【超短編】アブラカタブラ
アブラカタブラの隅っこには、宛てのない絵葉書がころがっていた。
「ただでさえ忙しいというのに」
吐き捨てるように言ったことばは、それほどエキゾチックでもなかった。
アブラカタブラらしくない、と、彼はおもった。
らしくなくても、自分のほんとうの気持ちを言えたのだから、それでいいじゃないか、とも思った。
足を磨き、靴を投げ捨て、頬杖をついたあたりは、耐え難いほどの日陰だった。
「耐え難くってたまるかよ」
耐えてしまうやつがいるから、こんなにつまらない語彙が生まれたのだとも思った。
あくびして、ハミガキの毛先を指で撫でたら、思った以上に軽かった。
アブラカタブラに拾われた絵葉書は、宙を舞って、井戸に消えた。
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