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21歳で自殺した彼氏が残した遺書

最愛の彼氏が「死んでた」と彼の叔父から連絡を受けた日からもう四年が経とうとしている。
彼は護身用のナイフで自らの身体を滅多刺しにして命を経っていった。

それはヒリヒリを肌を焼き付けような日差しの夏の暑い時期で、私は引っ越ししたばかりの自宅で夕ご飯を作ろうと冷蔵庫を漁りうっかり調理を損ね気付かないうちに傷み食べれなくなっていた肉や野菜を処分しようとしていた時だった。

ピロンとLINEの通知音が鳴りメッセージを開いて彼の訃報を知った瞬間、頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。
詳しいことを聞かなくても最近の様子を知っていた私は自殺だということはすぐに分かった。

「本当に死んでしまった」それが私の一番最初に思ったことだった。
次の瞬間私は膝から崩れ落ち、住んでいる街全体に響くのではないかと思うほど大きな悲鳴をあげて泣き叫んでいた。
取り戻しの効かない大きな喪失の事実に思考より先にまず身体から反応していた。

涙は滝のように目からとめどなく溢れ出て、フローリングにへばりつくようにして拳で何度も床を殴りつけながら悲痛な現実を睨みつけた。

どうして死んでしまったんだ、もう彼には二度と会えないのか。どうして死んでしまうんだ。
この先声を聞くことも話すことも触れることももうこの先出来なくなってしまったんだ。

そんな考えが頭の中を反芻している中、どこか冷静な自分も存在した。

彼は亡くなる前、私に何度も自殺を仄めかしていた。どうせ死なないだろうとタカを括って彼の絶望をロクに相手にしなかった私のせいだ。
きっと自殺したのは私が連絡を取らなかったあのタイミングだ。

彼は出会った時から鬱病を患っていてよく生死について口にする青年だった。
最後に連絡を取り合った時も自殺願望を仄めかしていたし、情緒は不安定で衝動的な行動はこちらの心臓をドキリとさせるようなものだった。

悲しみで真っ暗闇に堕ちていると、突然スマホから軽快な着信音が鳴り響いた。番号を見ると知らない番号で下三桁が110だった。

急いで涙を洋服の袖で拭き取り垂れ流れた鼻水を啜って電話に出ると、相手は刑事だった。
電話口の野太い声の男性は捜査第一課の刑事だと名乗り淡々とした口調で彼の死を私に告げ、私からも事情を聞きたいから署に来てほしいと言った。

電話を切り急いで最低限の身支度をして、家を飛び出し電車に乗って彼と暮らした町へ向かった。
刑事から電話が来て益々彼の死が現実味を増して、電車に揺られながらさっきの電話でのやりとりを動かない頭でボンヤリ考えていた。
どうして捜査一課なのだろうか。

電話を切ってから捜査一課についてネットで調べてみると、殺人事件などを担当する課だと書いてあった。
彼は自殺したのではなかったのか。
まさか誰かに殺されてしまったのではないか。
もしかして自分が殺人犯だと疑われているのではないか。

考えても考えても謎は深まるばかりでどんどん不安な気持ちは膨らんでいった。駅に着き、彼との思い出で溢れた町を早足で歩きながら何も分からない彼の真相について考えているうちに指定された彼の遺体が運ばれている警察署に到着した。

窓口で要件と名前を伝えると男性二人が現れて、なにやら内線で通話をしながら私の到着を他の誰かに伝えていた。階段を登り正方形の小さなテーブルとパイプイスだけが用意された真っ白で殺風景な部屋に通されて椅子に掛けた刑事がまず口にしたのは彼の遺体状況だった。

彼の遺体が発見されたのは恐らく死後一週間で体内からは覚醒剤やMDMA等の複数の違法薬物やアルコールが大量に検出され、遺体には大量の刺し傷があったらしい。彼が薬物は以前から薬物を使っていたのか、使っていることを知っていたのか、何故同棲解消していたのかと言ったことを聞かれた。

