多かったレビュー

主人公の心情描写に馴染めず…という感想が多い。実際自分もこれが理由で一度読むのを止めてしまっていた。若い人ほど主人公の視点で読み進めると思うので、じわじわとダメージを受ける気がする。

作者の意図するところからはかけ離れてしまったかもしれないが、今回はどちらかと言うと主人公の親視点だったり、俯瞰的な視点で読み進めた気がする。大人っぽく書かれている主人公が実は作中で一番幼く、自身が感じている「少し・不在」とは別の意味でも周囲に"適応"できていない、非常にフワついたキャラクターであることが分かる

当時読み進められなかったのは、このキャラクター像に100%感情移入したわけではないものの、理解できる部分もそれなりにあり、自分の幼い部分を突かれているような感覚に耐えきれなかったんだろうなと感じた。

ミステリとして(ここだけネタバレあり)

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身構えて読んだしまったからもしれないが、展開はだいたい読めてしまった。理帆子とあきらの撮影シーンや、あきらが理帆子意外と会話しているシーンが無いなど、伏線も大味なので読めた人は多いと思う

理帆子が一番好きな映画で『のび太と海底鬼岩城』を挙げているのに「テキオー灯」の名前がパッと出ないという、分かる人には伝わるような伏線があるのは、作者のドラえもんオタクっぽさが出てて好き

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おわりに

無事に読み終えることができて良かった。理帆子よりも親に感情移入していて、自分も年を取ったんだな…と思わぬところで感慨深くなった。「少し・不在」な主人公が、物語を通して視野が広がる過程を描いた素敵な作品だった。

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