読書記録:「ファインマン物理学」を読む 力学と熱力学を中心として
著者・竹内薫
出版・講談社
発行・2013.07.10
ISBN4-06-153256-1
ファインマン物理学
存在は知っていたけれど,なかなか手を出せずにいる。
そのファインマン物理学を読む,という本である。
サイエンス作家としてご活躍の竹内薫さんが著者ならば,
ファインマン物理学への入り口としていいかもしれないと,
人頼みの選書である。
(なんてったって,竹内薫さんの本は読みやすい)
本書は「電磁気学を中心として」という本の後に出版されている。
私自身が力学の方がなじみやすいので,本書を先に読むことにした。
(物理学を解説することを目的とした本ではないので,この読書記録にも物理学の解説は出てこない。)
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物理と脱線と数学のサンドウィッチ手法
聞き手の背景が違うとき,どのように伝えるのが効果的だろうか?
・一番の初心者に合わせた易しい内容にする
・初歩的なことは予習に任せて,内容は中間層に合わせる
・教えあい,学びあいのように,聞き手同士のつながりを生む
いろいろな手法が考え得るけれど,
どこかの層だけに照準を合わせると,
それ以外の層には満足いかない内容になる可能性がある。
特に物理,それも数学も多く含む内容であるとすると,
気を付けないとお昼寝タイムになってしまう。
数学のはさみ方なんて,すごく悩ましい。
ちょこちょこ挟む方がいいのか,先に概念形成を図ってから,あとから数学的記述をまとめて扱った方がいいのか。
ちょこちょこ挟むことで,せっかく形成されかけた概念が崩れはしないだろうか,とか。あとから数学的記述をしようにも,数学をまとめたら,苦手意識を持つ人がいるんじゃないだろうか,とか。
ファインマン物理学は物理学と脱線トピックスと数学の解説が
「交互」にあらわれているという。
この絶妙なバランスこそが,
ファインマン物理学を名著たらしめている要因の一つである,と。
ずっと肉ばかりを食べ続けるのは難しいけれど,
デザートを挟むと,また食べられちゃうもんね。
サンドウィッチの具をたくさん集めてみよう。
文化を「創造」する人々
作家は誰よりも本を読むだろうか?
否,きっと誰よりも本を読むのは読書が好きな人や書評家である。
では,作家はというと,作品を書くのに忙しいのである。
ファインマンは,「専門家」がどのようにやったかを知るために本を読む前に,自分自身で解決すること,いろいろ試して楽しむことの重要性を絶えず強調している,という。
科学に限らず,文化を創造する人々は,まず第一に自分が行動するのであり,他の人々が何をやっているかには,案外,無関心のようなのだ,と。
どれだけ知識を蓄えたとしても,
実際に行動しないことには何も始まらない。
石橋をたたき割る私には,他の人を気にしすぎる私には,
なんとも響く言葉である。
数学と物理学
科学と非科学の線引きはどこにあるんだろう?
物理学と数学は,どのような関係にあるのだろう?
自然科学の側に立つ私にとって,
数学は世界を記述する言語のひとつである。
ファインマンによると,
数学は自然科学ではないという意味で科学ではない。数学の正否をためすのは実験ではない,とのこと。
自然科学は世界の事象を解き明かすものであり,
数学は論理が破綻していない限り何をやってもいい自己完結の世界である。
以前,数学は発見か,発明かという議論を耳にしたことがある。
私は発見だと思った。
なぜなら,人間が発明したもので,自然世界が矛盾なく記述できることが信じられないからである。
その人は発明派だったし,私の意見は発見派によくあるものらしい。
この議論についてはおすすめしてもらった,
「神は数学者か?」を読むことを楽しみにしたい。
(分厚いかつなじみのない分野の本なので,読む勇気が出ずにいる。)
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数学から離れて久しい。
しかし,ファインマン物理学しかり,物理学を楽しむためには数学は欠かせない。ABCがわからないのに,英語はできない。
受験のためではなく,数学を身につけたいと思うこの頃である。