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『蛇の道』感想文。(セルフリメイク版とオリジナルをみて)
黒沢清監督の『蛇の道』を見た。全国ロードショーとはいえ、どっちかというとミニシアター向けの映画なせいか、すでに午前9時台の1日1枠しかなかった。仕事も11時出勤の自分を珍しく早起きさせて映画館に向かう。
あらすじ解説は世話焼きな先達たちがブログとかnoteで散々やっているとは思うが一応なぞる。
宮下(リメイク役名アルベール)(香川照之)という男が娘を殺され、その復讐に向かっていく。そしてそれを新島(リメイク役名そのままで柴咲コウ演)(哀川翔)という、塾で数学を教えているらしい謎の男が手際よく手助けしていく。拳銃の調達も復讐の拷問場所の廃工場も手配するが見返りらしきものは一切求めない。しかし復讐する者とされる者、役者が揃っていくと段々と情報が錯綜し始める。宮下は復讐を遂げられるのか、新島の目的はなんなのか。
見る前の期待値はまあまあ高かった。85/100くらい。マイナスの分はもう一人の主人公である新島が女性キャストに変更されたことが吉と出るのか凶と出るのかいまひとつ測りかねていたからである。結果からいうと目茶苦茶良かった。ほぼほぼ吉である。
リメイク版といえども監督である黒沢清氏自身がセルフリメイクを手掛けたとあって映画館で何度もスゲえ、と思った。たとえばオリジナルで大槻と檜山を拉致ってくる廃工場。ロケ地はフランスのはずなのだが、オリジナルのイヤ〜な感じの廃工場雰囲気そっくりの廃工場が出てくる。もちろんそっくり同じではないがもともとの間取りのおかげか、撮り方か、オリジナルを踏襲しつつ、それでいて今見てもしっくり来る廃工場が出てくる。
ちょっと惜しいと思ったのは間取り的にややコンパクトなこと。オリジナルはだだっ広い工場のせいか拳銃を撃つ乾いた音や投げ出されるメストレーの音がよく響き、それが感情面の演出にも一役買っていたのではと思うのだが、リメイクは拉致ってくる工場がやや狭い。人数が映るとちょっと画面がギチっとした感じで息苦しいのだ。ここは個人的にはだだっ広い工場が欲しかった。
でも中盤から出てくる西島秀俊演じる吉村とか、後半出てくる新島の夫とかオリジナルキャラクターの投入が個人的には全部プラスに働いててスゲーになった。西島秀俊は新島(リメイクは新島小夜子、職業心療内科の医師)の患者として出てくるのだが、割とアッサリ死ぬ。自殺。それでいてオリジナルの宮下を彷彿とさせる。
じつは全編を通してもう一人の主人公である宮下、リメイク版のアルベールはこう、全体的にヤバい人の感じが少ねえな、という感じだったのだ。いや復讐に燃えてるとか精神的に不安定なのは変わらないがもう一つ狂い方が香川照之演じる宮下よりマイルドな感じがする。それは多分役者の人種とか言語の壁があると思うのだが。そこへきて吉村。だんだん狂っていく。3回しか出てこないのに(3回目出てきた時は死体)きっちり狂って死んでいる。新島が(あれはわざとだと思う。)放った言葉に操られるように死ぬ。スゴい。宮下が2人いる感じがするがそれでなんか違和感がない。これはすごい。
ほんでもって新島小夜子の夫とアルベールの妻。これは最初出てきたとき頭をなんで?と頭をヒネっていたが、よく考えたら不思議でもなんでもない。そもそもオリジナルからして新島も宮下も既婚者キャラなのだ。とはいえオリジナルでは新島も宮下も配偶者は出てこない。続編の方で出てくるので配偶者の存在を忘れがちなのだ。
ところがどっこいこの「配偶者」がメチャクチャ、キーマンだった。実はオリジナルとはエンディングが異なる。異なるのだがそれは実際にオリジナルを見て、映画館で確かめてほしい。ものすごく迂遠な言い方をすると蛇が己の尾を飲み込むような印象を受ける。そんな終わり方だ。
残念なお知らせをあえてするなら、コメットさんと無口な少女は出てこない。オミットされてしまった。それはちょっぴりさみしいが、全体の味わいとか雰囲気はオリジナルをガッツリ上回っている。すごく良かった。ええもん見さして貰いましたという。清々しい気分になりつつウワッにんげんこわ!にもなる映画だった。
ところでオリジナルを観てないと楽しめないのか?というとそんなことはない。オリジナルを観てなくても楽しめる。ただオリジナルを観ていると2倍おいしいよ。
おわり。