夢学的6段階発達論(夢の学び40)
前回、「夢の4つのチカラ」についてお話ししました。
復習のために、以下に簡単にまとめておきましょう。
○魚影を見るチカラ
夢が無意識の産物であることに気づいていて、いわば無意識の海を泳ぐ魚の「影」を追うように、夢に注意を向けるチカラ。
○魚を釣り上げるチカラ
魚影をしっかりとらえ、釣竿をたらして魚を釣り上げるチカラ。つまり、目が覚めても夢を憶えていて、それを記録にとるチカラ。
○魚を料理するチカラ
釣り上げた魚をきちんと料理するチカラ。つまりドリームワークによって、記録した夢の意味を読み解き、自分の知的財産とするチカラ。
○料理を食べて栄養にするチカラ
読み解いた夢の意味を、単なる知識としてではなく、「夢の教え」として実人生に活かし、成長していくチカラ。
さて、もうお気づきかもしれませんが、これら4つの「夢のチカラ」を発揮するには、そもそも夢に興味を持っていなければ始まりません。
つまり、夢にいっさい興味を持たずに、したがって夢のチカラをまったく発揮せずに一生を終える人もいるわけです。
これは、もったいなくも残念な話です。
なぜかというと、長年「夢学」に携わってきた人間としては、夢が自己実現や自己成長に果たす役割がどれほど大きいかを身に沁みて実感しているからです。
そこで今回は、人が夢を媒介に、どのようなステップを踏んで人間として成長・発達するか、いわば「夢学的人間発達論」をほんの少し展開してみたいと思います。これはまだ「試論」の段階ですが、古今東西の発達論者たちの発達段階モデルを全体的に比較してみるなら、大筋では間違っていないだろうと思っています。これはいつかきちんとした夢学の学術論文として表したいとも思っています。したがって今回はあくまで「序論」です。
1. 前-ドリーマー段階
夢に興味を持つ以前の段階です。この段階の人は、もちろん自我は芽生えていますが、二元論的傾向が強いでしょう。「現実と夢」「心と体」「健康と病気」「右脳と左脳」「公と私」「仕事と遊び」「職場と家庭」「都会と田舎」「男と女」「日本と外国」といった具合いに、物事を二項対立的にとらえ、その一方を重視する傾向にあります。比喩的に言うなら、片目だけで世界を眺めている段階ということです。
こういう人は「私は夢をみません」と言う傾向にありますが、みないのではなく「みても忘れている」ということです。つまり、夢を軽視し、現実を重視している、ということです。
私は「インテグラル夢学」の中で、「夢」や「元型」についての理解が人間としての成長・発達にどれだけ重要かをくり返し説いてきましたが、この段階の人は、こうした対象に関して、まったく開眼していない段階ということです。
2.ドリーマー段階
夢をみて、それをしっかり憶えている段階です。もちろん夢に対する興味が芽生え始めていて、夢には何か現実とは違う「チカラ」がありそうだと感じている段階でしょう。夢の記録もとり始め、気になる夢や気になるシンボルは、夢辞典などを紐解いて調べたりしているかもしれません。「元型」という概念に関しても、少し興味を持ち始めているかもしれません。
しかしまだ、夢に対する認識としては、まさに知らない単語を辞書で調べ始めている段階で、いわば外国語を習いたての初心者ということです。つまり、「この世には、母国語以外にも言語があり、それは異なる文法や構造や文化を持っている」ということを理解し始めている段階ということです。
3.ドリーム・プレイヤー段階
ドリームワークなどを習い始め、夢の意味を読み解いて、それを自分の実生活に活かし始めている段階です。「元型」に関する理解もかなり進んでいるでしょう。
ここまでくると、夢がいかに現実の人生とつながっているか、むしろ夢(無意識)が現実をいかにコントロールしているかも理解し始めます。そうすると、夢のチカラを意識的に駆使しようとし始めます。
この段階では同時に、夢を通じて、無意識の部分で他者と深くつながっていることも認識し始めます。つまり、夢も含めた世界認識の人称が一人称から二人称・三人称に進化し始める、ということです。「私」から「私とあなた」へ、そして「私たち」への意識進化ということです。
4.ドリーム・ヘルパー段階
夢のチカラを意識的に駆使し始め、夢を通じて他者とつながっているという認識が持てれば、次に、自分の夢のチカラを他者の役に立つよう使い始めます。夢の三人称をはっきり意識して、そのチカラを駆使し始めるということです。
私たちは、この段階へと促すために、あるいはこの段階に至った人のために、「ドリーム・テレパシー」「ドリーム・ヘルパー」「DI(ドリーム・インキュベーション)」「ドリーム・チーム」(※)などの活動を用意しています。これらを順番に経験することによって、自分の夢のチカラを他者のために用いる実力が確実についていき、その分個人の成長も促されるはずです。
いわゆる「霊的な領域」への覚醒も、この段階あたりからスタートするでしょう。
5.ドリーム・メンター段階
この段階に至った人は、他者の成長・発達や目標達成、問題解決のために、自分の夢のチカラを意識的に使い始めます。つまり、夢を通して、他者の「メンター(指導者)」役になる、ということです。個人だけではなく、集団や組織全体のメンター役にもなっていくでしょう。ここまでくると、夢が自分自身のためだけにあるのではなく、公共のものでもあることをはっきり自覚することになります。つまり、「自己と他者」「自己と世界」が一体化し始めるということです。言い換えるなら、三人称の意識から、四人称・五人称の意識へと進化し始めるということです。これは、「私たち」から「私たち全員」へ、あるいは「自分も含めたこの世界(宇宙)全体」という意識への進化ということです。
