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人生ではじめて絵画作品を買った話。高松明日香さんが描く海を部屋にかける。

家の中に海がかけてあります。
我が家の寝室の壁に飾っている絵のことです。

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これは高松明日香さんという画家が描かれたとても小さな絵画で、私が人生で初めて購入した絵画作品です。絵を私物化してこの先もずっと眺めていたいと強く感じたことについて、書いておきたいと思います。

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高松さんの絵はこれに出会う以前に、地方のセレクトショップで一度出会っていました。そのショップには地域の特産品や民芸品、郷土土産や選びぬかれた雑貨等がセンス良く並べられています。年に2度、家族に会うために訪れた際に、手土産を買うために通っていました。

数年前の夏、いつものように手土産を物色中にふと壁に目をやると、3つの山並みが描かれた小さな絵が掛かっていました。
緑青色、青緑に鼠色かな_?
そのほか私が言い表せない緑と青の色の重なりが、木々を集め影をつくり、残雪を抱いた山を形どっていました。空色の背景と合わさった青色のグラデーションに真夏の熱波が吹き飛ぶようです。私は、ちょうど目線と同じ高さに掛けられていたその絵を、近づいたり、離れたりしながら時間も忘れて眺めていました。お土産はそっちのけです。
念のため、お値段のシールをチェックします。
頑張れば手が出る、かもしれないと思うお値段でした。

買える?買わない? いや、、第一誰なんだろう、この人は。
私は絵買うようなインテリな人間じゃないしな。。。
(絵を買う人=高尚な人)
というような安直な思い込みが、しばしば私の人生を横切ります。
買っても。。ねぇ。

買い物の間に子どもの相手をやり尽くしてイライラし始めた夫に申し訳なくなって、急いで”高松明日香”という名前を携帯にメモしたところで、脇の小さな作品集に目が留まりました。後ろ髪惹かれつつ、今回はこの作品集を買う事で記念にしよう、と考えたのでした。

さて、家に戻って落ち着いてから小さな作品集を開くと、青い祈りの世界が束ねられ溢れていました。冊子は静岡で開かれていた高松さんの個展の作品集だったようです。私が見た山の絵がなかったのは残念でしたが、でもそれが余計いつも(万を超える)買い物に怯む貧乏性の性格と、自分の直観を信じなかったことへの強い戒めとなりました。

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もう、悔いても仕方ありません。
「この作品集が手元にある事で、どこかでまた高松さんの作品に引き寄せられるかもしれない。」と、不確定な根拠を落としどころに、日々は過ぎていきました。

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そして2020年夏。コロナの猛威が私たちの生活を確実に変えていました。
通常ならば、お正月とお盆には飛行機に乗って離れて暮らす家族に会いに行っているはずでしたが当然叶いません。
前回の帰省時にクドクドと教えたはずのLINEでのテレビ電話の方法も、画面が少しアップデートされると分からなくなってしまう家族です。半年に一遍ぐらい会えることで何とか軌道修正してきたのが、もう前回の帰省は1年前になり、いまでは電話越しの声を聞くだけです。

「仕方ないわ。こっちは元気でやってるから気にせんでええんよ。」
1年前の夏、波の穏やかな海で泳いだことが懐かしく思い出されます。
二人が揃って元気なうちにあと何回行けるだろうかと、声を聞くたびに考えてしまって、取り留めなく寂しくなっているのは私の方なのです。

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落ち込む気分を変えてリフレッシュしようと思って、散歩ついでにギャラリーが併設されてある気に入りのお店に入りました。
何人かの作家さんの絵が同時に飾られていましたが、遠目からでも青色が際立っている一角があります。
あ!このタッチと色使い。(素人がすいません。)
記憶の中の絵と、手元にある青い冊子が浮かびます。

間違いない、高松明日香さんの絵画です!私にとっては運命的な再会でした。

作品は、憂いた表情の少年を描いたものや、照り付ける太陽の元で咲く一面のひまわり畑、大きな翼を広げる鷹が悠々と木々を横切るのをまるで望遠レンズでとらえたような画角で描かれた作品など。そのどれにも共通して青味がかかり、作品のまわりに清浄な空気がながれているようです。
どれもとても惹かれますが、その中の1点に目が留まりました。

「水の源  The Source of Water」
創作活動も発表の場もままならない中で、想像の中にある海を描いたとありました。

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小さな絵から波の音が聞こえてきます。
白波の立つ静かでない海。荒れているのとはちがう、このようなにぎやかな波がたつこともあるのかしら。「水の源」から海水が沸き上がっているのかもしれない。
そして無人の島影を見ている場所は、家族が暮らしている町の、海のほとりを思い浮かべます。記憶の中の海辺の景色とリンクします。

もし、この絵がそばにあったら。
わたしは家族のいた場所や時間をいつでも取り出すことができる。
正直言うと、これから変化していくであろう様々な「距離」に対する保険のような気持ちもおこりました。

出会ってすぐのひとつの絵にこんなに感情が流れていくのは、今のシチュエーションと偶然を必然だと思い込みたい心情の作用です。
この心の動きに今乗っからなければ、山の絵とは比べられないほどの後悔を私は必ずする。これは私にめったに起こらない確信でした。

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帰宅後、ギャラリーの方にテンションのあがった思入れ満載のメールを送り付けて、購入の意思を伝えました。(コロナで収入も減っていたところなのできつい判断でしたが、ぶんぶんと振りはらいました。)

担当の方は、アート作品の購入が初めての私に手続きについて優しく教えてくれて、ご自身も何点か所有されていることと、「初めての購入作品が高松明日香であって嬉しいです」と喜んでくれました。

ーこんな感じでアートを身近に置きたいと、思っていいんだ。
素人の私なんかがと、卑下していたのが恥ずかしくなりました。


実は、当初これは我が家の家に置くものではなく、離れた家族のためのサプライズプレゼントとして考えていました。
私たちが来るといつもつれていってくれる海。それに似た絵を、家でいつも眺める事で私達を側に感じていてほしい。
そんな思いでいたのですが、届いた作品をみたら薄情な事にあっさり気が変わりました。ごめんね、おとうさん、おかあさん。

この海が一番必要だったのは私でした。

毎日まいにち、この絵をみて息を整えます。
高松明日香さんの海が「わたしの海」になって、ここで見守ってくれています。




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