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『星を掬う』|読書感想文
町田そのこさんの『星を掬う』を読んだので、感想を書きます。有名な『52ヘルツのクジラたち』がなかなか図書館で借りられないので、他の本を選んでみました。
あらすじ
小学1年の時の夏休み、母と二人で旅をした。
その後、私は、母に捨てられた――。
ラジオ番組の賞金ほしさに、ある夏の思い出を投稿した千鶴。それを聞いて連絡してきたのは、自分を捨てた母の「娘」だと名乗る恵真だった。
この後、母・聖子と再会し同居することになった千鶴だが、記憶と全く違う母の姿を見ることになって――。
捨てた側と捨てられた側
主人公の千鶴さんは、小学1年生の頃、母親に連れ出されて旅をします。そこでいつもとは全然違う自由奔放な母の姿を見て、驚きつつも二人で楽しい時間を過ごします。けれど、泊まっていた宿に怒った父と祖母がおしかけてきて、千鶴さんを連れ帰ります。その後、お母さんは離婚して、二度と戻ってこなくなったそうです。
お母さんが誰にも言わずに、千鶴さんを旅に連れて行ったのはどうしてだったんだろう…という謎は、物語のカギを握っていました。千鶴さんはお母さんに捨てられたことをずっと恨んでいるようで、お母さんと過ごした夏の思い出を忘れずに何度も思い返している様子が切なかったです。
他にも、母を捨てた娘と娘に捨てられた母が、登場人物にいます。千鶴さん母娘と一緒で、どうにもできない深い事情があったけど、お互いに分かり合えるまでの傷つけ合いは、とても悲しかったです。せっかく再会できても、こうもうまくいかないものなんだ…と思わされる展開で、こっちまで泣きたくなるような場面が多かったです。
自分の不幸を人のせいにしない
最初の千鶴さんの生活は、離婚した元夫からDVを受けて、お金を搾取され続けるというものでした。やがて助けてくれる恵真さんという女性に巡り会い、お母さんに再会しましたが、「自分が不幸なのは、お母さんに捨てられたから」「だから、責任取ってよね」となっていました。
千鶴さんの気持ちには共感できましたが、すべてをお母さんのせいにしても意味はないんですよね…。でも、徐々に千鶴さんがお母さんを理解することで、関係が少しづつ和らいでいったのが良かったです。千鶴さんはずっとお母さんを求めていたんだな…って感じました。自分が招いた不幸は、過去の傷が影響しているのかもしれないけど、人のせいにはしないようにしたいですね。過去と現在はつながっていますが、今どうあるのかを大事にできるといいと思います。
一卵性母娘
千鶴さんのお母さんは、一卵性母娘といえるほどに自分の母と似ていたそうです。「違うよね?」と言われ続け、強く皮膚をつねられて、共感の道具にされていました。何事にも決定権を奪われたまま母親のいいなりになって生活していた様子は、もはや洗脳だな…と思いました。「わたしはおかあちゃんと一緒です」と無理やり言わせられているのには、気持ち悪くて吐き気を感じました。
行き過ぎた母子密着は、怖いです。千鶴さんのお母さんは、そういうある種の洗脳をされてきたから、千鶴さんにも同じようなことをしてしまいそうな自分を恐れていました。自分がされたことを自分の娘にもしてしまうって、罪悪感がより一層強くて苦しそうですよね…。
世の子育てをしている人は、自分が子供の時にされたことを自分の子供にする人が多いのではないでしょうか。虐待を受けていた場合は、自分の子供にも虐待をしてしまうケースが多い、という残酷な事実を思い出しました…。
認知症患者を支える大変さ
千鶴さんのお母さんは、若年性認知症を患っていました。だんだんと悪化していき、夜に「帰りたい!」と騒いで家を出て行こうとしたり、失禁を繰り返すようになってしまっていたのは、なんともリアルで生々しさがすごかったです。特に、人が失禁した後の処理については、本当に精神的にきついので、読んでいて苦しくなりました…。
私も一度やったことがありますが、ひたすら心を無にして、臭いに耐えて一人で掃除し続けるのはとても辛かったです。大事な家族だとしても、本人の意思を尊重して、早く施設に入れてあげて欲しい…と読みながら思っていました。身内の凄惨な姿なんて、見ない方がいいです。記憶が少しでもあるうちに同じ時間を過ごしたいという気持ちもわかりますが、認知症の人の世話は精神的に負担が大きすぎる…と思いました。介護職をやっている方を改めて尊敬しました。
10代の妊娠について
17歳で妊娠した高校生の女の子が、千鶴さん母娘が暮らしているところに転がり込んできます。相手の男性に逃げられたみたいですが、よくある話ですよね…。10代の妊娠は、シングルマザーになる割合が非常に高いと思います。
子供が子供を育てることはできなくて、結局親の力を借りることになったり、自分の人生が育児にほぼ消えて行ったりするので、自立していない10代で妊娠するのは軽率だよなあ…とちょっと思いました。後先考えずに子供を作るのは、普通に良くないです。近頃の中学校や高校での性教育は、改善されているのでしょうかね。
大事にしたい言葉たち
「誰かを理解できると考えるのは傲慢で、寄り添うことはときに暴力になる。大事なのは相手と自分の両方を守ること」
「ひとってのは、水なのよ。触れあうひとで、いろもかたちも変わるの」
「家族や親って言葉を鎖にしちゃだめよ」
「加害者が救われようとしちゃいけないよ。自分の勝手で詫びるなんて、もってのほかだ。被害者に求められていないのに赦しを乞うのは、暴力でしかないんだ」
全体を通して、心に響く言葉がたくさんありました。
家族、特に母娘について考えさせられる内容でした。私は自分の家族のことは考えたくないのですが、なんだか虚しくなりました。苦しい過去を背負っている登場人物たちばかりで、心が痛む内容でしたが、とても勉強になりました。苦しみをここまで言葉で表現できるのは、すごいなあ…と思わされました。