永い言い訳
西川美和監督をはじめて知ったのは
「ゆれる」だった。
ちいさな映画館にあったポスターとタイトルになんとなく惹かれて、観に行った。
映像の美しさ、生々しさ、
心がぎゅうっと掴まれるあの感じ。
最後、弟に呼ばれて振り向いたお兄ちゃんの表情が忘れられない。
エンドロールのゆるやかな音楽を聴きながら、しばらく呆然としていた。
それから、西川監督の作品は映画館で観ることが多い。
函館の蔦屋を訪れたとき、
小説「永い言い訳」に出会った。
西川監督の本だし、
装丁の色、表紙のタイトル文字、
本の手触りも好きで、ひとめぼれで購入。
『だからもう自分を責めなくていい。だけど、自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。みくびったり、おとしめたりしちゃ
いけない。そうしないと、ぼくみたいになる。
ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる。簡単に、離れるわけないと思ってても、離れる時は、一瞬だ。そうでしょう?』
『あのひとが居るから、くじけるわけにはいかんのだ、と思える「あのひと」が、誰にとっても必要だ。生きて行くために、想うことの出来る存在が。つくづく思うよ。他者の無いところに人生なんて存在しないんだって。人生は、他者だ。』
その言葉が、読んだ後も、自分の生活のなかで響いてくる。
後日、映画化されたので、
映画館に足を運んだ。
小説を読んでから映画を見ると、
映像だけでは自分は気づくことができないだろう部分も、深く感じながら落ち着いて世界に入り込めるところが好き。
『愛するべき日々に愛することを怠ったことの、代償は小さくない』
いま、きちんと愛するべき日々に、愛することができているだろうか。
映画を観た後も、たまに小説を開く。
読み返すたびに、その時の自分にたいせつな一文が浮かび上がってくる気がする。