【映画感想文】愛と哀しみのボレロ

午前十時の映画祭13(2023年度)で上映された『愛と哀しみのボレロ』を観てきました。
滞在している地域の上映が終了してしまいましたが、記憶の範囲内で感想など、書き留めることにします。

note、初めて書きました。全く感覚をつかめず、途中で投げ出しています。
有料の部分は見苦しいメモ群です。間違えて買わないようにしてください。


原題: Les Uns et les Autres
監督・脚本・製作: クロード・ルルーシュ
音楽: フランシス・レイ、ミシェル・ラグラン
製作国: フランス


【概要】

“戦争は憎しみあう者同士の対決ではなく、
       愛しあうもの同士の別離だ”

劇中、ドイツ人の指揮者カールが妻マグダにあてた手紙

この映画は、ロシア、フランス、ドイツ、アメリカ人による、親子三世代にわたる異なる家族の人生が、20世紀の歴史(主に第二次世界大戦)に翻弄される様子を描いています。

引用したセリフに象徴されるように、ほぼ独立した4家族のエピソードに一貫するのは別離と再会です。

この4家族3世代が、戦争を経て80年頃にチャリティイベントを機にたまたま集結し、ラヴェルの「ボレロ」を披露、鑑賞するラストシーンが一番の魅力です。

このラストシーンには類を見ない異様な美しさがあり、感動的で、壮大です。圧倒されます


【特徴とその効果】

1.主要4家族の絶妙な関係の”無さ”

この映画の特徴の一つは、群像劇のようでありながら、4つの家族は人生の中で接線的にしか交わらないことです。

演奏をラジオで聞いている、演奏会でダンスを楽しむ大勢の中にいる、など、さりげなく同一シーンに収まっていることが多いです。

また、盲目のアコーディオン奏者(音楽担当のミシェル・ルグランのカメオ出演)の反復するショットは、同時代、同空間の彼らをさりげなくつなぎ留めています。

触れるか触れないか、キャラクター達の人生が、戦争という悲劇の布地にとても繊細に織り込まれています。

最後まで、観客は神の視点で4家族の運命的な繋がりを見つめます。

2.一人二役の効果

この映画のもう一つの特徴は、主要人物の俳優が親と子(孫)を二役演じることです。

これらによって、ラストシーンではこの世の人間も、あの世の人間も一所に集まるかに見える異様な劇的効果を発揮します。

戦争や事故で非業の死を遂げた親があの世から、子や孫の肉体を通じて景色を共有しているかのように見えるのです。

ボレロを観るのロベール(息子)とアンヌ(母)
実際は親子だが観客にはシモン-アンヌ夫妻にも見える。

3.最小限のセリフ

クロード・ルルーシュ監督は最後まで手抜かりなく、力強い映像で語ります。感情に訴えてくる印象的なシーンの多くは音楽と映像だけで魅せてきます。大胆なカメラワークや長回し、スローモーションなど壮観で素晴らしい映像です。

(印象的な雄弁な映像表現を後半に列挙しようとメモしたのですが、くたびれて諦めました。記事の最後、メモだけが未完成のまま投げ出されています。)

例を一つ上げれば、母親が息子を探すエピソードのクライマックスです。音声が聞こえないロングショットで撮影されているにもかかわらず、細かな挙動、ニュアンス…見るのが耐えられないほどに仕上がっています。


【野心的な脚本と複雑さ】

監督・脚本のクロード・ルルーシュはこの映画を成立させるために、独立した4つの家族のエピソードを同時進行させ、かつ、セリフは最小限にとどめるという、という非常に野心的なことをしています。

したがって、一回で把握しきるには美しい細部が多すぎます。結果として、ややこしすぎるということで、レビューサイト等では低い評価をつけられているようです。

『愛と哀しみのボレロ』はそのような欠点は確かにあります。上映時間も3時間で、積極的におすすめはしづらいです。

しかし、美しい細部、良質な音楽と映像、気持ちの良い結末により、複数観賞に堪えると思います。

20世紀が経験した恐怖や悲劇、愛、虚無と死に対して、芸術が希望、再生、人類の贖罪の普遍的な言語のひとつであることを祝福する重要な映画作品です。


【4つの家族について】

この映画がややこしくなるのは4つのカップルに加えて脇のカップルとその子が登場するのと、その子供がどんどん生まれて話が収束するどころか膨らんでいく部分にあります。
 
ここでは、場面転換して同時進行させる映画の時系列ではなく、主要な4家族の登場人物の顛末(登場シーンから慈善公演で何をしているかまで)を順番に整理してみます。

① ソ連の家族

1.ボリス(父) / セルゲイ・イトヴィッチ(息子)(演:ジョルジュ・ドン)

