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【超短編】アブラカタブラ

アブラカタブラの隅っこには、宛てのない絵葉書がころがっていた。

「ただでさえ忙しいというのに」

吐き捨てるように言ったことばは、それほどエキゾチックでもなかった。

アブラカタブラらしくない、と、彼はおもった。

らしくなくても、自分のほんとうの気持ちを言えたのだから、それでいいじゃないか、とも思った。

足を磨き、靴を投げ捨て、頬杖をついたあたりは、耐え難いほどの日陰だった。

「耐え難くってたまるかよ」

耐えてしまうやつがいるから、こんなにつまらない語彙が生まれたのだとも思った。

あくびして、ハミガキの毛先を指で撫でたら、思った以上に軽かった。


アブラカタブラに拾われた絵葉書は、宙を舞って、井戸に消えた。



【YouTubeで朗読してます (ここクリックすると動画に飛べます)】





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