月も星も裏切らない (閑吟集40)
「思い切り兼ねて 欲しや 欲しやと 月見て廊下に立たれた また流れた」 (閑吟集)
とっても大好きだった人と別れを迎えたとき、それまでその恋を様々な角度から彩ってくれた月や星や季節の風情が、まるで裏切ったかのようにみんな敵に見えてしまう。
さながら信頼していた仲間に謀反にあったかのように、何もかもが皆、自分の歩みを邪魔しているように思ってしまう。
自分の味方をしてくれるものなどなく、自分がこの世で一番不幸な人間に思えてしまう。
そんな時初めて、月や星はいつも恋の味方であるわけでなく、失恋の際にはまさに不吉の存在となり、満天の星は一気に流れ落ちるものだと気がついてうろたえてしまう。
月も星もまさに自分の心を移す鏡。
それもただ写すのではなく、自分の心の中を増幅して跳ね返えしてくるという偉大なる存在なのだろう。
しかし、月も星もあなたにどんなふうに思われても、黙ってあなたを見下ろし、いつか再び恋の味方となるときをじっと待ってくれている。
「思い切り兼ねて 欲しや 欲しやと 月見て廊下に立たれた また流れた」 (閑吟集)
大好きだったあなたを忘れられなくて、あなたが欲しい、あなたが欲しいと、月に頼ろうと廊下に立ったら、ああ、星が流れてしまった。
恋に破れた哀しさを星と月の見え方に例えている。「欲しい」と「星」を掛けてその切なさをこめて、
しかし決して月や星に恨みをもって見ているのではなく、また恋をしたときに大きな味方になってくれるのを信じているよう。
月と星、黙って味方にも悪役にもなってくれる、やさしい存在。そして何も言わずあなたを黙って見て味方をしてくれる人が、
きっとあなたを待っている。
見上げればそこに懸かっているように。
月も星も裏切らない。
今、あなたが月と星を見上げて、
それが味方に見えるなら、あなたは幸せです。