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Stjomulaus Nott

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眠れない夜。包み込んでくる夜陰。 でもそれは怖いことじゃない。 時にうずくまり、時に手を伸ばし、時に思考を巡らせる。私を形づくる大切な時間。
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#日々雑記

神でなく人にこそ

神でなく人にこそ

太陽の下では癒されない傷を、夜の闇なら包み込むなんてまやかしだ。すべてを白く染めて隠してしまう雪と同じく、闇はその黒の中に傷を隠すにすぎない。

視界から隠れ、自らでさえ見えなくなっても、痛みは鋭く、時に鈍く神経を伝う。そこになおも痛みの元凶が居座ることを愚直なまでに主張する。

闇の中に誰かがいること。だから不安。
あるいは誰もいないこと。だから不安。
頼りとなる人が寄り添うこと。だから安心。

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家路を辿る

家路を辿る

日の暮れかけた歩道脇の駐車場で、兄妹が縄跳びの練習をしている。交互にひとつの縄跳びを使い、二重跳びの回数を競っているらしい。歳のころは中学、いや小学校の高学年くらいだろうか。

順調に回数を重ねられる兄に対し、妹の旗色はすこぶる悪い。跳べて四回、いや三回。一度の挑戦で毎回、十数回を跳ぶ兄とは比べるべくもない。

喧嘩にならなければいいけど。
そんな風に思っていると、そのうち妹は片手に両方の持ち手を

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選手宣誓

選手宣誓

新たに出会った病のせいで、私の生活も気づくと大きく変わってしまった。
毎日をのんべんだらりと暮らしていると、世界はすぐに私を置いていこうとする。
もしかしたら置いていかれても困らないかもしれないが、なんだかあわてて情報を得ようとパタパタともがいてみる。

だいたいが、あわてて情報を「もっともっと」と欲しがる時点で、すでに負けているのだ。
泥縄とはよく言ったもので、勝負はすでについている。
それなら

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記念日

記念日

今日は結婚記念日。
結婚というイベントは瞬間だけど、
そこへ向かい、そこから続く日々は生活そのもの。

振り返るとなんてことない出来事ばかりで、
だからといって代替なんてきかないことばかり。
お互いにお互いだったから、こうなった。
そんな当たり前の特別ばかりだと思う。

たかが13年。偉そうな格言なんてありえない。
されど13年。積み重ねてきた大切な時間。

当たり前で流れていきそうな時間や感情が

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名医かもしれない

名医かもしれない

下が110、上が180。

いずれかの数値を血圧が超えると、バリウム検査は危険だから受けられないそうな。今日、初めて知った。

教えてくれたのは若いお医者さん。
話しながらもこちらは見ない。
途中話す内容に間違いがあったり。
看護師さんに修正を受ける始末。

こちらに興味がないんだろうなぁ。
そりゃそうか。他人のおじさんがどうでも、別にどうでもいいだろうし。
妙に納得してしまい、聞きそびれたことが

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なんで書くの?

なんで書くの?

敬愛するアーティストさんが、
何故歌うのかを再確認したとつぶやいた。

自分そのものを表現するため。
どこかの誰かに何かを届けるため。
そもそも自分が何者かを見つけるため。
きっと千の表現者には、千の理由があるのだろう。

私が書く理由はなんだろう。
昔は「読む人を応援したい」と言った記憶がある。
書くことで伝え、伝えることで応援したい、と。

若造が何を、と今はまず思ってしまう。
思ってしまう、

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夜の散歩

夜の散歩

寒くなると、夜の散歩に出たくなる。
あたたかな服を着て、
でも今の季節ならコートは不要。

イヤホンを耳に挿して、鍵をかける。
夜にぴったりな、お気に入りのアーティスト。
彼女の歌声に身を委ねて歩を進める。

行き先は何処でもいい。
どうせ勝手知ったるご近所の道。
脚の向くまま、メロディにのせて。

とはいえ昼ならなんてない道にも、
そっと夜陰が広がる。

ちょっと気持ちがざわざわしたら、
遠慮な

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夜中

夜中

子供のころは夜中に目が覚めると不安だった。
自分がいるべきでない時間。そこに来てしまった居心地の悪さ。恐れ。それらを感じ、あわてて布団に潜り込んだことを思い出す。
夜中は実にわかりやすい異界であり、禁忌だった。

今はどうだろう。
真っ暗な室内でふと目覚め、またかと煩わしさを感じる。朝まで一飛びに行き着きたいのに。寝返りをうち、目を閉じる。朝まであと何時間寝られるだろうかと計算しながら。この場合、

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声の温度

声の温度

受験のころ。ラジオが相棒だった。

トーク番組に笑ったり。音楽番組で新しい曲に出会ったり。芸能人のコラボにわくわくしたり。家人も寝静まった深夜。静寂を紛らわしてくれた存在だった。今にして思えば勉強の妨げではあったかも。

今ではラジオはスマホを通じてテレワークの相棒になった。さすがにトーク番組は仕事効率下げるので、音楽専門チャンネルに。

SNSのトーク機能はまだまだ初心者。話すことはおろか、部屋

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