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『万引き家族』|読書感想文

是枝裕和さんの『万引き家族』を読んだので、感想を書きます。2018年に公開された映画は、カンヌ映画祭で最高賞を取るという偉業を成し遂げたので、とても有名ですよね。

あらすじ

「彼らが盗んだものは、絆でした」

とある住宅街。柴田治と息子の祥太は、スーパーや駄菓子店で日常的に万引きをする生活を送っていた。ある日、治はじゅりという少女が家から閉め出されているのを見かねて連れて帰ってくる。驚く妻の信代だったが、少女の家庭事情を案じ、 一緒に「家族」として暮らすことに。年金で細々と生きる祖母の初枝、信代の妹でJK見学店で働く亜紀。6人家族として貧しいながらも幸せに暮らしていた。しかし、ある出来事を境に、彼らの抱える 「秘密」が明らかになっていく―――。

Amazonの紹介文から引用

寄せ集めの擬似家族

ちょっとネタバレになりますが、本名でない登場人物が何人かいます。これは血のつながりがない擬似家族です。治と信代に拾われたじゅりも信代によって「凛」という新しい名前を与えられます。これは、渋って捜索願を出したじゅりの両親や誘拐騒動から、じゅりを匿うためでもあります。じゅりはその家で暮らすことを選んだんです。みんなで同じ家に住んで、寝食を共にしています。血のつながりもないし、家族でないのに、とても家族らしい雰囲気でした。それは彼らひとり一人が、心の中に隠している理想の「家族」を体現しているかのようでした。

万引き=「仕事」という悲しさ

父親の治は、息子の祥太に万引きの仕方を教授して、手分けして一緒に万引きをしていました。彼らにとっての「仕事」は万引きでした。彼らには、倫理観というものがほとんど存在していません。治は「店に並んでいるものは誰のものでもない」「学校は勉強ができないやつが行く場所」という暴論を唱えていました。そして、祥太もそれに倣っていました。

でも、治はまともな教育を受けていないし、万引きくらいしか祥太には教えてあげることができなかったんです。どこか得意げになりながらも、万引きという罪を重ねながら、生計を立てる彼らの姿は、何とも言えない悲しさを想起させました。本当はわかっているけど、あえてそれを口に出さない。余計なことを考えず、とりあえず生きているようにも見えました。

選んだ方がキズナは強い。

「選ばれたのかな・・・、私たち・・・」
「親は選べないからね。普通は」
「でも・・・こうやって自分が選んだ方が強いんじゃない?」
「何が?」
「何がって・・・キズナよ。キズナ」

133ページ

このやりとりは、なんだかとても心に残りました。選べるものなら、自分が「これだ!」と思うものを全部選びたいものです。それだったら、たとえ自分が選んだものがひどいものであったとしても、まだ受け入れられるような気がするんです。でも、選ぶことすらできないものが、ものすごくひどかったら、本当に悲しいと思います。

自分で選ぶという行為は、選んだものを信じたい気持ちがどこかにあるから、できるのではないでしょうか。その信じる気持ちが強いキズナを生み出すきっかけになるのではないか、と私は思うんです。選ぶには、多少の責任も伴います。その責任もキズナを強める要因になっているのかもしれませんね。

いつか終わりが来るとしても

家族全員で海に遊びに行ったシーンが幸せの絶頂という感じでした。まるで嵐の前の静けさです。この生活の終わりを危惧する家族がいたゆえに、海に行くことになったのですが、それが最初で最後のじゅりも含めた家族全員でのお出かけということになりました。とても切ないと思いました。でも、本当に楽しそうで何よりでした。

法律が許してくれない

この疑似家族は、一緒に居ることが法律に決して許されません。特にじゅりは治と信代が「拾った」のではなく、「誘拐した」と捉えられます。じゅりを虐待する両親から救った救世主だと思われることはないんです。じゅりに関すること以外にも、隠されていたいろいろな問題が明らかになりましたしね…。

子供の誘拐に対する世間の目は、厳しいですよね。家にいられない事情がある子供が望んだとしても、無許可で勝手に自分の家に連れ帰ったら、犯罪扱いです。保護と誘拐は紙一重のように感じられます。でも、警察に子供を届けたら、また保護者の元に帰されるだけで根本的な問題なんて、何も解決されないと思うのですがね…。厄介事には、素人が首を突っ込んでもどうにもならないし、かえって問題を複雑化させるだけだったりもします。子供の幸せが叶う世界なんて、どこに存在するんだ…と思いました。


家族の本質について、考えさせられました。彼らは歪んでいても、エゴの集合体であっても、ちゃんと家族だったと思います。まがいものなんかではなく、温かさのようなものがそこにはちゃんとありました。いろんな人の集まりだったからこそ、ひとり一人のキャラも際立って魅力的でした。彼らが共に過ごした時間は、間違いなく幸せであったんじゃないかな…と感じました。表現がわかりやすく、とても読みやすかったです。また、見たい映画が増えました。

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