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小説喫茶室

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限りなく実話に近いフィクション、とあるちいさな町にある喫茶店。特別なことは、何も起こらないはず、だった……。
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#フィクション

ふーん。だから?

ふーん。だから?

ラッシュアワーより少し早めに家を出て、
勤務先の最寄り駅近くにあるこじんまりとした喫茶店でホットコーヒーを飲み干す。
それが朝の儀式。今日もいちにち働くぞ。
ご老人は朝が早い。
目覚めの一杯は、馴染みの店でと決めている。
「いつもの」と言えば、目の前に運ばれてくる。
コーヒーにプラス60円でトーストとゆで玉子付きの
モーニングも注文出来る。バターかジャムを塗って貰う。何も言わなければバターだ。ジャ

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開店前の喫茶店。

開店前の喫茶店。

僕は勝手口のシャッターの鍵穴に預かっておいたスペアキーを差した。そのとき、肌身離さず身につけていた
浅草寺で授けていただいたお守りがポトッと僕の足元に落ちたんだ。アレ?と、思ったよ。なんか胸騒ぎっぽいものが一瞬頭を掠めた。これは用心しなさいという「おしらせ」かも知れない。僕はシャッターを押し上げ、
今度は扉の鍵を取り出す。開店前の店内。
冬の早朝。モーニングの仕込みのため、開店より30分前から作業

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ラストオーダー

ラストオーダー

「お客様、ラストオーダーのお時間となっております   が、ご注文は以上でよろしいですか?」
ギャルソンエプロンを腰に巻いたホール係の店員が、
ひとつひとつのテーブルを巡って行く。
……ああ、もう、そんな時間か。
客は、時計に目をやる。自分の腕時計をチラッと一瞥する客、店内の大きな柱時計の針先に目をやる客。
「もう、閉店かね?」と店員に尋ねる客。
「いえ、閉店は夜8時となっております。ただ、ご注文を

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