見出し画像

夜中

子供のころは夜中に目が覚めると不安だった。
自分がいるべきでない時間。そこに来てしまった居心地の悪さ。恐れ。それらを感じ、あわてて布団に潜り込んだことを思い出す。
夜中は実にわかりやすい異界であり、禁忌だった。

今はどうだろう。
真っ暗な室内でふと目覚め、またかと煩わしさを感じる。朝まで一飛びに行き着きたいのに。寝返りをうち、目を閉じる。朝まであと何時間寝られるだろうかと計算しながら。この場合、昼と夜は延長上にある、ある意味同じものと受け止めている。

一方で今のように、妙に落ち着いてしまうこともある。そんな時は思考は取り止めもなく、不規則かつ自由に飛びまわっていく。そう、子供たちを金色の粉で夜の空へ誘う、あのティンクのように。

膨大な情報や状況の大波が休まず襲来し、それらを無意識に捌き続ける。その中に自分にとっての珠玉があっても気づかないこともあるだろう。それほどに巨大な荒波の中を、誰しもが半ば強制的に泳がされている。だからこそ、夜中は貴重なのかもしれない。

夜中の闇の中で反芻を始めてみよう。
それが不安や恐れの種になることもあるかもしれない。だが同時に、それこそグルグルと回り続ける日常という不安から、飛び出すためのエンジンになるかもしれない。明日の朝を昨日の朝とは別のものに変えるチカラかもしれない。

大人になったいま。夜中は不安と恐怖が渦巻く異界ではなくなった。それが良いことか、悪いことかは知らないけれど、重たくなったあたまやこころを、そっと黙って包んでくれる夜中の闇を、子供のころよりは好ましく、温かく感じる自分がいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?