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幽霊よ、生きた人間を舐めるな | 映画「サユリ」感想

 2024年夏のホラー3本目。原作は未読。押切蓮介作品は「でろでろ」から読んでるので割と知ってる方だと思う。とりあえず、押切作品だから、幽霊ぶん殴ってぶちのめすような映画だと予想していた。しかも監督が、「コワすぎ」の白石晃士監督なんだから、もう逆に幽霊の命(?)が危ないんじゃないか。幽霊が鉄バットでボコボコにされかねない。それぐらい幽霊不利な布陣。

 まあ、とにかく、この組み合わせの映画を見に行かない理由がない。それぐらい楽しみな作品だったわけだね。

あらすじ

神木家は、夢のマイホームへと引っ越してきた。父親の昭雄(梶原善)が郊外にある中古の一軒家を購入したのだ。

高校に通う快活な長女・径子(森田想)は自室を持てることを喜び、中学3年の長男・則雄(南出凌嘉)はバルコニーからの景色を眺め、新生活にワクワクした。が、小学5年生で怖がりの弟・俊(猪股怜生)だけは何かを感じ、不安な気持ちだった。

別居していた祖父母、章造(きたろう)と春枝(根岸季衣)も一緒に暮らすことになったのだが、春枝は認知症が進んでおり、引っ越し早々、径子とその母親の正子(占部房子)を間違えたり、ひたすらある一点を見つめ続けてしまったり。

則雄は学校で隣のクラスの女生徒、初対面の住田(近藤華)に突如「気をつけて」と話しかけられ困惑する。住田には霊感があるようだ。すると理不尽な出来事が神木家を襲っていく。弟思いの径子が俊に暴力を振るい、翌日には父の昭雄が死んだ。連鎖するように、祖父の章造も──。

しばらく登校しない則雄を心配した住田が訪れ、忠告した。「あの家、早く出て行って! 出ていかないとみんな……」。彼女の言葉通りに家では則雄の目の前で、弟、姉、母親が次々と怪死を遂げてゆく。

追い詰められ、テーブルの下に隠れるも怯えたままパニック状態の則雄。すると、不気味な笑い声とともに、謎の少女が近づいてきた。そこに現れ、救ってくれたのはすっかりボケていたはずの、春枝ばあちゃんであった。
「夢じゃなかったか。すっかり目が覚めてしまったわい。みんな死んだんか?」
「なんやチラチラ見えとったアレが、全部やりおったか?」


そして意気消沈した則雄に発破をかけ、ばあちゃんは「残されたワシらに何ができる?」と問い、さらにこう雄叫びを上げたのだ。
「いいか。ワシら二人で、さっきのアレを、地獄送りにしてやるんじゃ! 復讐じゃあ!!!!」

公式HPより

 ちょっと書きすぎじゃね? でももう公式でここまで書いてあるんだから、ほとんどネタバレじゃないって感じがする。一家が地獄のどん底に落とされるまでは前フリで、ばあちゃんが覚醒してからが本番ってことね。だから、ここまでは大丈夫って判断なんだろうか。

感想

 本当に良かった。面白かった。前半はちゃんとホラーしてたし、怖かった。そして後半はジャンルが丸っと変わって復讐劇。結末もちゃんと解決して、スカッとした感じで終わるのが良かったね。

 今のところ今年マイベスト5に入るぐらいには好きな映画だった。(今のところミッシングとルックバック選出)

前半はよくある家ホラーだが……

 引っ越してひどい目にあう家ホラー的展開で進んでいくんだよね。あらすじにもあるけど、引越し先の家で次々にヤバそうなことが起こって、ついに犠牲者が出る。一人死ぬと後は本当に早い。あっという間に、次々と幽霊に殺されていく。もう幽霊が殺すような殺し方じゃないよね。殺人鬼が殺すような殺し方。幽霊強すぎる。勝てるのかって感じがする。

 なんかね、この家族が壊されるのが結構辛いんだよね。最初の状態が、家族が揃っていた状態が、ものすごい理想的な家族像として描かれていたから、ここから死人が出て、どんどん家族が壊されていくのが本当に嫌な感じなんだよね。あと弟くんがすごい可愛いのよ。可愛すぎて可愛すぎて、ホントに彼だけは死なないで欲しかった🥺

 この家族が殺し尽くされるところが本当に絶望状態で、このまま全滅バッドエンドに突入してもおかしくなかった。主人公の典雄以外はもういない。終わってる。どうしようもない。詰んでる状況。幽霊が圧倒的に強かったんだよね。

ばあちゃん覚醒

 ばあちゃんは最初からボケていた。ずっとボケっぱなしだった。幽霊どころか一人で歩くことすらおぼつかない感じだった。まるで戦力外なわけだけど、幽霊の存在には気づいていた。昔は合気道の達人とのことなので、何か感覚が鋭いのかもしれないね。ばあちゃんはボケてるが故に幽霊から存在を無視されてたのかもしれないね。