・ボリス

モスクワのボリジョイ劇場でプリマドンナのオーディションに参加したタチアナに審査員の1人として出会い、結婚。息子のセルゲイが生まれた直後に戦争が勃発し、徴兵を受けてロシア戦線のスターリングラードで戦死。

・セルゲイ

ボリスとタチアナの息子。母親の指導で幼い頃からバレエを習い、天才的な舞踏家となる。パリ公演後、ソ連行きの飛行機に乗る直前に引き返し、フランスに亡命する。
(セルゲイのパリ公演)
ラストシーンではダンサーとしてパフォーマンスをしている。

2.タチアナ(母) / タニア・イトヴィッチ(孫)
(演:リタ・ポールブールド)

・タチアナ

ボリジョイ劇場でプリマドンナを争うバレリーナだった。ボリスと結婚してセルゲイを出産し、戦時中は踊り子として慰問活動をする。夫の戦死後、バレエの教師となり、そこで再婚する。

・タニア

セルゲイの娘であり、タチアナの孫。パリでバレリーナの練習をしている。
ラストシーンでは現地の席で鑑賞している。

② フランスの家族

1.シモン・メイヤー(父) / ロベール・プラ(息子)
(演:ロベール・オッセン)

・シモン

ユダヤ人でパリのフォリーベルジェ―ルというリド(キャバレー)で倒れたピアニストの代役のオーディションでピアノの席を勝ち取り、そこで出会ったアンヌと結婚する。ナチスのユダヤ人迫害によって国外追放され、収容所のガス室で殺される。

・ロベール

シモンとアンヌの息子。本名はダビッド・メイヤー。赤ん坊の時、両親によって収容所行きの列車に乗っている間、自分の名前、住所等を書いた手紙とお金と一緒に線路に密かに降ろされる。翌朝に若者に拾われるが、手紙とお金を奪われ協会に連れていかれる。協会の司祭夫婦の息子として育てられる。アルジェリア戦争に出兵し帰還後、著名な弁護士になり、本をきっかけに認知症となった母親と施設で再会。
ラストシーンでは現地の観客席に実母アンヌの隣で鑑賞。

2.アンヌ・メイヤー(母)
(演:ニコール・ガルシア)

フォリーベルジェ―ルのオーケストラでヴァイオリンを弾いていた。戦後は収容所から一人で戻り、フォリーベルジェ―ルの同僚と再会するが、捨て子をした駅周辺に住み、生き別れになった息子を捜し続ける。収容所以降ヴァイオリンを捨て、戦後はアコーディオンを弾いている。
捨て子した線路の周辺から離れられず、余生は息子を探し続け、彼女が認知症を発症するまで、線路に定期的に訪れる。
ラストシーンでは、現地の観客席でダビット(ロベール)の隣で鑑賞。

3.パトリック・プラット(孫)
(演:マニュエル・ジェラン)
ロベールの息子でシモンの孫。父ロベールに反し音楽に傾倒し、プロの歌手になる。デュエットの相手としてサラに気に入られる。
ラストでは男声の歌手として参加している。

③ ドイツの家族

1.カール・クレーマー(父)
(演:ダニエル・オルブリフスキ)

ナチス政権下のベルリンの音楽家。ヒトラーの前で演奏するほどの腕で、妊娠中の妻マグダを残して、占領軍の軍楽隊長に任命され、パリに入る。幼い息子はベルリンの空襲で死んだ。戦後は著名な指揮者となり、ヒトラーとの関りをユダヤ人団体に糾弾されながらも、妻のマグダとともに世界各国を回る。
ラストでは、オーケストラの指揮者として参加。

2.マグダ・クレーマー(妻)
(演:マーシャ・メリル)

カールの妻。戦時中の空爆で幼い息子を亡くす。メディア対応などマネージャーとしてカールをサポートする。
ラストでは舞台裏で鑑賞している。

3.エヴリーヌ(母) / エディット(娘)
(演:エヴリーヌ・ブイックス)

・エヴリーヌ

戦時中のパリで歌っていたシャンソン歌手。パリを訪れていたカールと恋に落ち、エディットを出産する。戦後のパリで敵と寝た売国奴として迫害され、ディジョンに帰郷するも、親族にも軽蔑され居場所を失い、自殺する。
 
