いちょう並木のセレナーデ（芝公園リプライズ）

いちょうが綺麗な季節になると、１０年も前に別れた恋人のことを毎年思い出す。

その当時の職場の隣は芝公園。いちょうと東京タワーが一緒に見れるちょっとした名所になっていて、ある晴れた朝に私はその写真を撮った。
見事に黄色く染まったいちょうと、空の青。後ろにそびえる東京タワー。
そのコントラストの美しさを彼に見せたくて。届けたくて。

まだガラケーという言葉も無い時代の携帯電話。
ラインではなくメールで送る。
シンプルに
「すっかり秋だね！いちょうが綺麗だよ！」という言葉を添えて。

返事がきたのは夕方で、添付されていた写真は…

股引を履いた彼の下半身。

メールには「秋だなー！！寒いから俺は股引だしたよ！！」と。

…………うん。

今ならば！
今ならば全力で笑えるのに！
むしろなんて愉快な彼氏なんだ！！って愛が深まる気すらするのに！

その時の私は、この恋の終りを予感した。

I'm ready for the blue.　

大好きな小沢健二の「いちょう並木のセレナーデ」にある一節。
でも何も、こんなに間抜けな予感じゃなくても！　ねぇ、王子！！

予感通り、数か月後この恋は幕を引いた。3年ちょっとの恋だった。

あなたにただ会いたかった私と、
私に会う理由ばかり探してたあなた。

その始まりから終わりまで、全力で「恋」だった。
「恋人」という関係でしかいられなかった。
後にも先にも友達期間のない唯一の人。

今年もいちょうを見てあなたを思い出したよ。
元気にしてるだろうか？　してるだろうな。

いろいろあったけど、私も元気にやってるよ。
幸せだよ。

あなたも幸せだったら、とても嬉しい。
あなたが暖かい股引を履いて、誰かと綺麗ないちょうを見上げていたら、
本当に本当に嬉しい。