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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
主人公の百千武主実(ももちむすび)は、佐々仍利(ささじょうり)や八女麻亜呂(やめまあろ)らと戦闘訓練を積んでいた。そんな中、近隣の村が賊に襲来されるが、仍利の父である猛将 佐々孟利(ささもうり)指揮のもと討伐隊を編成して戦い海賊 鵜照と鷹照を制圧する。
国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭。3大勢力の1つ「鬼軍」を取り込み改革を進める。そして賈は遂に「黍」と国名変更を宣言する。
そして隼島を占拠する「鬼」ダガ兄弟を討伐するため、孟利を総大将とした軍が進攻し舟戦が始まる。武主実と仍利は別動隊として上陸を試みるが…。


~第12話 海賊兄弟~

鵜照と鷹照。かつて麦国の村を襲ったが、孟利率いる討伐隊に敗れた男たちだ。しかし彼らは屈強さで有名な『和仁一族』。神出鬼没の元海賊である。
「いくぞモモ。海に落ちないように掴まってな。」
鵜照は武主実のことをモモと呼ぶ。

敵舟に真っ直ぐ突き進む舟は、全速力であるが故に止まれそうにない。が、鵜照は全く動じないどころか、速度を落とす指示を出さない。このまま敵舟の横っ腹に突っ込んでしまっては、どちらの被害も計り知れない。敵の将は慌て始めた。
「ヤツら素人か?ぶつかるぞ!」
それでも平然と進む。
「な、何なんだ?」
あわや手遅れかと思ったところで鵜照は漕ぎ手に合図を送った。よく見ると漕ぎ手も一人として慌てる素振りがない。舟は急速に横回転した。ものすごい遠心力だが馴れたものだ。ピタリと敵舟の横にくっついた。他の誰にも出来ない芸当だ。

舟同士がぶつかる衝撃を感じる間もなく鵜照と鷹照は先陣を切っていた。敵舟に飛び移ると、バッサバッサと敵を切りまくる。
「ワッハッハッハ!久々の大暴れだ!」
遅れて武主実も敵舟に乗り込む。舟の中は色んな物が転がっている。更に舟は大きく揺れ足場がおぼつかない。
「モモー。何だそのへっぴり腰は?」
そう言った鵜照の表情が一瞬曇った。騒乱に紛れて武主実を狙う敵将を見つけたからだ。敵将は味方兵の後ろに隠て接近し、死角となる兵の脇下から刀を突き刺した。
「モモ!」と鵜照が叫ぶ。
武主実は斜めに刀を振り上げて兵ごと敵将を吹っ飛ばした。
「おぉーらー!」
敵は真っ二つだ。鵜照はホッとした。
「ずいぶんと速よーなったな。それにしても相変わらずの馬鹿力だ。」 

その後、あっと言う間に敵を殲滅した。よく考えてみれば敵は『鬼』。海に慣れ身体も大きく力も強い。それをほぼ鵜照と鷹照の力だけで圧倒した。
「モモよー。手柄はたった2人かー。」
鵜照はからかうように言う。
「あーん?まだまだこれからだ。」
鷹照も舟に戻ってきた。
「ワッハッハ。確かにこれからだな。」
「さーさー島に攻め込むぞ。」
戦いの間に迂回して先行した仍利の舟を追う形になった。

2つの舟は隼島に近づいた。敵は岸から舟に向かって石矢を放ってきた。しかし武主実の兵も、仍利の兵も士気が高い。我先にと矢をかいくぐり浅瀬を走って陸を目指す。先行していた仍利の軍が先に上陸。攻めのスピードの速さこそ仍利の真骨頂である。
「やっと見せ場がきたな!突撃だー!」
矢を放っていた一団は勢いに圧倒され、ろくに戦わずして霧散した。それを追って仍利隊は更に奥地に入っていく。 

続いて武主実隊も上陸。鷹照が鵜照の肩を叩いた。鷹照の見ている海の方に目を向けると、武主実に「待て!」と声をかける。
「孟利のおっさんは舟戦は得意か?」
武主実は少し考えた。
「んー。あまり聞いたことがないな。」
「モモよ。見たか?矢を射ていた敵は年寄りばかりだった。そして霧散した。ここに守るべきものがあれば、退却する時も守りを考えて動くもんだ。まー罠があれば別だが…。」
「確かにな。」
「海賊の根城っていうが、別に城があるわけじゃない。普通の村だ 。村でなければ、あいつらにとって守るべきものは頭領だろう。」
「ってことは、どーゆーことだ?」
「さっき、隠れてたおった舟が2艘、沖の戦場に向かったのが見えたか?どうやら敵は正攻法で主力を撃破するつもりらしいぞ。」
孟利の助成に行くべきか。島の奥に攻め入った仍利の加勢も必要であるし、万が一に備えて上陸地点の舟を守る必要もある。
「ワシも海賊だ。ワシの嗅覚で言えば、ここに敵の頭領はおらんな。裏をかいて隠れてる様子もない。どーするモモよ。」

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