・エディット

エヴリーヌとカールの娘だが、カールが父親であることは知らない。母の故郷ディジョンで祖父母に育てられた。結婚するためパリへ来たが、婚約者に裏切られ、孤立する。パリへの電車内で、アルジェリア帰還兵のロベールと出会う。バレエ教室の掃除婦やミュージカルのバックダンサーなど職を転々としてアナウンサーとなる。
ラストでは慈善公演の告知やテレビ中継の司会として舞台に参加。

④ アメリカの家族

1.ジャック・グレン / ジェイソン・グレン
(演:ジェームズ・カーン)

・ジャック

ニューヨークのジャズバンドを指揮する著名な音楽家。「サラのセレナーデ」など作曲や作詞も手がける。戦時中は、連合軍の軍楽隊長として、慰問楽団を率いてヨーロッパ各地を演奏にまわった。
ラストシーンでは、再婚した妻( /愛人?)とテレビ中継で鑑賞。

・ジェイソン

ジャックのゲイの息子。少年時代はサラが生まれた際の病院のベッドのそばや、父ジャックが戦争に行く前、帰還後のお迎え演奏で眼鏡をかけて指揮している様子などが映る。歌手として活躍する妹のサラのマネージャーをしている。サラが乱れ、人気低迷しているころに、サラの薬を使って自殺未遂をしている。
 
ラストはサラのマネージャーとして舞台裏で鑑賞。

スーザン(母) / サラ・グレン(娘)
(ジェラルディン・チャップリン)

・スーザン

ジャックの妻。フランス出身の歌手で、カールがニューヨークで指揮している映画導入時、二人目の子であるサラを生んでいる。戦後、交通事故により死亡する。

・サラ

ジャックとスーザンの娘。歌手として大きな成功を手にするが、私生活は乱れ、4回の離婚を経験する。アメリカで人気が低迷してきたため、パリのリドへの出演を決める。
サラはかなりだらしなくて、ジェイソンの自殺未遂はサラの薬が使われています。(翻訳では単に薬としか訳しておらず、“my pill”が省略されてしまっています)
ラストでは女声の歌手として参加

ちなみに、演じたジェラルディン・チャップリンはあの喜劇王の長女


以上が主要な4家族です。このほかに、ユダヤの少年とその家族、少年をかばった学校の教師の家族、アメリカ一家の近所でずっと喧嘩している兄弟(落下傘部隊として撃ち落されて死亡)、シモンとアンヌの楽団の仲間たちなどがいますが、一回で全員追うのは難しかったです。


特に、アルジェリア帰還兵たちのエピソードによって、少し全体のまとまりに欠ける気がします。こういう部分は歴史を舞台にするうえで物語のまとまりだけを考えるわけにはいかなかったのだと思います。


以降から完全趣味用のメモ書きですので無視してください。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

【映画の見事な冒頭】

この映画の導入は本当に見事なもので、映像だけで相当わかりやすく作られています。「愛する者同士の別離」を描くうえで、余分なものが極限までそぎ落とされています。
以下は登場人物の紹介で気付いたことを自分用にメモしています。


イントロ→1936年 モスクワ

・ラヴェルのボレロの有名な部分(ドーシドレドシラ ドッドラド)が場面転換と同時にピアノになる。ダンスは美しく、特に、タチアナの回転と逆にカメラが回るカットは壮観。
 
1937年 パリ
・活気あふれる戦前のパリ。時と場所が字幕の説明ではなくセットに組み込まれているのがミュージカルっぽい。音楽も魅力的。

・アンヌのクロースアップに対し、シモンのクロースアップでは盲目のアコーディオン弾きが画面の中心にいる。

1938年 ベルリン

・カールがヒトラーの前でピアノを披露。厳粛な雰囲気がひしひしと伝わる。
・喜んでつまずくほど急いでらせん階段を駆け上がるシーン。

1939年 ニューヨーク

・フランスとイギリスがドイツに宣戦布告したことを知ったスーザンの顔。
 
1940年のパリ

・「パリのドイツ人」というマーチ(?)と共に、ドイツ軍の軍用車が鳩を蹴散らしてフレームインします。ここではカールとエヴリーヌ、フランスの夫妻が同じ広場にいます。

・戦争を知る前のエヴリーヌの緊張感のなさが恐ろしく、悲しくなります。後に断罪されることを知らない。
 
登場人物をさらっと紹介してなめらかに戦争に突入。エヴリーヌの歌で知る、1941年。


【シーン一覧が載っているフランス版のWikipediaのURL】

これ以降のストーリーはフランス版のWikipediaにシーン一覧が載っています。
完全版である4時間版のシーン一覧も右にある「▼」押せば見られます。



以降は自分用のメモ書きです。無視してください。

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