彼が一人で薬物を使っている姿は見たことがなかった。出会う前は一人でケタミンをたまに使っていたことは聞いていたが、付き合うようになってからは私が持っていた大麻を一緒に使うくらいで覚醒剤などを使っている様子は少しも感じられなかった。

それを刑事に伝えるとこれからあなたにも薬物検査を受けてもらいたいと言われ、彼とのLINEのやりとりは全てカメラで撮影された。

薬物検査の結果私は陰性で三時間程度の聴取は終わり、帰り際にまた後日連絡すると伝えられて私は彼の遺体には会えないんですか?と聞くとあなたは会えないと断られもう二度と顔を見れないことを知って悲しくて悔しくてたまらない気持ちになった。

警察署を出て家に帰り鏡を見ると私の目はパンパンに腫れあがってほとんど瞼が開かなくなっていた。いつも辛くて耐えられない気持ちになった時、私が助けを求め連絡する相手はいつも彼だった。

溜まった着信履歴を遡ると一週間前に彼からの最後の着信があり、留守電が入っていた。
一体どんな言葉を残して去っていったのだろうか。生唾を飲み込みスマホを耳に当てるとか細い彼の声が聞こえた。

「ごめんなさい。美月、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。ごめん…」

約一分間の留守番はただただ私に対して今にも泣きそうな声で謝り続けるものだった。
死ぬことを私に懺悔して彼は亡くなっていった。
どれだけ怖かっただろうかと胸が張り裂けそうになり、時間を巻き戻せたら、と声が枯れるまで泣きじゃくった。

もう彼はこの世にいない。
もう一緒に笑い合うこともじゃれ合うことも触れ合うこともケンカすることもできない。
話をすることも話を聞いてもらうことも力になれることももうない。
彼に私が出来ることはもうない。
彼はもうこの世にはいないのだ。

そんな彼の残した遺書を見つけたので「人に忘れられてしまうことが怖い」と言い残した彼の気持ちを尊重してそれを公開したいと思う。


「美月 いつも一緒にいてくれてありがとう何よりも誰よりも一番愛してるよ

こんなの多分2、3日で忘れちゃうと思うよ

ふとさ、幸せを感じるとすごく不安になるよね
俺は手放しで幸せを感じたい

美月とならそれができると思ったんだよね
難しいことがたくさんあることはなんとなく分かってたけど

美月が好きって言ってくれるのすごい嬉しいんだ

こんな信用できないクズのこと好きって笑顔で言ってくれるんだもん

もしかしたらそれもやさしい嘘だったのかもしれないね
美月は1ミリも愛してくれてなんていなかったのかなって思ってた

でも捻くれてるからそれでも嬉しかった

今ね外は少し車が通ってて日も暮れかけて穏やかな平日だよ
ここにしかない日常

だから俺の心も少し穏やか
あったかいっていいよね

これからどんなに寒くなるんだろうね
まだ分からないけど

これ横字だから いろんな本読む美月には読みづらいかな

初めて会った時の事覚えてる?

まあ、そんなに思い出さないでも大丈夫
その時から好きになりかけてたのかな今思うと

楽しかった車で川越に向かってて、本当にこの人実在するのかなって

近くまで来たらいきなりで電話かけてきたの『もしー?今どこー?』っていきなり電話かけてくる人いるんだ!って笑っちゃったよ

でさ、いざ着いてみたらいないの
叩き?悪戯?何何?って勘ぐり回して戒してたら
まさかの反対口だったっていうね

そんな感じだよ
あ、クッキー見せたら秒で食べてたね笑

そのあとは何回も池袋行ったよ
もう美月の住んでたシティホテルはお得意になっちゃった
金は盛大に使ってやったぜ

焼肉美味しかったけど胃もたれしそうだった、

楽しかった

あの狭い部屋で色んなことしたね
毎日起きたらまずプシュって音聞こえるし
そのあとodざんまいしたね
ラリってる美月の目のロンパリ具合好きだった
愛おしかったわ シラフももちろん好きすぎた

