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映画「侍タイムスリッパー」感想

 この映画、最近まで全然知らなかったんだけど、Twitter(Xとは呼ばない派)で面白いって言われてるのを見かけた。公式サイトで予告編を見ると、なるほど面白そうだ。見てみたい。しかし、どうやら自主制作映らしい。そういう規模の小さい映画ってどうせ都会でしか上映しないし、残念ながら自分には関係ないかな。そう思っていたら、ちょうど上映を全国に拡大するらしく、幸運にも最寄りの映画館で上映予定になっていた。これは運命だろうということで、初日に映画館へ突撃した。

 ちなみに好きな時代劇は「壬生義士伝」です。映画も原作も見てます。時代劇はそんなに詳しくないけどね。

あらすじ

時は幕末、京の夜。

会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。

「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。

名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。

やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。

新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、

守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。

一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ

少しずつ元気を取り戻していく。

やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、

新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。

公式HPより

感想

 そんなに期待をして見に行ったわけではなかったんだよね。侍が現代にタイムスリップするって話は、珍しいわけでも新規性があるわけでもない。侍が現代に来て斬られ役になるっていうのはちょっと面白いけど、めちゃくちゃすごいアイディアってわけでもない。予告編を見た感じではコメディータッチだったから、「ちょっと笑えて2時間退屈しないような映画だったらいいなあ」というテンションで見に行ったわけだね。

 結果、めちゃくちゃ面白かった。今年一番と言っても過言じゃないぐらい。自分の好きなポイントにがっちりハマった。期待値が低かったからギャップで面白かったと思えたんじゃないの?って疑問には明確にNOといえる。映画を見終わった後の満足感が半端なかった。スタッフロールが流れてきた時に、「ああ、いい映画見たなあ」って感覚、間違いなく今年の中でトップ。ホント見に行って良かったと思う映画だった。

主人公の設定の良さ

 物語は会津藩の高坂新左衛門が長州藩士を暗殺しようとするところから始まる。暗殺というとヤバいヤツに思えるけども、当時の武士は藩命に逆らうなんてありえないだろうし、幕末はそれぐらい物騒な世の中だったんだろう。高坂が長州藩士と戦っている最中、雨が降ってきて、雷が鳴り響き、雷に打たれてしまう。そして、気がつくと現代へタイムスリップしていた。そこで時代劇の撮影を行なっていたから、時代劇の撮影に関わるようになった。

 主人公の高坂新左衛門、すごい無口で純朴な感じで、ハッキリ言えば地味なんだけど、この映画には合ってるんだよね。剣の腕はあって強いし、渋くてカッコいい。もし高坂が派手な目立ちたがり屋だったら、たぶん斬られ役にはならない。むしろ主役になりたがったり、大事件起こしたりするだろうね。地味な高坂だからこその物語なんだよね。

 僕がこの映画を一言で表すなら、「タイムスリップした侍が現代日本の社会を受け入れ、受け入れられるまでの物語」とするかな。

 良かった点として、高坂が記憶喪失という設定を貫き通していて、自分がタイムスリップしてきたことを話さないことだよね。もし、よく喋るタイプだったら、普通に誰かに相談しちゃったと思うし、そうなると、現代人にとってタイムトラベラーは特別な人間になっちゃう。この物語は現代にやってきた侍が一人の人間として必死に足掻く話なんだと思う。だから、特別な人間ではダメなんだろうね。

帰ろうとしないところがいい

 高坂は早い段階で江戸時代に戻ることを諦めている。タイムスリップした原因は雷に打たれた以上のことはわからないし、自分から雷に打たれるなんてできない。だから、帰ることを諦めて、斬られ役になることで、現代日本に適応しようとした。これが帰ることを目的に動いていたら、SFじみた話になるんだろうけど、そういう話だったら僕は好きにならなかったと思う。

 高坂は帰ることを諦めたんだけど、だけど納得はできてなかったんだと思う。高坂は会津藩だから旧幕府軍。自分がいない間に江戸幕府が滅亡してしまった。自分は藩命を果たさず現代に来てしまった。そして会津藩は戊辰戦争で大変な目に遭った。だから、映画の中ではそこまで描写はなかったけど、藩の仲間たちに対して、後ろめたさや、後悔みたいなのが大きく燻っていたんだろうね。

