月刊読んだ本【2023.12】
どろどろの聖人伝
清涼院流水 (朝日新書)
清涼院流水によるどろどろキリスト教シリーズ第3弾。
知らない話ばかりでおもしろい。ていうかすぐ処刑しすぎでしょ。それだけキリスト教が脅威的な存在だったというのもあるだろうけれど。
SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと
チャールズ・ユウ/円城塔 訳 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
メタフィクションの展開になって複雑だった。ループに囚われた母と失踪した父に思いを巡らせる自分がループしている。しかも未来の自分から届けられた本こそが本書で? と混乱をきたす。でも家族の思い出と、人工知能の少女と実在しない相棒の犬もいるから孤独じゃない。これがSF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと。
こぼれ落ちる刻の汀
西澤保彦 (講談社)
SF色が強かった。なぜ文庫化しないのだろう。
スペースオペラ的なSFと近未来SFと現代SFの3つはどういうつながりがあるのかをうまくまとめていてよかった。それぞれの作品、単体の世界観で長編を書いてほしいとも思う。
生半可な學者(※)
柴田元幸 (白水Uブックス)
翻訳家のエッセイ。ずっと読んでいたい。英語の勉強にはならない。
(※)「半」は旧字体。点が逆。「絆」の右側に同じ。
蜜の森の凍える女神
関田涙 (講談社ノベルス)
第28回メフィスト賞受賞作。
文章がちょっと読みにくい。そして平凡というか量産型というか、目新しさを感じないのでなんでこれが受賞作? となった。そういう作家を求めている賞だっけ? それは私の認識か。あと、叙述トリック? というか伏線もあからさまでトリックとして弱いと思った。主人公の少年が実はロボットでしたとか姉は主人公の別人格でしたとかならよかったのに?
子どもの王様
殊能将之 (講談社ノベルス)
子供向け、ではない。子供の目線で物語を書けるのすごい。
無邪気だった子供の頃を思い出して胸が苦しくなったよ。子供の頃は、テレビの話題で盛り上がったよね……? 嘘だ。僕にそんな思い出はない。周りのみんなが昨日のテレビの話をしていても僕はテレビなんて見せてもらえなかったからわからない。胸が苦しくなったよ。
街とその不確かな壁
村上春樹 (新潮社)
発売日に買ってすぐ読んだらにわかファンだと思われるので(?)ようやく読んだ。ガチ勢なので。ていうか分厚くて重い本は電車の中で読むのは困難なので、夜寝る前にちまちま読んだ。世界の終わり2みたいな感じだった。第二部がおもしろい。「孤独が好きな人なんていないよ。たぶんどこにも」
第一部に描かれている主人公の感情が僕の胸を締めつける。もちろんこれは比喩的な表現だ。この人はどうしていつも喪失や孤独を描くのだろう? 何があったんだろう? あるいはそれは誰しもに存在する感情なのかもしれない。なにも彼だけが特別じゃない。僕だけが特別じゃない。でもその孤独の描き方が僕にうまく馴染む。僕の心の中の本棚にある空白にきれいにはまる。夢を読んで過ごす時間は終わったんだ。僕も図書館で働けばいいのかもしれない。
そしてマフィンが食べたくなる。
聖書の50人
ジャン・ピエール・イスブ (ナショナルジオグラフィック別冊)
断片的にしか知らない人々のことを断片的にまた知る。どうせすぐに忘れるとしても、そうやって地層のように積み重ねた知識はやがて僕の肉となり血となる。相関図とかあるとなお良かったかもしれない。
世界からコーヒーがなくなる前に
ペトリ・レッパネン ラリ・サロマー/セルボ貴子 訳 (青土社)
少し読みにくいと感じた。
ブラジルのコーヒー農園の人たちは自分たちが育てているものが何なのかもよくわからず育てていることもあるそうだ。そしてその豆は世界中で大量に消費される安売りの粗悪なコーヒーになる。農園の人たちは低賃金で働いている。このままでいいわけがない。農薬を使って土壌にダメージを与えていけばいずれその土地ではコーヒー豆の収穫ができなくなる。無農薬で熟した実だけを収穫した上等のコーヒーはおいしいけれど、高ければ売れない。そしてどこで生産されたかを追える、トレーサビリティが求められる。良い豆を育てる農園と契約しようという機運が高まれば、彼らの生活も豊かになる。それらは簡単なことではない。だからこそ我々消費者の行動が世界を変える。安売りのコーヒーばかり買っていては、いずれコーヒーが飲めなくなる日が来ると警告する。サステナブルな観点から我々に問いかける。
だいたい上記のような内容だ。うまくまとめられないけれど。あと、低賃金で生活している農園の人々は上等な教育が受けられないから云々。良いコーヒーを作るにはしっかりとした知識が必要だけれどその考え方の存在をそもそも知らない云々。という話もある。
本書は同じ話が何度も出てきて、まとめ方をうまくすれば名著になれるかもしれないと思った。
おいしいコーヒーが飲みたい。
ひみつのしつもん
岸本佐知子 (ちくま文庫)
ずっと読んでいたいので寝ている間にページが増えていたらいいのに。
ひとこと
12月の頭にチバの訃報を聞く。さよなら最終兵器。