 そのばあちゃんが典雄が絶体絶命の状況で覚醒する。完全に正気を取り戻す。ものすごい形相で、家族を皆殺しにした幽霊に復讐を始めることを宣言する。

 ここからのばあちゃんの存在が頼もしすぎる。今が全盛期と思わせるような力強さ、たくましさ、声の張り、この人絶対強いと確信できる。タバコを吹かす姿がただものじゃない。このばあちゃんが幽霊なんぞに負けるビジョンが見えない。

 例えるなら、幽遊白書の幻海(古い)みたいな感じだよね。強すぎるばあさんだし、主人公の師匠ポジだし、イメージとしては似ていると思う。ハンターだとビスケになるけど、あれは見た目が若すぎるからダメだね。

 さて、このばあちゃんが本当にいい。今までの鬱憤を晴らすように大暴れ。かっこ良すぎる。幽霊どころか関係ない霊媒師もぶっ飛ばす。爺さんのかっこいいキャラっていっぱいいるけど、婆さんのかっこいいキャラってマジでいないよね。この映画のばあちゃんがベストワンに入る勢い。完全に主人公の典雄を食ってしまってる強さと、行動力で、典雄を鍛え上げ、その上、幽霊の復習する方法を一人で用意してしまう。

主人公の青春物語でもある

 高校生の典雄は引っ越した当初から、同級生の霊感のある女の子、住田に心配されていた。引越し先の家がヤバそうだと心配されて、何度も交流を続けていた。典雄の家族が次々に死んでいく中でもイチャイチャしてやがる。どんな状況でも青春しやがってけしからんね。

 復讐のために典雄はばあちゃんの指導で鍛えられる。たくさん飯を食って修行する。少年マンガの修行みたいだ。マンガ原作だけど。

 典雄が修行をしている頃には、もう二人は恋人だろってレベルの仲の良さ。住田は典雄を心配して、幽霊がいるヤバい家にもやってくるし、お互い好き合っていて結構なことです。そのおかげて、住田は幽霊にさらわれてしまうんだけどね。

 典雄は復讐をするだけではなく、住田を助けるためにも幽霊と戦う理由ができる。そういうのがないと全部ばあちゃんに食われちゃうから、主人公としての役割が必要ってことなんだろうね。

復讐

 ばあちゃんが復讐の準備を整えると、幽霊との戦いが始まる。この復讐っていうのが、え、そうなるんだって感じで予想外だったね。それと案外生々しく暴力的でビビってしまったよね。マジか……って感じがした。

 そして、どういう理屈かはわからないけど、ここで幽霊の記憶を見ることになる。その結果、幽霊は には幽霊になるだけの悲しい理由があった、ということになる。確かにそんな酷いことになれば、恨みもするし、皆殺し幽霊にもなるだろうって感じがする。

 だけど、どんな理由があれ、仲のいい家族を皆殺しにして、無茶苦茶にすることを正当化できないよね。どんな悲しい存在だとしても、あの幽霊は地獄送りにするべきなんだ。それぐらいの邪悪だと思う。

 だから、最後、幽霊も救われた感じがするのは、少しモヤモヤした感じがあるよね。もちろん元凶を作ったカスどもは報いを受けだんだけど。失われた家族は帰ってこない。あの可愛い弟くんだけでも返せ😡

幽霊との戦い

 幽霊と戦うっていってもなかなか難しいよね。幽霊には実態がないし、なんか霊媒師的な存在だと、なんかよくわからない祈祷とか、御札とか、ありがたいものを使って戦ったりするけど、なんでそれが効くのかってのがいまいちピンとこない。

 押切作品だとなぜか物理的に殴ったりできる。それでブチのめすのが新しかったりしたんだけど、まあ、よくわからないのは一緒。なんで実態がない存在を殴れるのかって。でも、霊媒師が戦うよりは分かりやすいし、殴って倒すというのは単純に気持ちがいい。

 そういった点において、この作品の幽霊との戦いは人間の生の力をぶつける。死んだやつに生きてる人間の力をぶつける。死んだやつより生きてるやつのほうが強いに決まってる。だから、生を濃くして立ち向かえばいい。非常にシンプルな理屈だよね。

 生きてる人間が幽霊なんぞに負けるか! 人間を舐めるな! こういうばあちゃんのメンタルが最高にかっこいいよね。

おわりに

 とにかく、ばあちゃんの映画だったね。ばあちゃんの圧倒的存在感。たのもしさ。ばあちゃんに任せれば大丈夫って安心感。まさにばあちゃん無双といった感じなのだろうね。

 それゆえに、エンディングでばあちゃんが元に戻ってまたボケちゃったのは悲しかった。が、典雄のピンチがあればまた覚醒するって感じなので、ボケたことがそんな悲観的な描かれ方はしていなかったのが救いだね。

 典雄は住田助けることができて、最後にちゃんとくっついたので、絶望からの大逆転グッドエンドって感じなんだけど、やっぱりねえ、家族が皆殺しにされたのが救いがなさすぎるんだよね。その点はどうしようもないんだけど、人生ってのは全てがうまくいくもんじゃねえってことで納得するしかねえ。

 いい映画でした。これから原作読みます。

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