 そういう気持ちを抱えつつ、現代に適応しようとがんばってるところが好感が持てるし応援できるし、どうなるんだろうって見守ってしまうんだよね。

ライバルの存在

 ネタバレタグ付けてあるんで全部書くけど、最初に高坂と戦った長州藩士も雷に打たれ現代にタイムスリップしてる。それも、高坂の三十年前にタイムスリップして、高坂の来た時代では時代劇出身の大物俳優になってるんだよね。この風見が高坂が斬られ役をやっていることに気づいて、近づいてきて、一緒に映画に出演することになる。

 風見が出てくることは全く予想外で驚いたよね。(勘のいい人は気づいてると思うけど)高坂にとって風見は唯一の同士。江戸時代から来た仲間。しかも、風見は五十代か六十代ぐらいになってて、高坂より全然年上になってる。だから、人間的にものすごい成熟して余裕がある。現代の日本にも適応している。頼りになる先輩なんだけど、高坂にとってはそんな単純なものではない。

 風見は江戸時代では敵同士だったし、殺し合いもした。しかも、風見の長州藩は新政府軍側で徳川幕府を滅ぼした存在。割り切れないんだよね。簡単じゃない。だから、高坂は仲良くはできない。

 この二人の関係がものすごくいいよね。風見を高坂の三十年前にタイムスリップさせたアイディアはめちゃくちゃ効いてるよね。同じ年齢でタイムスリップさせてたら、この話にはならなかったもん。すごい。

安易に恋愛に流れないのがいい

 高坂は優子っていう、名前通り優しくしてくれる助監督に想いを寄せている。なんの縁のない世界に飛ばされてきて、親切にしてくれる人がいれば頼ってしまうし、それが恋愛になってしまうのも無理はない。だけど、高坂は超奥手なので気持ちを伝えることもなく、映画内では優子との恋愛に発展することはなかった。

 これがお金かけて作られた日本映画なら間違いなく恋愛に発展してるんだよね。今まで散々見せられてきたし。だけど、ここで恋愛要素が入ってくると、最後の高坂と風見の決闘はおそらく別の形になっていたと思う。そうなったらもう終わりだよね。あの決闘は、純粋に高坂が抱える割り切れない気持ちに決着をつけるためにあるべきで、恋愛要素によって邪魔されちゃいけないと思うんだ。

 だから、高坂と優子の距離感がすごいちょうど良かったよね。

最後の決闘がバチクソ熱い

 そして、この映画最後の見せ場、高坂と風見による真剣、本身による撮影。ガチンコの決闘。

 僕は、高坂が斬られ役として上手くいき始めたあと、「この映画はどんな形で終わるんだろう?」って疑問があった。江戸時代へ帰る展開もなさそうだし、生活も軌道に乗り始めている。特にトラブルが起きそうな伏線もなさそう。じゃあどうやってこの映画は終わりに向かうんだろう。そういう疑問があった。

 だけど、中盤になって突然風見との再会、映画撮影が始まり、そしてラストは、最初と対をなす高坂と風見の決闘。こんな激アツな展開があるだろうか。カッコ良すぎて胸が熱くなった。

 二人が動き出すまでの長い長い静止時間。ものすごい緊張感で、いつ動き出すかスクリーンを凝視してしまった。そして動き出してからの、刀と刀のぶつかり合い。見ているこっちが怖くなる。刀の鍔迫り合いとか、これちょっと力の入れ方がズレるだけで腕とか指とか簡単に切り落としそうだよな。それぐらいの戦い。殺し合いなんだという凄みがある。

 高坂が溜め込んできた感情を爆発させたようなシーンだったね。江戸時代からのタイムスリップという、どうしようもない理不尽に対する怒りとでもいうのかな。徳川幕府や会津藩に対する未練や後悔。江戸時代では敵だった風見と長州藩。色んな感情全部ひっくるめて、敵として風見に引き受けてもらうしかなかった。現代の風見は全く悪くないけど、高坂は風見にぶつけるしかなかったんだろうね。

 本当に熱くていいシーンだったね。

おわりに

 これだけ文章を書いても、この映画の魅力を伝えられている気がしない。それは僕の文章が下手なので仕方がない。面白さは見ればわかるから、見てない人は一秒でも早く映画館へGOしよう。

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