この段階に至った人は、「ドリーム・テレパシー」「ドリーム・ヘルパー」「DI(ドリーム・インキュベーション)技法」「ドリーム・チーム」といった活動全般を取り仕切る実力も兼ね備えるようになるでしょう。
高位の「元型」(※)のチカラを使い始め、「霊的な領域」への覚醒も、本格化してくるはずです。
6.ドリーム・マスター段階
この段階は、いわば夢を通した人間的成長・発達の最終段階で、1段階目から5段階目をすべて含み、さらにそれを超えた段階ということです。自己を見詰める目、世界を見詰める目に「死角」や「盲点」がなくなり、自己と世界は統合され、「非二元」的境地に達しています。夢と現実の境はもはや意味を成さなくなり、覚醒状態、半睡半覚状態、深睡眠状態、瞑想状態のすべてを通して一定の意識状態(つまり一貫した覚醒状態)を保ち、高度な象徴化・抽象化・元型化・統合化の作用により、あらゆる問題に対して一瞬にして高度な解決策を提示することができるでしょう。
さて、ざっと6段階目までを見てみましたが、もちろん私が最終段階に到達しているというわけではありません。私は去年、師匠から「マスター・ドリームワーカー」の称号を拝受しましたが、それは師匠からの「激励」であって、「証明」ではないと解釈しています。
今私は、4段階目から5段階目に移り始め、5段階目の役割をやり始めようか、というところにある、とだけ申し上げておきましょう。
ただ、これだけは自信をもってお伝えできるのは、ドリームワークの実践など、夢学に携わる個人や団体の中で、個人に対しても組織に対しても、これだけの完成された「夢を通した成長プログラム」を体系的にご提供できるのは、(少なくとも日本では)私たちのグループだけだろう、ということです。
その理由は主に二つ。
ひとつは、師匠を中心とするここ30年の、この分野における研究・実践の実績です。これは世界にも類を見ないものです。
そしてもうひとつは、そうした実績に支えられた、確実で骨太な体系的「夢学理論」がプログラムの背景にある、ということです。私はそれを「インテグラル夢学」と呼んでいるわけです。おそらく「夢学」をここまで体系化した例も世界初でしょう。
さて、あなたは夢を通した自己成長・自己実現の何段階目までいくでしょう。
第一段階で一生を終わることも、もちろんできます。そうだとしても「大人」になることは可能でしょう。ただし、その場合は「夢」以外に何か人間的成長を促す方法論なり媒体なりが必要ですが・・・。
おそらく、意志と努力次第で、ほとんどの人が4段階目まではわりと順調に到達するだろうと、私は考えています。ドリームワーカー、ドリームカウンセラーなどの専門職を目指す人なら、少なくとも4段階目までは到達していることが必要最低条件になります。
(※)
「ドリーム・テレパシー」
情報の発信者と受信者に分かれ、発信者が特定の情報源を選んで、それを受信者に向けて発信するという意識で寝ます。それを受信者が夢でどれだけ正確かつ包括的に受信できるかを試す心理学的(あるいは超心理学的)実験です。私たちのグループは、長年の間この実験を積み重ねた結果、夢を通した情報伝達が統計学的に有意な確率で可能であることを立証しています。
「ドリーム・ヘルパー」
夢を用いて、個人の問題をグループで解決する、という方法論で、もともとはネイティブ・アメリカンの儀式として発達したものですが、1960年代頃から、一部の専門研究者たち(主にアメリカ)によって洗練されたかたちに再構築され、何度も実証実験が繰り返されてきたものです。日本では私たちのグループを含め、これに携われる人間はごくわずかです。
「DI(ドリーム・インキュベーション)技法」
夢を用いて、集団や組織内に発生する問題を構成員自らが解決する、という方法論で、公式には世界的にも数えるほどしか報告例がありません。日本ではおそらく私たちのグループしか実践例がないでしょう。これには夢のチカラだけでなく、総合的な分析力、洞察力、論理的構成力、コーディネート力、統合力なども要求されます。
「ドリーム・チーム」
「ドリーム・テレパシー」「ドリーム・ヘルパー」「DI(ドリーム・インキュベーション)技法」などを恒常的に実践することによって、個人や組織だけでなく、全人類規模の問題の解決にもチャレンジする「特命チーム」です。このチーム活動が本格的に実践された例は、世界的にもまだ確認されていません。もちろん私たちのグループは、ここを目指しています。
(※)
「元型」
もともとはユング心理学の用語ですが、ここではケン・ウィルバー理論での定義に従っています。ユング心理学においては、「アニマ」「アニムス」「ペルソナ」「シャドー」「グレートマザー」「オールドワイズマン」などの元型が提示されていますが、これらの「元型」には「下位」と「上位」という区別は特にありません。ウィルバー理論では、無意識の構造の見直しが行われ、ユングがすべての「元型」を「集合無意識」の産物としているのに対し、古代的なイメージと超個的な「元型」とがはっきり区別されています。ウィルバーによれば、「グレートマザー」や「オールドワイズマン」は超個的な元型だといいます。ウィルバーはこのほかに「神格」という意味での「イシュタデーヴァ」「イーダム」「禅定仏」といった最上位の「元型」を提示しています。ドリーム・メンター段階で意識されるのは、もちろんこうした超個的な元型です。