名曲喫茶にて_20190523
少し前に「無伴奏」という映画を観た。
学園紛争が盛んであった1970年頃を舞台にした恋愛映画なのだけれど、これがわたしはとてもお気に入りである。ありったけの昭和の雰囲気がたまらなく好き。
それで、この「無伴奏」という映画には「無伴奏」というなまえの喫茶店が何度か出てくるのだが、これはただの喫茶店ではなく「クラシックを聴くための喫茶店」。カフェや喫茶店が好きだけれど、わたしはそんな喫茶店に未だ出会ったことがなく、存在もそこで初めて知り、そのカルチャーに軽く衝撃を受けたのを覚えている。
先日、宿の近くに「クラシックを聴くための喫茶店」があることに気づき、これはもう、行かざるを得なかった。街の洋食屋でランチをしたあと、未だ見ぬ存在にどきどきしながら向かった。
玄関を開けると、奥の部屋の手前に空間があり、そこで上着をぬいだり、物音をたててしまう用事を済ませる。「注文の多い料理店」という感じでおもしろい。
そして「お好きな席へ」と通してもらう。
クラシックをたのしむための部屋。私語はもちろん、とにかく静寂にしていなければいけない。書き物の音さえ、注意書きをしているレベル。
そうでないと、この喫茶店である意味がない。
この、席が全て一方向に並んでいるというのは、初見であるとやはり違和感がある。しかしながら、席に座ってひと息ついてしまえば、室内に流れるレコードの、きれいで、あつみのある音に感動することで必死になって、違和感などさして問題ではなかった。
わたしは、ウインナ・コーヒーを頼んだ。
おそらくアルバイターであろう店員は、ここで働くために生まれてきたのでは?と言いたくなるほどの、まあそれはもう、とにかく、その場にふさわしい女性でおどろいてしまう。わたしがいくら頑張ろうが、あの女店員にはなれない。
平日の昼過ぎ。はじめ、わたし以外の客はおらず、勝手がわからなかったのでわたしはとりあえず、バインダーにまとめられている雑記帳を手にとりペラペラめくった。ここの雑記帳は、よくある、来訪者がメッセージを書き寄せていくものだ。
直近では、「2019 5/17」。意外と頻繁には書かれていないようだと思いつつ、さかのぼってみると、常連がなんどもなんども書き込んでいるようだった。そりゃ、通いたくなる。めいいっぱい遡ると、2018が始まりであった。
その一冊を本棚に戻そうとして気づく。数十冊のバインダーやノート。
もしかして?と思い引っ張り出してみれば、「2015」や「2011」、「2008」年の文字。そうと来れば、人間はよく深いので、もっとも古いものを探しはじめる。
「2002」のこのノードが、現在の「雑記帳」の始まりなんだろう。
わたしはこれらを、
延々と、延々と、読み耽った。
人の書く字というものはやはり落ち着く。
筆記がことなる、さまざまなことばに安堵した。
確かにここで誰かが生きていたという跡。
皆、自分の好きに書いているからおもしろい。自分のことや、政治のこと、世の中のこと、クラシックのことから、店への感謝まで、なんでも。ラブレターを読んでいるのと似ている。ページをめくるたびに胸が高鳴った。どきどき。
そしてわたしも書いた。跡の一部になってみた。
文章を書くのは、好きなので。
足を運んだらこっそり探してみてほしい。
「2019 5/23」
そのあとは、読みかけの本を読み進めた。
村上春樹の「アフターダーク」(京都の古書店で買った。100円)。
はじめての村上作品。熱狂的なファンも多い村上春樹だから、さぞかし小難しいのでは…?上級者向けなのでは…?と思って読まず嫌いしていたのだけれど、思っていたよりは読みやすくて、内容も好きだった。あ、オススメがあれば教えてほしいです。
クラシックに浸りながら、のんびり、2時間ほどを過ごした。レコードの、「ふつ…ふつ……」というあの音がここちよくて好きだな。
また、京都に来たら必ず。
冒頭に戻ってしまうけれど、「無伴奏」という映画、気になったらみてみてほしい。池松壮亮がいいんだわこれがまた。璃子ちゃんも可愛い。ぜひとも。
夜遅くになってしまったな〜〜、マイペースにもほどがあるぜ。
おやすみなさい、いい夢を。
aoiasa
- 20190523
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最後までありがとうございました。 〈ねむれない夜を越え、何度もむかえた青い朝〉 そんな忘れぬ朝のため、文章を書き続けています。わたしのために並べたことばが、誰かの、ちょっとした救いや、安らぎになればうれしい。 なんでもない日々の生活を、どうか愛せますように。 aoiasa