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月刊読んだ本【2024.07】


三体Ⅲ 死神永生

 劉慈欣/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功 訳 (ハヤカワ文庫)

 最後まで先の読めない展開が続く。次から次へとよくもアイデアが浮かぶものだ。
 僕も好きな人に星をプレゼントして死にたい。かっこいい。そんな思いが、運命のいたずらが物語を動かしていく。残酷な運命に立ち向かうことになってしまった主人公になんてなりたくはないけど、終末を見てみたさもある。
 21世紀を代表するSFとして語り継がれていくだろう傑作だった。21世紀になってもSFの可能性は無限大であることを示しているし、人類なんていかにちっぽけな存在かがわかる。でも想像力は宇宙一かもしれない。他の文明でもSF作品は生まれるのだろうか。読まれるのだろうか。お互いに作品を紹介し合って新たな作品が生まれる宇宙であったらいいのに。

ニュートン式超図解 最強に面白い!! 睡眠

 柳沢正史 監修 (ニュートンプレス)

 夏は暑くてねれない。

夜叉ヶ池/天守物語

 泉鏡花 (岩波文庫)

 また、今庄に行きたくなった。夜叉ヶ池に行ったことはないけれど、白雪姫に会ってみたい。姫路城に妖怪伝説があるのは知らなかった。そういう背景を踏まえた上で戯曲が書かれているのだとも知らなかった。もっと読みにくいかと思っていたけれど、存外読みやすかった。そして面白い。水棲生物の精? とか花の精? みたいのがいっぱい出てきて演じるときはどのような演出をするのか興味深い。でも演劇を観ているのではなく戯曲を読んでいるのだから、書かれていないことを想像する楽しみもある。もちろん演劇も想像で補う部分が多分にあるだろうが。

中世への旅 農民戦争と傭兵

 ハインリヒ・プレティヒャ/関楠生 訳 (白水Uブックス)

 1ページに何度もランツクネヒトとでてくるからつくねが食べたくなる。ドイツ人がドイツ人のために書いているから、知ってて当然みたいな顔で固有名詞が出てくるから、いや俺は知らねーよとなる。農民も大変だったんだな。もはや中世の騎士の時代は終わった。傭兵が村を略奪する。めちゃくちゃやこいつら、となる。

ニュートン式超図解 最強にわかる!! 精神の病気

 仮屋暢聡 (ニュートンプレス)

 なぜこれだけ、最強に面白い!! じゃなくて最強にわかる!! なんだろう。
 全か無か思考とは私のことだ。あと、コロナうつとか書かれているけれど、むしろ個人的には逆だった。引きこもりが肯定されているようで元気出たし、このまま人類が滅びればいいのにとわくわくした。でも実際そうじゃないからうんざりしている。がっかりしている。気分がふさぎこむ。つまりこれがコロナうつかと思った。生きててゴメンな。でもお前らの期待通りに死んでなんかやらないからな。

オセロー

 シェイクスピア/福田恆存 訳 (新潮文庫)

 オセロの語源なんだってサ。現代人としてはネットの信憑性のない情報に踊らされてる滑稽な男みたいに見えて喜劇にも思えた。解説にオセローは黒人だからとかうんたらかんたらって書いてあったけど、そんなことは全然気にもしなかった。ムーア人がどんな人たちのことか知らないので自由に想像して読むことができる。そして真実(?)を知って改めて読むとたぶん印象が変わって二度楽しい。先月は戯曲を読めなかったので今月は2作めです。

カモメに飛ぶことを教えた猫

 ルイス・セプルベダ/河野万里子 訳 (白水Uブックス)

 猫の友情と愛情に感動。全猫は読んだほうがいい。世の中の人種や性別の差別に切り込む話にも思えた。
 たとえ、猫であろうとカモメであろうと愛情を育むことはできるし、それができない人類はなんて愚かだろう。どの猫も愛らしくて、個性的でよい。人間もそうだよなと言いたいところだけれど、そうじゃなくて人間も猫もそういう垣根を超えてすべてを愛すべきではないか。愛の本だった。ある意味聖書だった。人間に愛を教えた、カモメに飛ぶことを教えた猫だった。夏休みの読書感想文にうってつけの作品かもしれない。そして早く猫になりたい。

華氏451度 〔新訳版〕

 レイ・ブラッドベリ/伊藤典夫 訳 (ハヤカワ文庫)

 比喩なのか主人公の心象風景なのか現実なのかよくわからないシーンがたまにある。本が禁止されて燃やされる未来。でも禁止されたら覗いてみたくなるよね。だから主人公の行動はよくわかる。むしろそれが普通なのではないか。でもそれが普通ではなくなっている世界だからフィクションとして成立するのだ。
 この小説に描かれている未来が来なくてよかった。本がなければ僕は生きていられないだろう。2024年になっても本は大量に生まれ続けていてそれはいいことなのだろうが、年々書店が減っているというニュースに胸を痛める。禁止されて読めない方が、禁止などされていないのに読まないことより正しい社会な気もしてくる。大量に本があって、簡単にアクセスできる時代なのに、人々が本を読まないのは悲しい。電車に乗っていても紙の本を読んでいる人はほとんどいなくてみんないったいどうやって生きているんだって不思議だ。
 昔観た映画ではfiremanが「消防士」と字幕で書いていたけれど、本書は「昇火士」という訳で好感が持てる。
 そして、伊藤典夫氏というレジェンドが齢70を超えて新訳を刊行してくれたことに感動と感謝。

ひとこと

 今年の夏も暑いかもしれないけれど、紙の本が焼ける温度ではないので悲しむことなどない。それに今は地球の歴史からみたら涼しい方だよ。なんてったって氷河時代なのだから。地表に氷河がある時代のことを氷河時代と呼ぶわけで、その中でも人々が一般にイメージする氷河期というのは現在では氷期と呼ぶらしい。そして今は氷期と氷期の間の間氷期である(あと5万年ぐらい続くらしい)。でも地表に氷河があるから氷河時代(こっちを氷河期と呼ぶこともあったみたいだけれど、ややこしいから今は氷河時代と呼ぶのだ)である。つまりそんなに暑くないな。恐竜が生きていた時代はもっと暑かったはずなので、恐竜時代にタイムスリップするフィクション作品は、もっと現代人が暑がる描写が必要だと思う。あるいは二酸化炭素が多くて呼吸が苦しいとか。そんな7月でした。
 ひとこととはいったい……。

 また来月。


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