そのあとお互い好きになりかけて(美月はどうだったか分からないけどさ笑)
ある朝付き合ってずっと抱き合ってたね
青くさい話で申し訳ない

それから美月の事どんどん知っていって
家がないって分かって死ぬつもりだった俺がいつのまにか美月のおかげでこの子のために頑張って生きてみようって思ったんだ

美月が過ごしやすいように急いで家を首都圏に移して まさかの千葉っていうね
嫌味じゃないけど嫌味っぽいのは許して

引っ越して最初はキツいだろうなって分かってたけどもう少しで楽になるかなって思ってるよ

美月といるとね毎日がドラマティックなんだ

常にトラブルがあってなにかしらイベントが起こるの
こんな日常送ったの初めてだよ!
凄い1日が詰まってて喜怒哀楽様々な心が動くの
だからね、美月のことどんどん好きになってる

一緒にいるのこんなに楽しいの初めて

少しだけ独白させて

仕事はつらいし何やってるんだろうって思う
俺がやりたいのはロックだし
重いものを持つことじゃない
でもね 美月が一緒にいてくれるからこんな重いもの持てなきゃ周りの余計な奴から守ってあげられないなって思うから仕事できちゃうんだ

仕事に行ってる間は心配なんだ
美月ビタミンと朝の薬飲んだかなとか今日は体と心の調子大丈夫かなとかお節介すぎてうざいかなとかでも、しちゃうんだよね好きすぎて

キツい言葉とか怒るとか暴力で美月を変えられることは確かにできると思うでもそんな最低なことしたくもないし
うまく会話の中で話し合いで解決できないかな
って思うんだ
でもそれが多分信用できない理由なのかな
多少嫌味みたいなこと言っちゃったなって時
もあるし
ごめんねってすぐ言っちゃうし

俺ね気付いたんだけどね
美月ってすごく自由に生きてるように見えるんだ
周りは多分そう思ってる

付き合った男の人たちの中で美月の事愛した人達って多分そこに惚れたんじゃないかな
でもね付き合うことで美月の自由を少しずつ奪っていっちゃって、それで心がすれ違ってったんじゃないかな

もちろん他にも理由はあると思うけどね
美月はね 自分に自信がないっていうけど
俺が美月の素晴らしさってものを永久保証してあげる

この世に永遠なんてないのも知ってる でもそれって終わりがくるから永遠じゃなくなるだけだよ

終わりがこなきゃそれは永遠と同じこと

死ぬことについて思うことはね死ぬことは怖いけど痛いだけだから、さほどできないことじゃないんだよ

俺が怖いのは忘れられること それだけ

美月は一人でも生きてけるんだよ
強いからね
ただ、たまに弱くなっちゃうだけだよ
意外かもしれないけど
大抵の人はたまに弱くなるんだよ

だからそんな時は薬じゃなくてお風呂に入って寝るのがいいんだよ

笑っちゃうよねでもそんなもんだよ
見えない何かが不安ならひとつひとつ見つけて
あげればいいんだよ

それだけで自分が悩んでることがこんなこと?ってなるからね

ノートに載せてもいいよ

三流が書いた文だけどね

金のためにならなんでもやるのかとかなんとか言われても 安心してね
そいつら呪いをかけとくから笑

美月のこと大好きだよ
初めて愛を感じれた気がしたよ
ピュアなんかよりももっと単純で純粋な愛をね

ちゃーんと言うけど美月はなんにも悪くないよ
絶対に何も悪くない
俺が美月に信じて貰えなかっただけ ただそれだけなんだよ
大したことじゃないよ男女の話じゃよくある話

心残りがあるとするなら俺はパンクなんかじゃなかったロックですらなかった
ただのファッション野郎最低な負犬

ゆっくり燃え尽きるなら今死んだ方がマシ
そんな言葉壁に描きたかったよ

俺は大罪人だよ 約束ひとつ守れない
だから俺の愛を、美月に愛を証明したい
騙してなんてないってただ、美月に幸せにしたしたかった

もうなにも苦しまないで手放しで幸せを感じて
欲しかった

今の美月なら大丈夫ちゃんと幸せになれるよ
美月が好きなんだよ
愛してるよ」


今読んでも涙が出てきてしまう。
彼は最後まで私のことを想ってくれていたのだ。
彼は最後の最後まで私の心配をしてくれたのだった。

亡くなったあとしばらくは刑事から何故お風呂の電球が切れているのか、など何度か電話で詳しく聞かれたあと何週間かして自殺だという結論に至ってたのか捜査は終了し刑事から連絡が来ることも無くなった。
部屋中は血の海で彼はお風呂場で横たわっていたらしい。

