枕は知っている (閑吟集34)
「来る来る来るとは、枕こそ知れ なう枕 物言はうには 勝事の枕」 (閑吟集)
男と女が体を重ねる場所はどこであろうとも、
その頭を守る枕があった方がいい。
どちららかの自宅での情交であれば、
その情交の名残りは、恋人が帰って行った後も残るもの。
帰るほうも寂しいが、残されたほうもまたやるせないのは、
その痕跡が目の前にあるから。
直後であれば、
シーツのしわや互いの髪の毛。
ほんの先ほどまで、ここにいたのが嘘のよう。
しかしその一方名残というものは寂しさと共に、
心温まる安らぎを与えてくれたりもする。
しばらく会えない時間が過ぎたとしても、
情交の想い出が部屋とともに残るから。
それがホテルなら、
いったんチェックアウトしてしまったら、
他人の空間と化してしまう儚いもの。
二人だけの情交の秘密を知っている部屋。
そしてその情交の一部始終を見ていた枕。
「来る来る来るとは、枕こそ知れ なう枕 物言はうには 勝事の枕」 (閑吟集)
あの人がこの部屋に来ていることを知っているのは、この枕だけ。
ねえ、枕さん、その秘密を人にしゃべったら許しませんよ。
また次に来てくれた時、
あの人の頭を受け止めて。