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水のなかの夫婦

赤い魚の夫婦を読んだ。
素敵な本屋さんの店主に、
子育て中に力をもらえる本を、とセレクトしてもらった。
ふだん国内作品ばかり読んでいるわたしは、メキシコの女性の書いた本は、積極的に手に取ることは無かっただろう。

短編集なのだが、
表題作「赤い魚の夫婦」は、産まれたての赤ちゃんを育てるということ、
大事な命をはじめて預かり、全てが不安で、外の世界から断然されたように感じるあのときの雰囲気を丸ごと、淡々と見せてくれる。

新生児を自宅に連れて帰ったばかりの時期というのは、夫婦にとって最もロマンチックなすばらしい時だと想像していた。ところが、よそのことはわからないから、わたしに限ってかもしれないけれど、現実はまるで違っていた。
睡眠不足と、赤ん坊の世話というデリケートな仕事に慣れるには、超人的な努力が必要だった。
休息がいかに重要かや、尋問の前に囚人を不眠の状態にするわけが、このときほど身にしみてわかったことはない。
人の親になることは誰もがするあたりまえのことだとばかりに、人々がいつの世も連綿とこういうことをこなしてきたのが信じられなかった。

赤い魚の夫婦

ああ、日本だけじゃないんだ。
わたしだけでもない。
登場する夫婦は、おそらくパワーカップル。
産休中の女性は弁護士だ。
誰もがなれるわけではない仕事についている彼女も、わたしと同じように言葉に身近なひとの言葉に傷つき、閉塞感を感じ、自己嫌悪も感じている。
家のなかだけで完結する人間関係のみに身をおくのは、水のなかにいるみたいだと思う。
ちゃんとそとの空気を吸い、他人と関わることで、空気が循環する。何より、あらためて家族の素敵なところを感じることができる。

復帰するはずだった職場から思いがけない提案があり、さらに彼女の内面に変化が起こる。

結末は喜ばしいとは言い難いけれど、
自分が感じた苦しさや閉じ込められているような感覚が言語化されていて、わたしだけじゃないという心強さのようなものを感じる。
今、そばにいてくれる人に優しくなりたいと思わせてくれる、
力をもらえる作品だった。

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