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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
「麦」の国では、国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭する。そして賈は「黍」と国名変更を宣言した。
国の東の外れ「氷川の丘」に敵の大軍が現れた。「黍」では軍議が開かれる。牟羅(もうら)と崔泰烏(つぁいたいう)が出陣し大軍を迎え撃つ。

~第17話 敵との遭遇~

敵は先発隊として士気こそ高かったが、目的地へ出発して間もなくなこともあり、まだまだ戦闘になることを想定できていなかった。警戒心が緩かったことは否めない。峠道となれば待ち伏せにも注意を払うべきであるが、その先の休憩地点への到着にばかり意識が向いていた。

牟羅は峠の左右の高台に潜ませていた兵を一気に突撃せた。狭道で長い列になっていた敵軍を各所で分断した。分断した後は指揮が行き届かない敵を攻めに攻めた。牟羅は、それでも前進してくる敵を正面で迎え撃った。牟羅自身も散々に敵を打ち倒した。
「ガッハッハ!圧勝だな!」
と言いながらも、牟羅は逃げていく敵兵を見ていて違和感を覚えた。多くの兵が北へ逃げていくのだ。確かに逃げ延びる場所を決めておくことはある。が、北に壁を作られて南に隙間があっても北に逃げている。牟羅はその姿を確認しながらも今は眼前の敵に集中した。
「叩き潰せ!」


逃げる敵は山を越えて行く。もちろん他国へ侵入しているため地理に詳しい訳ではない。太陽の位置と高い山を目印に、それでも皆が同じ場所を目指しているようだ。

数時間をかけて辿り着いた場所は…、敵軍別動隊の列であった。こちらの隊のルートの方が、山深く悪路であるが目的地までの距離は短い。敵軍別動隊は合流してくる味方兵を待つために休憩をとっている。斥候や見張りをたて十分に警戒体制を敷いている。
「計画通りだな。既に半数が合流した。」
「黍も案外 簡単かもしれんな。」

それを隣山の木々の間から覗き見る者たちがいた。一人の武将が指示を送ると、兵士たちは動き出した。そうこの武将こそ崔泰烏である。


暫くして休憩していた敵軍別動隊が動き出した。この手の山道は、軍の進軍用に整備されていることはまずない。つまり道に詳しい地元民に先導させるか、誰かが事前に調べた道を通るが、ほとんどは獣道である。今回は案内人を含む数人を先行させ警戒しながら進んでいる。山中では攻めるにも守るにもリスクが大きく、さらに戦術の使用は見込めないがゲリラ戦を仕掛けられる可能性はある。そして小川に差し掛かり警戒は最大級になった。開けた場所では襲撃の可能性が高くなる。

「放てー!」
川上の方から掛け声が聞こえた。軍隊が小川を渡るタイミングだった。石矢が降り注ぐ。やはり待ち伏せだ!
指揮をとるのは崔泰烏。黍国軍師である。敵の行動を見破り、牟羅とは別に軍隊を率いていた。
「休まず放てー!」
またも石矢が降り注ぐ。敵軍の数人に命中した。しかし敵軍別動隊もすぐに隊列を整え直している。準備ができていた様で、石矢も射返してきた。しばらくの間、距離をとったままでの戦闘が続いたが、崔泰烏側が場を離れた。それを確認して敵軍は少し川下側にルートをとり、警戒しながら進軍を再開した。


敵軍別動隊は山あいを進みながら停泊地を探し始めたようだ。薄暗くなったその時、密かに並行進軍していた崔泰烏は大声と物音を立てさせて威嚇した。敵軍は戦闘体制をとるものの崔泰烏軍は姿を現さない。見えない相手に神経を磨り減らされながら時間が過ぎていく。しばらくの間、断続的に威嚇が続いた。日暮れ前には崔泰烏は引き上げた。


朝になると敵軍別動隊は早めに移動を開始した。昨日の崔泰烏軍の襲来で予定より進んでいない。遠回りになり更に時間が必要になるものの、敵を警戒して少し南側にルートを修正して進んだ。すると昼前に木々が少ない開けた峠道に出た。と言うより、小川での襲撃や音の威嚇を行ってルートを誘導し、崔泰烏がこの峠へ誘い込んだのだ。そして敵軍別動隊は精神的に疲れ、睡眠も不足している。

「ようこそ。名もなき軍隊よ。」
崔泰烏は敵軍の全てが峠に入ったことを確認させて総攻撃をかけた。まずは石矢を一斉に放つ。敵が逃げ惑い始めると、左右の高台から兵を一気に突撃させた。
「ここで終わらせましょう!」
崔泰烏は更に攻撃の手を強めた。混乱の中でも的確に敵の将に狙いを定めて攻めさせた。敵軍は将が討たれると総崩れとなった。そして、あっという間に決着となった。最終的には多くの兵が投降した。

崔泰烏が投降兵の顔を見ている。何かに気付き驚いている。
「貴様ら、粳(うるち)の者ではないな!?」


一方、石可児黄仁(いしかにこうじん)が守備する西の海岸線。こちらは戦闘こそ発生していないが、敵軍斥候と見られる舟が捕らえられていた。
「石可児様、大変です!こ、こいつら!」
石可児は捕らえられた敵兵に目を移す。
「お前たちは、どこの兵だ?」

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