
つなぐ|箏と祖母と私、
箏を弾いた。久しぶりに。
私の祖母はお箏の先生をやっている。
転勤族だったから祖母と一緒に暮らしたのはほんの小さいときの数年だけだけれど,祖母の家に行くと,箏を教えてもらっていた。
年に数回数時間弾くだけで,できるようになるはずもなく。
かといって,マンションの部屋で箏を弾くのは,厳しい。
だから,ちゃんと箏をしたことはなかった。
祖母の家で弾いていたのだって,そこに箏があるからで,すごく前向きに取り組んでいたわけではない。かといって,後ろ向きでもない。
ところで私は,アニメや映画に影響されやすい。
「DIVE!!」を読んでいたころは,飛込競技がやりたくなった。
「つるね」を見ていたころは,弓道に興味を持った。
「free!」を見ていたころは,久しぶりの競泳に胸が騒いだ。
「ラブオールプレー」では,ひたむきさに勇気をもらった。
「マイ・インターン」や「Younger」をみて,働くことや生きること,自分の生き方を見直した。
そして,「この音とまれ!」をみて,箏を弾きたくなった。
今の家なら,楽器を弾ける。
自分で箏を買ったって良かったんだけれど,祖母に譲ってもらった。
厳しいところがあるけれど,自分のやりたいことにまっすぐで,とても活動的な祖母。けれど,ここ数年で老いた感じがする。とある災害に関連して,頑張りすぎて,疲労骨折をした。とっても活動的だった祖母に,急に老いを感じた。
お箏も一時期休んでいたみたいだけれど,復活したみたい。
数年前に感じた老いが嘘のように,今はまた元気になっている。
それでもやっぱり,身体が老いていくことは避けられない。
頑張りすぎないかと,それが心配である。
それで,私は箏を譲ってもらった。
複数持っていた祖母は,眠っていた箏を私が弾きたいことがとても嬉しかったみたい。直接会えない私が弾けるようにと,メモ書きや楽譜,教本が用意されていた。
一人で暮らす祖母は,口が達者なので,息子である私の父とけんかすることもある。傍から聞いていると,どっちも子供だなあと思う。
いつまでも自分が主役の人生を自ら拓き,歩み続ける祖母は,本当にすごいと思う。祖母はフルタイムで会社員をしていて,祖母より早く定年退職した祖父は専業主夫となっていた。祖母よりも祖父の方が,家事ができる。だから,祖父が亡くなった後も,とうぶんの間トイレットペーパーを買わなくてもいいくらいには,祖母が生きる準備がなされていた。
とりとめのない文章になってしまったけれど,祖母の築いてきたものを誰も知らずにいるのはもったいない。いつか祖母が亡くなったとき,箏が箏でなくなるのは,もったいない。
だから私は,祖母に箏を習おうと思う。
といっても会いに行くにはあまりに遠い距離なので,オンラインで。
今日はLINEを使いこなす祖母と通話しながら,1時間箏を弾いた。本当はビデオ通話で手元を映したいんだけれど,今の祖母にそのスキルはない。
箏の音色は美しい。
これから少しずつ,自分で音を作り出せるようになりたい。
祖母のように。