通い慣れても恋の路に迷う (閑吟集17)
「花の都の経緯に 知らぬ道をも問えば迷はず 恋路など 通い馴れても迷ふらん」 (閑吟集)
住まいを変えるということは人生の中で何度もあることではなく、大きな出来事として記憶に残る。そしてそれまで住んでいた街は、そこでの生活の記憶とともに想い出としていつまでも残ることになる。
住まいが変われば、そのときはもちろん右も左もわからず、帰宅の際でも自分の家を探して迷うこともあるだろう。しかし、次第に慣れ新しい風景を発見するたびに喜びを見つけられるようになるもの。
それは男と女の関係にも似ている。
初めての相手は最初は互いの体がわからず、どこをどう触ってよいのかもわからず、ただ無我夢中にしていたのが、
しだいになだらかな、急な斜面、そして深き淵、湖、それぞれの風光明媚な場所場所を知り、その場所を愛でる喜びも知り、その旅路を楽しめるようになる。
されど、相手の心まで読み取ることは難しい。
何度も恋をして、恋の経験が豊富になっても、結局は迷ってしまう。
その迷い路がまた、恋の味わいでもあるのだが。
「花の都の経緯(たてぬき)に 知らぬ道をも問えば迷はず
恋路など 通い馴れても迷ふらん」 (閑吟集)
京都のような美しき町は縦と横がしっかりわかる。知らない道も人に聞けば迷うことは無い。 しかし恋の路は何度通い馴れても迷ってしまうのだ。
人は一生、恋に迷い続ける。
人に尋ねてもいいだろう。
それでも迷う。迷ったらいいのだ。
迷うことで成長をしていくのだから。