プロになれなくても無駄じゃない【笑顔を作る囲碁講師つかさの生き方①】#お仕事図鑑
囲碁や将棋、ヒカルの碁や3月のライオン。その世界に魅せられた少年たちはプロを目指す。生き方はプロになるしかないのだろうか。もしなれなかったら、どうやって生きていけばいいのだろうか。
そんな素朴でも答えにくい疑問に、抜群の笑顔で答えてくれたのが「会いにくる囲碁講師」こと、つかささん。
その姿は、和服がよく似合い、しっかりものを匂わせながらも軽快なトークと愛嬌のある笑顔で人を惹きつける。
会いにくる囲碁講師 つかさ
Podcast
囲碁はプロじゃなくても生きていける。
中高生を囲碁に注ぎ込んだ彼が30才になってどんな道を見つけたのか。
お仕事図鑑#3 「会いにくる囲碁講師」
まずは、その仕事内容を聞く第1話、始まります。
会いにくる囲碁講師
ー まずは「会いにくる囲碁講師」とはどんなお仕事でしょうか。
「”囲碁講師”はお仕事として囲碁の先生をしてます。”会いにくる”は、僕が今、自転車で日本1周中なので現地の人にsns等で「来て」って言われたら、その人達に会いに行っています」
「基本的に先生って教室とかに居て、 生徒から会いに行く人。誰かに学びに行くみたいな。でもそれって環境が整ってないといけない」
「だから都内の方は先生が沢山いらっしゃるんですけど、地方だとなかなか先生がいない。オンラインでもやるのが難しい場所もあったり、対面で会いたい人もいたりして。それなら逆に、私から会いに行きますよ。連絡ください。って感じです」
さらっと笑顔で説明してくれるが自転車での日本1周。
その労力は計り知れない。
それでも、つかささんは終始とても楽しそうな様子だった。
その秘訣は、後に明らかになる。
ー 囲碁講師って割と誰でもなれますか。
「そうですね。囲碁にはプレイヤーとして活躍するタイプの人と、ティーチングを仕事にしてるの人がいて、ティーチングに関しては、資格がないです」
「イメージとしては家庭教師。基本的には資格がなくて、大学生にもできます。変な言いかたですが言ったもん勝ち商売です(笑)」
ー なるほど。でもつかささんのご経歴はどうですか
「僕は、中学3年生の時ちょいグレぐらいの時期で、仲間と地域のコミュニティーセンターみたいな所によくいたんです。そこで、たまたまじいちゃん達が囲碁をしていて、面白そうだから教えてくれって習いました。そしたらそこからどっぷり浸かっちゃって」
「勉強したくなかったので囲碁ばっかりやって。そしたら、割と強くなれたんです。才能あるって言われて「俺は天才だ」って勘違いをして高校1年生の時にプロの先生に弟子入りをしました」
「でも実際プロになる人たちって、実は英才教育なんです。プロになれる年齢制限が二十歳未満。大体高校生くらいまでにプロになってないとダメなんです。そもそも、高校生でも遅いって言われる」
ー 厳しい世界ですね
「そうですね。でも1年間だけ、師匠に「1000パーセント無理」って言われたんですけど弟子入りさせてもらいました」
「結局ダメだったんです。けど、高校3年生の時に友人に誘われて、高校生の囲碁大会に出場して、個人と団体どっちも全国に出て、団体は全国優勝ができました。 それが一応の実績ですね」
「おかげで大学は推薦でなんとか滑り込みましたね」
ー 全国優勝、すごい。確か大学、偏差値高めでしたよね
「そうですね、早稲田に」
どうやら、やはり一度本気でプロを目指した子と部活でやっている子では全然実力が違うようだ。
高校生での弟子入り当時、小学生に負ける事も全然あったと。
どれくらい囲碁に打ち込むのかと聞けば「24時間(夢の中でも)囲碁のことを考えていて、それでも中学生からではプロの壁を越えきれなかった」と。プロという存在のすごさが少しわかる気がする。
当時の事は、また後ほど詳しく聞いていく。
今はもう少し、「囲碁講師」というものについて聞いてみた。
ー 弟子入りがない人でも、講師をやることはありますか
