
モンテ・クリスト伯感想 29
※ネタバレ含みます。
身を断つ
アルベールは悲壮な決意と共に騎兵隊として旅立ち、ベネデットは牢獄で伯爵からの救いの手を待つ。
ヴィルフォール邸に重ねて降りかかる不幸は、そこで働く者を怯えさせ、全て従者は新顔に変わった。
自分の邸で起きた連続殺人。
ヴィルフォールの心に立ち込める疑惑は、もはや確信に変わり、その断罪の時を決めかねていた。
いかにして我が身を守るか。
ヴィルフォールの心に満ちる自己保身。
それを見透かすようなノワルティエの視線。
散歩中、その父の視線に出会い、検事総長のヴィルフォールが震え上がる。
たまらずヴィルフォールは、バルコニーの父に向かって「必ず」と、その意思の実行を誓う。
ヴィルフォールは翌日、自身の妻に数々の殺人事件の罪を問い、その罪を隠す為に暗に自殺をほのめかす。
震える妻の哀願、嘆願、不可思議な笑み、狂気、そして怒り。
部屋に妻を残し立ち去るヴィルフォールの最後の言葉は「さようなら」だった。
検事である彼にとって、他者の命を左右する宣告は、まるで朝夕のあいさつのようなものなのだ。
それが、我が身を断つまでは。
砕け散る全て
幸福と不幸は表裏一体。
今日が不幸だから、明日も不幸とは限らない。
今日が幸福だから、明日も幸福だとは限らない。
ヴィルフォールの幸福の全ては、いかづちの如き一撃によって砕け散った。
幸福とは幻の別名なのか。
ベネデットの告白で検事の地位を失い、自宅では自らの言葉に従った妻と子の亡骸が転がっている。
その直後モンテ・クリスト伯の正体を知るヴィルフォール。
この一連の流れは、息もつかせぬ怒涛の展開だ。
真実を知ったヴィルフォールは、伯爵を無理やり引き連れ、冷たくなった妻子のいる部屋へと案内する。
見てくれ!これで満足か?
罪を犯したとはいえ母子の亡骸は痛ましい。ヴィルフォールを閉め出し、伯爵は我を忘れて部屋で蘇生術を施す。
子供を返せと扉の外で叫ぶヴィルフォール。
やがて訪れる狂気。
庭へ飛び出したヴィルフォールは、狂気の叫びを上げながらベネデットを探し土を掘り続ける。
自己保身の為に罪を実行した者の結末。
その結末のあまりの残酷さに、復讐を成し遂げた伯爵自身が狼狽する。
ここまでする必要があったのか?
いや、ここまで計画はしていなかった。
不測の事態に狼狽し。
自らの罪を感じる伯爵。
しかし、この結末は全てヴィルフォールの行動が招いた結果だ。
因果応報なのだ。
伯爵の復讐は、赤ん坊を生き埋めにしたことを「暴露」しただけだ。
彼の妻に薬学の知識を僅かばかり授けただけだ。
知識を与えることは罪ではない、その知識で罪を犯した者に罪がある。
刃物を作るものに罪はなく、刃物で犯罪を犯す者に罪があるのと同じだ。
知識や道具に罪は無く、罪は行動した者にある。
誰しも心に悪い計画や、悪い思いつきを持つことはある。しかし、それを踏みとどまり、思い直し、実行しないからこそ、人は人であり続ける事が出来るのだ。
ここから先は
モンテ・クリスト伯感想
モンテ・クリスト伯の感想です。 1巻から7巻まで、感想と個人的な思索をまとめました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?