再掲 野田地図「Q ~A Night At The Kabuki~」の感想
前回の公演のときの感想をはてなに入れていましたが、noteにも再掲しておきます。
さて、しっかりと残しておきます。
珍しく二回、観に行きました。自分の個人的な趣向として、なるべく多くの公演に行くために、同じ芝居は二度見ることはしない方向でいるのですが、今年はベッド&メイキングスの「こそぎ落としの明け暮れ」と野田地図は二回チケットを確保しました。野田地図は二回見るつもりはあまりなかったのですが、一回目を見てもう一回見ることができると思ったときに、すでに二度目確保をしていた自分をほめたくらい(笑)
さて、すでに本公演すべて終了しているので、ざっくりではありますが、感想を。
構造は源平になぞらえた「ロミオとジュリエット」を前半に据えて、後半は最近の野田さんがよく扱う戦争にまつわる様々な事象ということで、今回は「シベリア抑留」をモチーフにした内容で描いています。
最初、前半を見た時に実質「ロミジュリ」の話が終わってしまうので、「そこまで行っちゃうの?」という感想でしたが、後半を見て「そう来るのか、、、」という思いになりました。
前半はまさに「ロミジュリ」です。若い二人(志尊淳さん、広瀬すずさん)がのびのびと演じています。志尊淳さんはさすがに喉に来ていたかな。広瀬すずさんは自分としては正直、不安要素だったのです。大丈夫かな?と。実際は杞憂でした。もちろんいくつかの修正箇所はありますが、セリフ回しや声の出方、感情の演出などよくやっていたし、特にロミオを追って後追い自殺したがる場面あたりの演技は、鬼気迫る部分を感じさせて良かったと思います。変に小細工しない役柄なのも若い二人にはよかった。
実際には松たか子さん、上川隆也さんの二人がいろいろな意味でしっかりと筋書きを回していくので、そこにうまくはまって動けていたと思います。
その松さんと上川さん、最終的にこの二人が悲劇を避けるために動くけど、でもやっぱり悲劇っていうところが、二人の愛のつながりを感じさせるわけですが、特に松さんは本当に良いのです。前回の「逆鱗」などもよかったですが、悲しみをぐわっと出すのではなくて、じわーっと届ける感じ。今回も「文字のない手紙」を読み始めて、最後もその手紙で終わるわけですが、最初と最後でその手紙の重さがしっかりと伝わってきます。
今回の作品で印象深かったのは、ロミオとジュリエットで「なぜロミオなの?」ではなく「名前を捨ててください」をモチーフに、「名前を捨てる=人としての価値や意味をなくす」という感じに作っていること。
ロミオ(作品ではローミオ)は心中し損ねて、生き返ったあとに、破れかぶれになって、一兵卒として源氏との戦争に向かいます。そのあと捕虜してつかまって、シベリアのような場所で暮らし、恩赦が出た時も身分がないことから、その恩恵を受けることができずに名もないまま死んでいく。名前を捨てたことで、人としての社会的価値も消え、ついには愛情も薄れ、存在も消えていく。この辺りのつながりに「人の価値」がどこに由来するのか?だったり、でもジューリエ(ジュリエット)のようにひたすらその人の存在を意識し、愛情を持つ人もいるという対比。名前を捨てることで、何が消えていくか、何が残っていくか、個人的にはシベリア抑留という状態から、その現場での悲惨な状況という部分(生きるために意志が失われていく状態)はもちろんのこと、それ以上に消えていくものが多すぎる状況への悲しさを見ていながら感じていました。
手紙を書く、読むという行為での愛情の交換だったり、伝わっていくものという演出は非常に楽しかったです。あとそこの紙ヒコーキという演出を加えたことで、伝わるものの軽やかさとか明るさみたいなものが浮き上がってきて、同時にそれが悲しい別れへとつながるロミジュリのつながりへとなっていて、うまいなあと。ふわっと飛ばす感じがまたよくて、希望にあふれた手紙という感覚が伝わってきます。
最後の文字がない手紙に対して、平凡太郎(竹中直人)が読み上げた言葉からジューリエがつづっていく話になりますが、ロミオが失わなかったジュリエットへの想いがその極限においても残っていく、というより状況だからこそ、その愛情がすべてのよりどころでもあったという印象です。
名前を捨てることで失ったもの、自分に残ったものというものが見えた芝居で、二度見ることができたことをうれしく思います。
追記
竹中直人さんの平清盛のメイクが「ジョーカー」風なのって、どこまでの意味合いがあったのだろうか?というのは、パンフレットとかに正解があったのかな?
購入していないので、、、、
追記
先日、2022年度版を観てきました。
だいぶ印象が変わりました。
後半のシベリア抑留あたりの印象が、前回はもっと強く残った気がしたのですが、今回は結構サラッとした感じ。
むしろ恋愛要素の感覚が強く残って、最後の平凡太郎のジューリエへの言葉の手紙が、本当に愛の確認となるラブレターになっていて、二人の愛のある種の成就というか、一生に一度の恋愛の形というものの尊さを感じて見ていました。
上記の感想でローミオの愛情が薄れてって書いてるけど、いや違うわそれっていう話。
ありまくりで、でも抑留生活の中で消えつつあるジューリエを広瀬すずがその場に立つことで描いている。
そして最後は朽ち果てていく自分のことを、それでもやっぱり忘れないでほしいとローミオが願うっていうことが伝わる文字のない手紙。
呟きにも書いたけど、ある意味では二人の恋愛の成就が形になったことが悲劇の中のハッピーエンドとも言える作品だった。
印象の変化はどうであれ、素晴らしい作品で、やはり観に行ってよかったです。