「かなりそういう方もいらっしゃいます。特に今は、すごく色んな方がいます。実は10年くらい前までインストラクターって女性が中心だったんです。」
「当時はあまり稼げない職業だったんです。男子は普通に就職して働く方が手堅い印象で、 でもやっぱりプレイヤー人口の大半が男性なんです。なので、女性に指導してほしい方はけっこういらして…すごい失礼な言い方をすると、業界的に男は稼げないけど女性は稼げるって認識が強かった」
「そういう教えるスキルよりも華があるかが優先されたのは、10年くらい前」
「今は指導に特化して専門的にやる人が増えて、男性も増えてきました。僕も教育分野の人間だったので、囲碁を教育ツールとしてフォーカスして使っている形です」
ー 囲碁と全く関係ない仕事をしてた人が囲碁講師になるパターンもありますか
「囲碁に出会ってどハマりして、囲碁の先生やりました。みたいな人は何人かいらっしゃいます。でも実力が低いから、間違ったことを教えるんじゃないか、っていう不安で教えれないって人が多くいるんです」
「でも実力の話しになると、今はAIとかもあって、全然人間よりも優秀な部分もある。それを見てると、正しいことを教えなきゃより、間違ったことを教えてもいいんだよって思います。歴史の教科書だって、5年経つと内容変わっちゃうじゃないですか」
「だから、そこまで不安を抱えずにやっていいんだってのは、けっこう今、認識として広がって、全然違うことやってた人が囲碁業界に入ってきて囲碁を教えるのも、だんだんと広がってます」
変化するのが囲碁だから、間違いを恐れちゃいけない。
現代の囲碁の講師として大切な気持ちのようだ。
ー 「正しいと間違い」の定義をどこに置くのでしょうか
「基本的に大切なのは、根底にある普遍的なものです。数学でも新しい公式が出てきたら、それまでのこと全部使えません!ってことは、まずありえないですよね」
「ただ、公式が増えていくだけなんです。昔のが消えるわけじゃない。でも ”技術革新”が存在する分野においては、全然変わりますよね」
「例えば今、オンラインで僕は佐賀、お2人は東京とかにいて、全国で繋いで収録できる。これ5年前だったら3人とも東京にいないと無理だったと思うんです。これは技術革新。囲碁も昔は考えられなかったことが現代で当たり前になることがあります」
「この技術革新がある分野においては、その時の最善であるが大切」
「新しい最善は次々出てくるから、そこに囚われすぎず、自分がその時知っている最善を教えることが大切」
ー その時の最善。 他にも大切にされていることはありますか
「囲碁の分野で実力が足りなくても、講師の人は正しい習慣を身につけようにフォーカスしてる人がほとんどです。僕もそうです。つまり実力を上げるための習慣、学びの習慣みたいなの「こういうサイクルを回した方がいいよね」「こういうメンタルケアがいいよね」そういうことにフォーカスをしてやってます」
「実はそういう意味では、メンタルケアが1番大切なんです」
ー え、メンタルケアが。どういうメンタルケアになるんですか
「囲碁の分野はシビアな面もあります。対戦すると必ず勝ち負けがついてくる。例えば、受験生ですごい勉強してるのに点数が上がらない。っていうのあると思うんです」
「囲碁も同じで、めちゃくちゃ頑張ってるはずだけどできない。もうなんか勝てない。10何連敗しますみたいな」
「僕はそういう時のメンタルケアをすごく大切にしてて。そのケアを、その人に合わせる様に普段のコミュニケーションをすごく大切にしています。この人はお尻を叩いてあげた方がいいとか。単純に問題点だけ指摘した方がいいとか。話を聞いて「そうだよね」って受け止めてあげる方がいいとか。そこは人によりけりですよね。女性男性でも違う」
ー 面白いですね。今の生徒さんはどんな特徴の人が多いですか
「会いに行くっていうのがついてるので、単純に僕の話を聞きたいとか、 日本1周してる変なやつの話を聞きたいっていう人が実は結構います。日本以外のところに行くことも多いです」
