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映画「ドリーム・シナリオ」感想

 この作品を知ったのは9月ごろだったかな。アリアスターが関わってる作品だと聞いて、絶対見るリストに入れていた。予告編を見て、みんなが同じ男の夢を見るという話が面白かった。ただ、アリアスターが関わっている以上、ボーのようなわけ分からん話かもしれない。

 ごちゃごちゃ言っても、見に行かないと言う選択肢もないので、気合を入れて見にいってきた。

あらすじ

ごく普通の暮らしをしている大学教授の
ポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)。
ある日、何百万という人々の夢の中に
一斉にポールが現れ、一躍有名人に。

人々にもてはやされ、
メディアの注目を集め、
夢だった本の出版まで持ちかけられ、
ポールは天にも昇る気持ちだった。

しかし、そんな夢のような日々は
突然終わりを告げる。

夢の中のポールが様々な悪事を働くようになり、
現実世界で大炎上。
その人気は一転、
ポールは一気に嫌われ者になり、
悪夢のような日常が始まる。

何もしていないのに人気絶頂を迎え、
何もしていないのに大炎上したポールの運命はー!?

公式HPより

 なんかもう全部書いてあるよねここに。

感想

 あらすじにあるように、夢によって人気者になったおっさんが調子に乗った末、転落していく話。

 面白かった。常人でも理解できた。主人公の調子の乗り方とか、イタイ行動とか、色々見ていて辛いところがあったんだけど、それがあるからこそ後半の転落っぷりがいい塩梅になるので、それはそれで仕方ないのかな。

 アリ・アスターが関わっているとは思えないほどわかりやすかった。日本語のクレジットには「制作」って書いてあるから、どうか関わってるのかもよくわからないけど、少なくともこれまでの3作みたいな監督として全部にガッツリ関わってるわけじゃないんだろうね。その方がわかりやすいっていうのも何だかなあという気がするけど。監督が別にいるんだから、その人をもっと前に出したほうがいいんだろうけど、日本ではアリ・アスターが有名だから仕方ないか。まあ、それはいいとして。

 この映画は、夢というコントロール不能な現象に右往左往させられる話なんだよね。自分がコントロールできないのだから、無視しておくのが一番無難なんだけど、主人公はそれができなかった。(もちろん、映画の主人公なんだから無視することはできないんだけど)だから酷い目にあうというお話。

自己評価が高すぎる主人公ポール

 主人公ポールは大学の教授でぱっとしないおっさん。頭がハゲあがっていて、まあまあ太っていて、大して面白くもなさそうな授業をするぱっとしないおっさん。だけど、ポールは自己評価が他人の評価より高いんだろうね。思っているより高い。もっと自分は評価されるべきだと思ってるのかもしれない。だから、夢というコントロール不能な現象によって、自分が認められたことを当然のように思ってしまった。やっと見つけてもらえたと思ったのかもしれない。

 テレビのインタビューのシーンで、この現象の原因を問われたポールが、「自分が特別だったのでしょう」と答えていたシーンが印象的だった。

 ポールは自己評価が高い割にただの平凡なおっさん。家族に自分を大きく見せようとして疎まれているおっさん。研究をパクられた時も、相手はすでに論文にしているのに、ポールは本にしたいと思っていたと言うのみ。原稿すら書いておらず、頭の中で構想を練っているだけ。そんなワナビーみたいな状況では相手に強く出られるはずもない。無事研究はパクられた。

 元恋人との会話もそう。相手が自分に気があるものだと思い込んでいる。自己評価が高いものだから、相手がまだ自分のことを思っていて、ワンチャンあるのかもしれないと期待してしまっている。もちろん、相手には全くその気はなくコラムのネタにしたいだけだった。

アンコントローラブルな夢

 夢は制御できない。自分の夢ならどうにかできる可能性はあるが、それが他人の夢ならどうしようもない。だから、ポールが多数の他人の夢に勝手に登場したとしても、それは誰の手柄でもない。ヒーローでもない。自然現象のようなもの。それだけど、ポールはそのミームに乗ってしまった。自分に注目が集まることが嬉しくなってしまったから。

 ポールは何もしていない。ただただ偶然のめぐり合わせで世間の注目が集まってしまっただけ。だけど、ポールは調子に乗ってしまった。称賛を受け取ってしまった。偶然によって得たチャンスで何者かになろうとした。だから、偶然の逆噴射が始まった時、夢が悪夢に変わった時、ポールはその影響をモロに受け止めて転落してしまう。

 夢は制御できないのだから、悪夢だったとしても本来は無関係なものだ。だけど、世間は称賛だけ受け取ることを許さない。いいとこ取りはダメってこと。悪評もポールは背負わなくてはいけなくなった。

理不尽映画なのか?

 この映画、理不尽と言われている。たしかに起こった現象に関して理不尽だとは思う。理不尽ではあるんだけど、それの受け止め方は完全にポールが悪かったので、思ったほどには理不尽感はないんだよね。調子に乗った罰が下ったように見える。

 冷静に考えて、ポールみたいなおっさんが若くて可愛い女とワンチャンやれるチャンスがあるわけがない。しかし、ポールはそれがあり得ると、自分がそれに値する人間なのだと思っていた。そういった様々なおごりが跳ね返ってきて、痛い目に遭うことはそんなに理不尽とは思えない。

アリ・アスター感

 最初の方にみんなが見ているポールが出てくるだけの夢の、意味不明さというか、不気味だけどなんか変な感じというのが、アリ・アスター感を感じた。逆に悪夢に変わったあとはそれを感じなかった。

おわりに

 平凡な男が偶然舞い込んだチャンスに欲を出した瞬間梯子を外される。ストーリーを見ればそれだけの映画なのだけれど、言葉では表せない、味わいがある映画だったと思う。これが若い男だったら面白くはならないと思う。あのおっさんだからこその味わいなんだろうね。

 あと、後半に出てくるあの変なマシンは何だったんだろう。すごい唐突。あのエンディングに至るための必要な舞台装置ではあるんだけど、いきなりすぎてびっくりしたよね。もうちょっと活用されるようななにかだったのかなあ。

 アリ・アスター感は薄いとは思うけど、誰でも楽しめる面白い映画なのでオススメです。



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