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月は傾く泊まり舟 交わす情事に揺れる舟 (閑吟集24)


「月は傾く泊まり舟 鐘は聞えて里近し 枕を並べて お取梶や面梶にさし交ぜて 袖を夜露に濡れてさす」 (閑吟集) 

たとえば満月の夜、湖畔に泊まる舟にこっそりふたりで乗り込んでみる。
遠くで鐘の音が聴こえるくらいだから里は近いのだけれども、この舟の中なら誰にも見られないだろう。

やがてふたりの体を重ね始めたら、止まっているはずの舟は梶が切られているかのように船首が右に左に揺れ始め、水面も波立つほどになる。

やがてあなたの袖はしっかりと濡れてしまうのだが、それは夜露のせいか、あるいは波がかかったからなのか。

いや、それは、あなたが濡らしたもの。

「月は傾く泊まり舟 鐘は聞えて里近し 枕を並べて お取梶や面梶にさし交ぜて 袖を夜露に濡れてさす」 (閑吟集) 

春のぬくもりの中、こんな感じであなたと抱き合えたら。
まるでそのまま夢に船出をするような気持ちになれるだろう。
二人の体の動きに合わせて舟は揺れ、
水面にはさざなみが起きて、
映る月が揺れ動く。

そして言うまでもなくそこには桜の木が並んでいて、
その舟の屋根と水面に落ちる花びら。

そして濡れたあなたの袖にも、
そして汗にまみれた肌にも、濡らした股間にも舞い落ちて吸い付く。

その時のあなたはこの世のものとは想われぬ、
妖艶な美しさに輝いていることだろう。

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