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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
黍国東の外れ″氷川の丘″に「稗(ひえ)」国と「糠(ぬか)」国のヒヌカ連合軍が現れた。三輪支(みわき)、伊世李(いせり)、佐祁間(さじま)が率いている。
黍国も防衛ラインを張り、東では武将 牟羅(もうら)と崔泰烏(つぁいたいう)が防衛に成功するが、西では石可児黄仁(いしかにこうじん)が佐祁間に敗退してしまう。
そして中央では伊世李に楯築鯉琉(たてつきこいる)が劣勢。しかし突如として伊世李は退却する。


~第24話 黍国軍の再編成~

黍国の中枢は揺れていた。国内では楯築軍がヒヌカ連合の伊世李軍を撃退したと喧伝されたが、実態は真逆だった。敗戦に近い。また、石可児軍は早々に敗退した。
次の侵略に備えるために、まずは守備戦線の再編成が急務となった。

  首都 新山城では副王 賈智陽のもと、崔泰烏が全体の指揮をとる。今回、文官であり軍師である崔泰烏が中心となる体制が敷かれた。

黍国の守備配置

  最前線となる東の将は佐々孟利。佐々仍利と百千武主実も配置された。ここは黍国軍が前戦で唯一勝利した場所。要衝ではあるが敵が避ける可能性も考えて、総司令クラスは配置されなかった。

西には阿宗磐井が派遣された。この地域は先の戦いで大敗を喫しており、立て直しが急務。広く海岸線を守る難しい場所でもある。副官として八女天主と麻亜呂がつけられた。

  中央は英雄とされた楯築鯉琉が継続して守る。副官には富田真臣に加えて、前回活躍した片岡太練が抜擢された。新山城に繋がる最後の砦となる場所。壕や柵が作られ防御力が上がった。

  今回は新たに牟羅が中央と東の間に配置された。これは東を抜かれた際の砦となるとともに、中央を攻められた際の助勢も兼ねる。

  総じて賈副王派閥の陣営を新山城近くに配置したことになる。これにより賈陣営としては動きやすく、指揮権の集中にもつながった。

  次に、その賈陣営で粳国との同盟について再検討が行われた。
  結果から言うと、粳国とは連携を継続しながら、芋国からは不可侵の約束を取りつけることとなった。小競り合いを起こしている粳国と芋国。両国と付き合うには苦労しそうだが、双方の利害を考えれば上手く立ち回れる可能性もある。

  更に賈副王が進めてきた鉄の生産増強。これの恩恵を受けて、大量の武器が配布された。この時代、武器の善し悪しの影響は大きい。武器を手にした兵の士気も上がる。
このように黍国内では急ピッチで立て直しが進められた。


  武主実の周りでは賈副王陣営についての調査が密かに始まっていた。もともと浦国王に近い佐々孟利や八女天主が中心となったのだが、賈副王もこれを警戒して二人を遠く離して配置している。
  ここで暗躍した人物がいる。佐田阿是彦(さたあぜひこ)である。二蛇と呼ばれた浦国王の片腕である。もちろん阿是彦も警戒されていたが、上手く私兵を使い、連絡を取り次ぎながら浦国王の安否を調べた。
  そしてもう1人、千田雨根彦(せんだうねひこ)。一蛇である。随一の外交力を駆使して賈陣営の粳国との繋がりを調査している。
  このネットワークに百千武主実(ももちむすみ)と富田真臣(とまたまおみ)も加わった。

  しかし、武主実を取り巻く環境は厳しいものとなっていた。もともと鬼の風貌をしている2メートルの大男。その状況に増して、かつて国を蹂躙した双角(もろすみ)の子であり、ヒヌカ連合の伊世李の弟であることが発覚したのだ。『武主実はヒヌカのスパイ』との噂が流れ、差別を受けるだけではなく、賈陣営から監視を付けられていた。

 武主実は、しつこくつきまとう賈陣営の監視の男を捕まえていた。若い男だ。
「つきまとうのを止めて欲しいんだが…。んー、違うな。ついてくるのは良いんだが、こそこそ監視するのを止めてくれないか。」
監視の男は、大男の武主実と戦いになるかと構えていた。武主実に付くからには武力にも長けているのだろう。
「なんだと?」
「名は何と言う?ウチで飯でも食わんか?」
武主実の言葉に、監視の男は呆気にとられていた。それを物陰から見ていた佐々仍利(ささじょうり)が笑いだした。
「ギャハハハ!お前らしいな武主実!」
仍利は近付いてきて監視の男の背中をポンと叩いた。
「武主実、ウチの親父が呼んどる。色々と情報が入ったらしくてな。」
武主実は仍利と共に歩きだしたが、思い出したように言った。
「あ!それで名前は何だ?」
「私は壬友(みとも)だ。」
「壬友。後で飯を食いに来いよ。」
今後、壬友は武主実の傘下に入り付き従うことになる。つまり賈陣営を裏切ったことになる。勘づかれないように監視は続けたが、もちろん報告内容は虚偽となっていく…。


  ここで少し、国どうしの関係性を説明する。説明するには各国を取り巻く歴史から話をしていこう。

「粟国の勃興」と「麹国の隆盛」

  かつて麹国は広く領土を誇った強国だった。国は栄え、新たなコミュニティも多く築かれていった。蛇神信仰が広がった地域でもあった。
  酒国は大陸文化の流入が大きく影響。この時代には珍しく小国が集まり大きな国へと発展していった。早くから貿易が盛んで、新しい技術もいち早く導入された。
  粟国は国としての形が出来上がった時代になる。異国から神宝とともに多くの文化や知識がもたらされ、独自の国作りが進んだ。

「粟国と酒国の領土拡大」と「麹国の分裂」

この時代になると粟国と酒国が領土を拡大。他国との貿易も盛んになった。そうなると国境を巡って、そして利害を巡って戦いも起き始める。
  特筆すべきは蓮国の新興である。異国から元首クラスの一族が流入し勢力を築いた。太陽信仰もここでもたらされた。
これにより麹国が分断され、芋国や麦国といった国が独立することになる。次第に鉄の生産で強国となっていく。自然崇拝ながら祭祀者自体をも敬う存在とする独自性が特徴である。
その狭間で粳国が産声をあげる。

「ヒヌカ連合発祥」と「粳国の新興」

  周辺国を吸収した粳国は、新興国ながら勢いに乗り版図を拡げていく。今や蓮国や麻国を狙う立場となっている。
  これは前回説明した話となるが、粟国は糠国への勝利をきっかけに西へ勢力を拡大。稗国とヒヌカ連合を組むと侵略が加速した。杤国や酒国をも傘下に入れる。戦争が続くにつれ、戦力を西側に集中していった。
  忘れてはならないことは、ヒヌカ連合は東側の一部を粳国に奪われていること。西側の戦いに傾注した結果であるが、ここから今に至るまで因縁が繋がっているのだ。


佐々孟利は幹部配下を集めて情報を伝えた。他の配下武将とともに佐々仍利や百千武主実、鵜照や鷹照も聞いていた。
「国王 浦島鳴様は…。浦様は、副王 賈智陽に殺害されたことが分かった。」

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