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小説「深淵のテレパス」感想
Twitter(Xとは呼ばない派)でオカルトエンタメ大学のアカウントがおすすめしてたんだよね。この小説。AmazonのKindleのトップページでもなんかこの小説をプッシュしてて、ちょっと興味を惹かれて読んでみようかとなった。
あらすじ
「変な怪談を聞きに行きませんか?」
会社の部下に誘われた大学のオカルト研究会のイベントでとある怪談を聞いた日を境に、高山カレンの日常は怪現象に蝕まれることとなる。暗闇から響く湿り気のある異音、ドブ川のような異臭、足跡の形をした汚水──あの時聞いた“変な怪談”をなぞるかのような現象に追い詰められたカレンは、藁にもすがる思いで「あしや超常現象調査」の二人組に助けを求めるが……選考委員絶賛、創元ホラー長編賞受賞作。
特設サイトまであるんだね。出版社もかなり推してる作品のようで。
感想
面白い作品だったと思う。ボクは小説を読むがすごい遅いので、そのうち存在を忘れたりして、途中で読むのをやめてしまうことが多いんだけど、これは一週間以内で読めた。それぐらいには面白い作品だった。
暗くしていると襲われる心霊現象。ドブの臭いがする水が出現する。光に弱い怪異。消える被害者。過去にも多数の被害。怪談会から始まる怪異。それがどう繋がっていくのか。面白かったね。YouTuberのチームも霊能者とか出てこなくて、安易な展開にはならずによかったんじゃないかな。キャラクターは晴子だけがちょっと目立ち過ぎてた感じはするけど。
心霊調査もの
一言で表現するなら、この作品は『心霊調査もの』だと思う。ゴーストバスターズのような『お化け退治もの』と違うのは、そもそも倒すべき相手がいないという点だろうか。箇条書きで心霊調査ものの特徴を書いてみよう。
(登場人物の視点から見ると)問題の現象が幽霊が原因とは確定していない
現象の解決を目的とする
霊能力者が特殊能力で調査するのではなく、科学的、論理的に調査をする
人為的、動物、自然現象を可能性から排除しない
まあ、別に定義があるわけじゃないので、ボクが適当に思いついたのを書いただけなんだけど、要するに、現代人的な感覚に寄り添った作品なんじゃないかと思う。
例えば、ポルターガイスト現象に悩まされる人がいたとする。『お化け退治もの』だったら、霊能力者が出てきて特殊能力を使い早々に「子供の幽霊が原因です」と確定しちゃう。そこからは、幽霊を祓ったり、退治するフェーズに移行する。これが『心霊調査もの』だと、カメラや各種センサーなんかを使って、観測して、まず、何が起こっているのかを確認しようとする。簡単に原因を確定できないし、退治するなんてことにもならない。
現代的な心霊調査
この作品は怪談会を見に行った人が心霊現象に見舞われ、怪異調査系YouTuberに助けを求めるところから物語が始まる。何とも現代的な話だよね。まず、怪談会ってのがもう今を切り取った感じがする。大学のオカルト系サークルが怪談会を開いているなんて、局所的(コロナ禍によるYouTube人気によって)に怪談が流行ってる今しかないんじゃないかな。
心霊現象に悩まされてる人がYouTuberに助けを求めるって言うのも今の話って感じがする。少し前なら誰に相談するんだろう? テレビとか雑誌とかメディアを頼るのかな。それがダメなら、人伝に霊能者を紹介してもらうとか。なんにしても、怪談会とYouTuberという二つのキーワードで一気に2020年代の話になったよね。
超常現象はショボい
小説内で何度も言及されているけれど、幽霊が仮にいたとしても、それが現実に与えられる影響は微々たるものでしかない。つまりショボい。超能力者も出てくるんだけど、彼らの能力もショボい。大したことがない。世の中に与えられるインパクトは少ない。能力で心霊現象を解決できたりするわけじゃない。
この価値観はすごい好きかもしれない。科学では割り切れない現象はあるかもしれないけれど、それがあったとしてもショボい。科学の方が強い。人間の力の方が強い。いいよね。そういうの。
旧日本軍やナチスという便利な悪役
ここからちょっとだけネタバレ。この小説の背景には旧日本軍が関わっている。オカルト系ではよくあるヤツだよね。旧日本軍が秘密裏に何とか実験をやっていたとかいうやつ。同様のパターンにナチスが使われることも多い。ナチスの残党が今も生き残っていて、とか設定はもう散々擦り倒されているよね。
便利な悪役なんだよね。まだ明らかになってない非道な実験とかやってそうだし。財宝隠していそうだし。悪役にしても誰からも怒られない。怒られにくい。反感も買いにくい。それ故に、旧日本軍やナチスは散々悪役にされてきたし、これからもされるんだろうね。別にそれが悪いってわけじゃないんだけど、多少食傷気味ではあるよね。
で、この小説でも旧日本軍の秘密実験が関わってくるわけだけど、どうなんだろうね。確かに、この作品の怪異にある程度の整合性をつけて説明できるようにしようと思ったら、かなり難しいし、旧日本軍みたいな奥の手を使うと簡単なんだけど、どうなんだろうね。個人的にはよくある旧日本軍ルートではなく、もっと別の面白い何かが欲しかったな。
おわりに
旧日本軍の部分はちょっと引っかかったんだけど、全体的にとても面白い作品だったと思う。続編が出たら読むと思うし。オカルト系が好きな人にはオススメの小説です。