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特許情報から見る植物肉・培養肉および昆虫食の動向とトレンド

「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

本稿は情報機構「<培養肉、植物肉、昆虫食、藻類など>代替タンパク質の現状と社会実装へ向けた取り組み」(2021年11月発刊)へ寄稿した「特許情報から見る代替肉・昆虫食の動向とトレンド」となります。

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1. はじめに

グローバル市場規模は700兆円に達するともいわれているフードテック(Food Tech)への注目が高まっている。図1はフードテック全般の俯瞰図である。

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図1 Food Innovation Map 2.0

本書で対象としている代替肉は「次世代食材生産」というカテゴリーで位置づけられており、植物肉や培養肉、昆虫食に代表される代替プロテインへの注目も日増しに高まっている。

培養肉に関する最初の特許出願はオランダの医師であり培養肉研究の基礎を築いたファン・エーレン氏のWO99/031222A1(日本対応出願:特開2002-508175)「食肉の工業的生産方法およびこの方法で生産される肉製品」2)だと言われている3)。この特許請求の範囲は

【請求項1】肉製品の生産方法において、動物の細胞を人畜無害の環境の培養器内において産業規模で培養することにより人間または動物の消費に適した三次元の動物組織を提供する工程と、この工程に続いて上記培養された細胞を少なくとも骨、臓物、腱、軟骨、脂肪のいずれか一つの除去工程が不要な食料品にする公知の肉加工に類似した工程とを有し、好ましくは、上記肉製品は凝固した細胞組織を有し、上記細胞は筋肉細胞、体節細胞および幹細胞から選ばれたことを特徴とする食肉の工業的生産方法。

のように、培養肉の基本的なプロセスについて開示している(この特許は日本特許庁では拒絶査定となっている)。

代替肉への注目が一気に高まったのは、2019年のCESにおいてImpossible Foodsが発表したリアルな味がする100%植物性のインポッシブルバーガー2.0である4)。またImpossible Foodsの競合であるBeyond Meatは2019年5月にナスダック市場に上場し、2020年は植物肉の普及元年と言われている(以下の図はBeyond Meatの特許明細書に掲載されている植物肉によるハンバーガーの写真である)。

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図2 植物肉によるハンバーガー(US20170105438A1)


Impossible FoodsやBeyond Meatだけではなく、様々な企業が代替肉(代替プロテイン)市場へ参入しており、The GAFAsが発表している代替プロテインのカオスマップの最新版5)を見ると多数の企業が市場参入を狙っていることが分かる。

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図3 The New Protein Landscape V. 3.0

本章では特許出願面から代替肉(代替プロテイン)に関する動向について解説する。なお代替肉は「植物肉」と「培養肉」に大別され、「植物肉」は大豆や小麦などの植物性タンパク質を肉状に加工した食品である。「培養肉」は牛や豚などの家畜から採取した細胞を培養した食品であり、家畜を屠殺せずに家畜由来の肉を生産できることから「クリーンミート」とも呼ばれている。無印良品のコオロギせんべい6)に代表される昆虫食も代替プロテイン素材として注目されているため、本章では植物肉、培養肉に加えて昆虫食の特許出願トレンドについても取り上げる。

2. 代替肉(植物肉・培養肉)・昆虫食を巡るグローバル出願トレンド

本節では代替肉(植物肉・培養肉)・昆虫食に関するグローバル出願トレンドについて示す。本分析母集団については本章末尾に掲載しているようにキーワードおよび特許分類をベースに形成した後、簡易スクリーニングでノイズ除去を行っているが、特に培養肉については食用であることが特許明細書中に記載していないものもあるため十分に網羅できていない可能性がある点は留意いただきたい。

なお、本章では特許出願をカウントする単位として出願件数ではなく、パテントファミリー数(以下、ファミリー数)を用いている。パテントファミリーとは1つの特許出願を基にした海外出願(同一の優先権で紐づいている)も含めているため、出願件数よりも少なくカウントされている。以下ではファミリー数を発明数と読み替えていただきたい。

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