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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
黍国では前国王の浦島鳴(うらしまなり)の死去が発表され、副王の賈智陽(かじやん)が新国王に就いた。賈国王は国防に力を注ぎ、体制を整えていく。
そんな中、ヒヌカ連合あらため『ヤハト国』が黍国へ第二次侵攻を開始する。主要4拠点に一斉総攻撃を仕掛けたのである。
その混乱に乗じて、佐々孟利や八女天主らが賈体制へのクーデターを画策する。『ヤハト国』軍より先に賈国王の首を獲るために若い少数部隊「団子」が差し向けられる。しかし賈国王は既に新山城におらず、楯築陣に移動していた。「団子」はそれを追う。


~第30話 想定外~

片岡太練(かたおかたねる)と富田真臣(とみたまおみ)は瞬く間に賈国王兵に囲まれてしまった。国王直属の屈強な兵士たちは見る見る増えていく。正に絶体絶命である。

太練はニヤッと笑うと弓を下ろして兵の前に歩みでた。まさか…。


それを知らずに百千武主実(ももちむすみ)たちは突入のタイミングを待ち続けていた。しかし間もなく様子を知ることになった。侵入者があったと騒ぎ立てる兵士たちの声が聴こえてきたのだ。真臣と太練が陽動に失敗したことを容易に想像できた。

佐々仍利(ささじょうり)は武主実に確認する。
「どうするよ?助けに戻るか?」
鵜照(うでり)と鷹照(たかでり)も武主実の顔に目をやる。
「これから先はもっと警戒が厳しくなる。今ならまだチャンスはあるはずだ。いや、少しでも混乱してる今しかない。進むぞ。」
やっぱりといった表情の鵜照。賈国王本陣の方を指しながら言う。
「今は西側が手薄だ。まだ守備体制が整ってねーな。」
確かに木が繁った西側に兵がいない。侵入者への対応で機能していない場所があるようだ。

4人は西側に移動すると一気に奥まで進んだ。奥には幕が張られており、ここが本陣で間違いないだろう。

幕の内側には数人の守護兵がいた。そして賈国王も。そう。遂に賈国王と対峙したのだ。
「オマエは佐々ダナ。謀反など許さんゾ。」
そして、そこに崔泰烏(つぁいたいう)の姿はなく、ここに居るはずのない男が現れた。前線で戦っているはずの黍国総司令 楯築鯉琉(たてつきこいる)である。

「楯築殿がなぜ?なぜここに?」
鯉琉は何も言わずに賈国王の隣に仁王立ちしている。静かに右手を挙げると幕の裏側から多くの兵が姿を現した。会話を交わす必要も無いということなのか、すぐに号令をかけた。
「殲滅だ。」
総司令直属の兵団が一斉に襲いかかる。多勢に無勢だけではない。一人一人が幾多の戦場を生き抜いてきた屈強な戦士である。若い「団子」たちとは能力が違いすぎる。仍利が大きく吹っ飛んだ。


想定外はまだ続く。

あの伊世李軍が苦戦を強いられているのだ。崔泰烏の権謀術数は徐々に効力を見せ始め、情勢をひっくり返し出した。緒戦の防戦は計画のうちだったようだ。自分の兵だけでなく、楯築兵も手足のように使い、次第に攻勢に持ち込んでいった。

そして伊世李軍は後退することになる。距離をおいて体制を整え直さなければならない。しかし好機を逃す崔泰烏ではない。崔泰烏自身が軍を率いてどこまでも追った。もちろん兵士の士気も上がっている。

勢いに乗る崔軍はついに伊世李の背中を捉えた。手が届くところに伊世李が見える。ヤハト国軍の実質的総帥を倒す千載一遇のチャンスだ。崔泰烏は集中が研ぎ澄まされ、周りの音さえ聞こえない「ゾーン」に入っていた。

そこに隙があった。

脇から突如として謎の軍隊が出現。人が隠れようも無い平地から現れたのだ。その軍隊は崔軍を急襲。誰一人として予想していなかった攻撃に崔軍は大混乱に陥った。謎の軍隊はあまりにも強く、崔軍は上手く対応できていない。そんな中、謎の軍隊を率いる武将は先陣を切って突き進む。

そして崔泰烏は討たれた。

謎の軍隊はそのまま崔軍を制圧。伊世李は窮地を脱した。伊世李軍はゆっくりと引き返してきた。

「ご苦労だったな宇鹿。」
崔泰烏を討った謎の武将の正体は播磨宇鹿(はりまうじか)だった。良く見ると泥だらけである。

ことの顛末はこうだ。


楯築鯉琉軍の先鋒 富田真臣と対峙していた播磨宇鹿。実力で劣る真臣は罠を仕掛ける。沼地に誘い込み動きを封じてしまったのだ。地元では有名な深い沼地であり、脱出不可能とも言われる場所。その後、伊世李軍が到着するまで時間を要することになる。

到着した伊世李は笑いながら
「やられておるな宇鹿。」
「富田真臣め。許さんぞ!」
「いやいや、ヤツは味方だ。だからこそ兵は減っておらんだろう。」
「だとしても、この様な屈辱は耐えられん。」
「ワッハッハ。そう怒るな。そうだ!良いことを思い付いたぞ。宇鹿よ、埋まったまま隠れておれ。そしてワシが敵を連れてくるから伏兵として襲いかかれ。」
宇鹿は不満そうな顔をしている。
「ワシは本気だぞ。」

まさに伊世李の作戦が成功したのである。

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