「なんか、この先生に習いたいっていうのが1番大きいみたい、東進ハイスクールの林先生の「今でしょ」に惹かれるみたいな。だから僕自身、強烈なアイコンであったり強烈ななにか、その人が魅力があるっていうのを大切にしています」
原動力は囲碁への愛じゃない
ー なるほど。そんな風に仕事を続ける原動力になってる物はありますか
「ありますね。僕の場合、未来の話になるんですけど、実は僕、囲碁を好きじゃないんですよ、そこまで」
「囲碁の先生は得意なことを使って仕事にしていて。囲碁の先生って聞くとよく言われるのが「つかっちゃんはいいよね、好きなことを仕事にできたから、すごい幸せでしょ」ってよく言われるんですけど、あの、実はそれって僕の認識とすごくズレているんですよね」
「僕の好きなことは、こういう風にみんなとお話をしたり、そのお話をして教えることなんです。やっぱりそれは好きなんですよね。伝えること。囲碁はそのためのコミュニケーションツールなんです」
「なので、原動力は囲碁自体よりこの先ですね。ざっくり言うと、ぶっとぶんですけど世界平和を目指すこと。
もう少し現実的に言うと僕の中の人生をテーマ『人が笑顔になる瞬間を作る』なんです」
「それは僕を見て笑顔になった人を作るだけじゃなくて、僕が伝えたもので、その人が笑顔になれるような活動をする。僕はツールを渡していく人になりたいんですよね。そのツールが今のところ囲碁。全ての計画はそれを目指していて、実は僕は今アフリカに行こうとしてるんですよね」
ー アフリカ?
「アフリカってイメージが発展途上で肉体労働で生活も大変、娯楽してる暇なんかないだろってイメージがあるけど、だからこそ誰もいかないじゃないですか」
「誰かの手がついてる場所は、安全だし面白いかもしれないですけど、僕はちょっとそこに魅力を感じなくて。誰もいないから面白い、だと思うんです。そこで何か最初にできたら、笑顔にできる人の数って、他のとこより全然多いじゃないですか。だから、アフリカに魅力を感じてやまないんです」
この日1番の笑顔でそう語る
「実際アフリカに行って向こうでそういう活動ができないか、今色々考えています。来年とりあえず市場調査で囲碁持って3ヶ月間アフリカに行きます。帰ってきたら、1年以内に起業か、活動かそういう動きを作っていこうと、全くない仕事を作っていこうとを考えてるんです」
「僕はこれらの活動の先に必ず笑顔があるって信じてるんです。日本一周してるって聞くだけでワクワクするじゃないですか。アフリカの話も、それを聞いただけでワクワクして笑顔になる人が増えたらいいじゃないですか。これが、僕の原動力ですね」
ー 面白すぎる。囲碁で笑顔が生まれる瞬間ってどんな時なんですか
「囲碁自体で笑顔が生まれる瞬間はやっぱり勝負事なので、その、勝敗がついた時になってしまうんですよね。でも目指しているのはそれではなくて、終わった後にその人達が仲良くなって話をする。勝負の後、この後ご飯行きましょうよ、とか。そのつながりの最初のきっかけになれる。全く知らない人が友人のようになれる。これが囲碁の魅力なんじゃないかと。そして1番笑顔になれる瞬間なんじゃないかと」
昨日の敵は今日の友みたいな感じですかね
「そう、そんな感じ」
ここまでが「会いにくる囲碁講師つかさ」さんの第1話。
実は私たち達はみんながほぼ同年代で、同じ様にフリーで活動をし、同じ様な悩みを共有し会える仲間。
つかささんはその中でも飛び抜けて活動的だと感じる。
本人にバイタリティーがあり、本当によく食べ、よく飲み、一緒にいて清々しい。
そんな人がどんな気持ちを持って日々生きているのか、仕事に向き合っているのか垣間見えるのは本当に興味深いと感じる。
そして、これからの第2話はこのアグレッシブさの原点、幼少期や家族の存在について伺っている。
お父さんとお母さんのコントラスト、そこに加わる息子の存在。が最高の家族だった。
ぜひ、第2話以降も引き続きお楽しみください。