『蛇にピアス』|読書感想文
金原ひとみさんの『蛇にピアス』を読んだので感想を書きます。第130回芥川賞受賞作らしいです。吉高由里子さん主演の映画が2008年に公開されています。
あらすじ
アウトローな世界観
未成年飲酒や、スプリットタン、刺青、大量ピアス、暴力、性行為など、アウトローでどこか破滅的な世界観の話でした。想像以上に刺激が強くてちょっとびっくりしました(笑)「グロイ」「エロい」という言葉が頭に浮かんでくる感じです。覗いていけない世界を覗いてしまった、足を踏み入れてはいけない世界に踏み込んでしまった、そんな感覚になりました。私がピアスを耳に11個開けたのも、この作品を読んでよりそういったアンダーグランドの世界に興味を持ったからでもあります。
痛みを感じているときに生を実感
ルイは痛みを感じているときに生を実感しているようでした。自傷行為もそんな感じですよね。人が自傷行為、あるいはそれに近しい行為をするには、さまざまな理由があると思いますが、苦しみから逃れるため、つまり生きるために自傷するのではないかな…と私は思っています。私からすると、目に見えても見えなくても、傷というのは美しい生きた証です。
肉体を傷つけて痛みを感じるというのは、少なくともちょっとばかりは死に近づく行為です。無意識的にでも死に近づくことで、「生きている」と自己の生を感じることができるのかもしれません。生や死をもっと感じてみたいから、スカイダイビングやバンジージャンプに挑戦するという珍しい人もいますしね。逆接的な考え方ですが、痛みを感じているときに生を実感することは確かにそうかも…と思いました。
この年代ならではの不安定さ
若さゆえの脆さや不安定さというんでしょうか。ルイには、絶えず空っぽで虚無感が付きまとっていたから、ひたすら肉体的な刺激を求めるようになったり、人やお酒に依存するようになったりしたのかなと思いました。なんだかとても衝動的・自己破壊的で、刹那的な儚い生活をしているように思いました。私も同年代なので、そんなルイにはなんとなく共感できる気がしました。良くないってわかっていても、好奇心なのかわからないけどなぜかそれを求めてしまうんです。痛み、悲しみ、不安、焦燥感、などいろんなものが交差していましたね。
恋人を失う悲しみ
ルイはアマと恋人の関係でしたが、サディストな刺青師のシバさんとも肉体関係を持っていました。みんながお互いにそれぞれ好意を抱いている不思議な三角関係でした。でも、結果的にアマは死ぬことになります。かなり残酷な死に方をします。アマを失ったルイは、まるで自分の一部を失ったかのように、別人になっていました。スプリットタンにしようとひたすら舌ピアスを拡張して、痛みを感じていました。そんなルイをシバさんは心配して支えていましたが、それでも恋人を失う悲しみというのは測り知れないものなんだろうな…とルイの姿を見て思いました。ルイのアマに対する、純粋であり激しくもある愛情が感じ取れました。
空洞は埋まらない
お酒に溺れても、性に溺れても、ルイの中にある空洞は、埋まっていなかったのではないんじゃないかなと少し思いました。お酒や性なんてものは、現実から逃げるために使われるある種の麻薬のような快楽要素があるように私は思うんです。ルイが身体改造をしたのは、現実逃避というよりは、痛みだけは確かであり、現実を突きつけてくれるから、その痛みを感じ続けていたい…というどこか矛盾しているようなこともあるのかな…と考えました。生きたいのか、死にたいのか、そこに境界はあるようでないのかなとも思いました。
文体が軽めでページ数も少なくて読みやすかったです。いろいろな意味でなんだか強烈だったので、とても印象深かったです。シンプルだけど哲学性もある作品です。性描写が激しめなので、苦手な人は読まない方がいいかも…と思いますが、そういうことを言うと、逆に読みたくなりますよね(笑)吉高由里子さんは、どんな感じでルイ役を演じたのか、映画版も気になりますね。