今でも1日たりとも彼のことを忘れることはない。

彼の自殺が発覚した二日後に妊娠検査薬を使ってみると妊娠をしていた。
彼は最後に私にかけがえのない存在を残して去っていった。
妊娠がもっと早くわかっていたら彼は死ぬことはなかったのだろうか。

私は迷うことなく出産することを選んだ。
また彼に会いたかったからだ。

息子は彼ではないが顔はよく似ているし面影がある。
彼に良く似た息子は私にとって何よりも大切な存在だ。息子の表情を見ていると自然に彼の顔が頭に浮かんでくる。
彼は亡くなってしまったたけど確かに生きていたのだと証を残して死んで行った。

これからも彼は私の心で生き続けるし、忘れる日などこないだろう。
彼の写真を現像して手帳に挟んで私は何か行き詰まった時に写真に話しかける。
スピリチュアルは信じない私だけどきっと彼は今生きていたら私を見守り正しい道に導いてくれるはずだ。
だから彼には今でも支えられている。

彼はきっとまだまだ生きていたかったはずだ。
音楽が好きで毎日スピーカーで音楽を流しエレキギターを奏でて歌っていた。
私はその彼の奏でる音や歌が大好きだった。
いつかミュージシャンになると一生懸命音楽を作っている姿を今でも鮮明に覚えている。 

繊細で優しくて責任感のある彼は私には想像もつかないような重圧と絶望と苦しさがあったのだろう。

パンクやロックが好きだった彼はシドやリルピープを崇拝していた。彼の死に方は本当に彼らしい死に様だった。潔くて最後までパンクだった、よく貫いたね、と褒めたい気持ちにすらなってしまう。
もちろん、死んでなんてほしくなかったが。
ただ彼の死に方は普通できることではないし自分のスタイルを突き通したのは彼らしいし私はかっこよかったと思っている。

今彼は自由になれたのだろうか。
死んだことで全てから解放されたのだろうか。
死後の世界のことは分からないが、彼が今寂しい思いをせず苦しむことなく安らかに眠っていることを私は心から祈っている。

彼には沢山助けられてきた。
家のない私に家を用意してくれて養ってくれて
常に安定剤でラリって右も左もわからないような状態の私をどうにかしようと沢山勉強して減薬させてくれて健康面も気遣ってくれた。

眠剤がないと寝れない私にプラネタリウムを買って子守唄を歌ってくれたり、爪をキレイにしたいのきネイルサロンに通えない私のためにスカルプネイルまで勉強して施術してくれたりもした。
少ない給料なのに給料日には私に似合うコスメや香水をプレゼントしてくれた。
メイクが下手な私を見兼ねて化粧の仕方まで教えてくれた。

束縛が目的ではなく私が危険な環境にいたからいつもGPSで見守ってくれて、いつでも連絡をして心配して気遣ってくれていた。
当時は分からなかったけど心から愛してもらっていたのだと彼が居なくなってからそれが痛いほど分かった。

21歳にして亡くなるにはもったいないほど優しくて魅力的で多才な人だった。

そんな彼がいたことをみなさんにも知ってもらいたい。そんな気持ちで今回のnoteは書きました。

彼と出会えて一緒に過ごせて私は本当に幸せでした。そして彼の子供を育てられている奇跡に感謝してます。

そして今でも彼は私の中で生き続けています。

彼と過ごした日々は今でもかけがえのない大切な思い出のまま。

取り止めがなくなってしまいましたが、これで終わりにします。
読んでいただきありがとうございました。

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