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近藤聡乃さんの沼 「A子さんの恋人」など
久しぶりに漫画を全巻揃えました。
「A子さんの恋人」近藤聡乃 全7巻。
私が近藤さんを知ったのが彼女のコミックエッセイ「ニューヨークで考え中」です。病院帰りの本屋でたまたま手に取ったのがきっかけ。その時は長い文章が読めなくて、でも何かが読みたくて。青山ブックセンターで特集されて平積みになっていたのをなんとなく目にして求めました。
でもそこから私は彼女の沼に、魅力にずぶずぶとのめり込むことになりました。
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気楽に読もうと思って手に取った「ニューヨークで考え中」。
近藤さんご自身の体験談が見開き1ページで完結するエッセイ漫画となっています。美大の学生だった頃から漫画を描き始め、文化庁の研修生としてNYに派遣されてから、かれこれ10年住み続けている記録日記のようなスタイル。惹かれたのは、”見開き1ページの間合い”というか”リズム”というかが、とても心地よかった事と、絵が好みだった事。
人物を描く線などはとてもシンプルなのだけれど、インテリアやニューヨークの街、それも建築的パース美(そんな言葉ないけど)がとてもかっこよくて魅了されたのでした。詳細なタッチとぬいた線の対比にぐっと来たのです。
近藤さんをもっと知りたくなって今度はユリイカ特集号を手に。
著名な方々が熱烈なファンレターを綴っておられました。そこで近藤さんの初期の頃の作品なども見ました。混沌としていてうまく説明できないのですが、まるで彼女には特別な時間のひずみを見つけられる能力があるみたいです。私はその前にぽとんと落とされたみたいな不安と、まだのぞきたいという好奇心に駆られていきます。
もう沼の入り口です。
ユリイカの中では川上弘美さんらが「A子さんの恋人」を絶賛していました。
7巻…もあるしなぁ。。。
ABCの近藤さんコーナーでほんの少しむだな躊躇をしましたが、すぐ1巻目を手に取りました。
そこからはもう、止まりません。
"ずぶずぶと こんどうあきの の沼の中” です。
ぐいぐいと引き込まれ、気が付いたら連日続きを買い足す結果となりました。
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今まで漫画を(高校生ぐらいまで)読んできた、その時どきの感想を思いかえしてみると、主に一人の主人公が際立って話の軸となっている事が多かったと記憶しています。主役を囲む周りの人物たちへの興味というか同感力はそこまで持てなかったなぁと。
私の読解力では、主人公目線の起承転結にどうしても引っ張られて、物語の渦中では、「誰が」というとやはり「主人公」が一番の存在となり、一緒に最後まで走り抜けるというのが常だったのです。
時々友人が、私がふーんとしか思ってなかった登場人物に惹かれたり感情移入しているのを、なんだか特別な視点をもっているようで眩しく感じた事があります。
そんな私ですが、久々の漫画「A子さん…」の読後体験はまるで新鮮でした。
A子さん。A太郎。A君。I子にK子にU子。etc
文字にすると、そして読んでない人にすると、より抽象的なこの名前の羅列ですが、この一人ひとりの登場人物に私は感情を入れまくって夢中で読み抜けました。
美大卒というちょっと特異な設定以外は、皆どこかに親近感が持てる普通の子たち。「A子さん」が主人公の物語ではあるけれど、A太郎やK子やU子らが時折主語として描かれていることで、私たちはそれぞれの内面を垣間見ることになります。
「伏線の妙」にも本当に参りました。ぽんっと何気に展開する事があれもこれもが繋がっていきます。これはもう、作者の聡明さがあふれ出ちゃっていると感じます。
彼らが寄り集まり、互いに関わる中でめんどくさい事もそのまま黙ってて言わない事もでてくる。ドライだけれど熱くもあって、「ノリ」も「ひき」もあるつかず離れずの関係を送るところが今の私にはめちゃくちゃ眩しくて、もう一回こんな20代を送りたくなってしまいます。
漫画に文庫本のような行間はないけれど、近藤さんの漫画からはそれを感じます。アーティストとして、時間をとらえて奇妙に魅せられる力のせいなのか、描いていない事で読み手がぐっとその立場に近くなる「間」のようなぽっかりした余白が、近藤さんの漫画には備わっているみたい。
最後の7巻は何度も読み返してはひりひりし、なんで私は自分の事に置き換えてこんなに考える時間を持っちゃっているのか!と愕然とした午後17時。
万人にうけないかもしれないけれど、近藤聡乃さんの世界。ご興味あったら是非手に取っていただきたいと思います。
すごく上からみたいな言い方が自分でも鼻について嫌ですが、気持ちのままに書くとこうなってしまいました。以上が、あらすじを書かない私の漫画感想文です。
私の大事な人に読んでもらいたい素晴らしい作品です。
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