本を読もう!(8)

 『ドレのロンドン巡礼
         天才画家が描いた世紀末』
  谷口江里也/著  ギュスターヴ・ドレ/絵
               ( 講談社 )


 アップルの創業者、故スティーブ・ジョブズ氏が世界の多方面に渡って尋常ならざる影響を与えた人物であることは、もうわざわざここで申し上げるまでもありません。そしてその影響力は、今なおこの世にあまねく波及し続けています。
 このような歴史上の大レジェンドであるジョブズ氏について、なぜ冒頭で言及したのかといいますと、全世界が大注目したあのiPadの発表会において、新製品のiPadの画面に映し出されていたのが、今回私がご紹介したい画家「ドレ」の画(←旧約聖書のモーゼが、文字の書かれた石板を掲げもった場面)だったからなのでした。
 ジョブズ氏がiPadのお披露目の際に取り上げたのがドレの画だったことは、この『ドレのロンドン巡礼』を読んで知りました。そしてそういった一連の演出を思い浮かべながら、big  tech の新製品発表会という現代資本主義の極みのような華々しいシーンにおいて、19世紀後半のロンドンで早くも露呈しつつあった近代資本主義の歪みを象徴するような市井の情景を鋭く見つめつつ、それらを描いていった「ドレ」というまさにその人物が(偶然にも?)選ばれるとは、実に不思議な気持ちになりました。

 科学技術の発展が人類の生活水準の向上に寄与していることに関しては、全く異論はないでしょう。私も身内が(メディアに何度も取材されている)グローバル先端技術関係の企業を経営しているので、その辺りの昨今の社会的事情は、常に注視しています。
 そういった経緯もあって、イノベーティブな社会情勢の変化がかなり身近な環境に存在しますので、この社会がこれから一体どういった方向に向かっていくのか、(それをまた自分の身内とは違った視点、つまり)「社会学的かつ歴史的な視点」から考察してみたいという思いが常時あります。

 また、この本を入手した当時は確か「世界史をもっと知らなければダメだ!」と強く考らを律していた記憶があります。日本史ほどぎっちりと暗記をやり込んでいない世界史については、地に足のついた「自分のことば」で歴史を語ることを過剰なほど意識するようにしています。だからといって便利に検索した内容を(一応丁寧に)つなげてみても、「とりあえずひと通りの形のあるもの」ができあがるだけになってしまいます。やはり自らの熱量を相当に消費して自分の内側に完璧を目指して取り込んだことばを遣わないと、高いエネルギーを放出した説得力のある言説は誕生しないのだと思います。
 こういった迷いを吐露してはいますが、高校時代の世界史の成績は日本史と同様ほぼ毎回1位で、5段階評価もずっと5でした。

 つまり最も大事だといえるのは、「きちんと正確に頭のなかに整理して知識を蓄え、いつでもどこでもそれらを間違いなく引き出せるようにする」というその″心構え″つまり、″常に緊張感を持って物事に正確に対峙する、そういった気の持ち方″が人間を大きく成長させる、ということになるのではないでしょうか。

 本の内容や感想の記述から少し離れてしまいました。一旦この辺りでひと呼吸入れたいと思います。


 続きは後ほど、、

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