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【映画感想】”それ”がいる森

この映画見るくらいならもっと他にお金を使うべきだと思うの。(結論)

ということで、9月30日から公開がスタートしたホラー映画「”それ”がいる森」を今更見てきてあまりにも酷かったので、忘れないうちに感想文を書いておこうと思う。
全編にわたりネタバレ注意、また結構辛口です。

  1. 俳優の演技はよかった

  2. 「アルバトロス」配給の映画じゃないんだぞ

  3. 中田監督はコメディを撮りたいのか?

こちらの3本でお送りします。

あらすじ

田舎町でひとり農家を営む田中淳一(相葉雅紀)は、元妻・爽子(江口のりこ)と東京で暮らす小学生の息子の一也(上原剣心)が、突然ひとりで訪ねて来たのをきっかけに、しばらく一緒に暮らすことになる。
ちょうどその頃から、近くの森では不可解な怪奇現象が立て続けに発生し、淳一が住む町でも、住民の不審死や失踪事件が相次いでいた──。
そんな矢先、淳一と一也も偶然得体の知れない“それ”を目撃してしまう。
「“それ”の正体とはいったい――!?」
淳一は一也の担任の絵里(松本穂香)とともに、怪奇現象に巻き込まれていくが、それは未知なる恐怖の始まりにすぎなかった──。

「”それ”がいる森」公式サイトより

このように、この作品は一応「ホラー映画」という体裁をとっているが、
はっきり言って「ダメダメ低予算SF映画」だ。

まず本作の”それ”の正体だが、宇宙人であるというのがヽ(・ω・)/ズコーというかんじ。
映画館でUFOが映った瞬間、どよめきが発生したからね。
まあでも突如現れる宇宙人!!光り輝くUFO!!というのはジャパニーズホラーにはこれまで存在しなかったので、新風は吹き込んだと思う。
ただ、それが面白かった!とかよかった!とかに繋がることはなかった。

1.俳優の演技はよかった

まずは結論その1.
脚本のせりふ回しは壊滅的で見ていられないほどクサいのだが、演技は悪くないので、この映画の中の大きな救いは俳優陣だ。
主演の相葉ちゃんはさすが人気アイドルとして数々のドラマに出演しているだけあってこなれた感じだし、子役の上原剣心くんもいい。
中学受験のプレッシャーにやられた子供にしてはちょっと大人び過ぎているけれど。

だが正直相葉ちゃんファンであっても見に行くことはお勧めしないし、上原剣心くんファンであってもお勧めはしない。
というのも、大体のひとは気づいていると思うけれどそもそも相葉ちゃんとホラー映画の組み合わせが壊滅的に良くない。
これが単なる父と子の家族再生物語なら、もう39歳になる相葉ちゃんもナイスキャストだったかもしれないが、様々な番組で見る相葉ちゃんのイメージがホラーには合わなすぎる。

それにこんな映画であっても興行収入が上がるとなると、マジでクソ映画にばかり出演させられる羽目になる。
我々は共産主義社会に生きているわけではないので、商品の取捨選択ができるのだ。公式から与えられているものをありがたがってばかりいるオタクから脱却しよう(自分に対しての言い聞かせ)。

なので、できればファンの方であってもあまり見に行くことはお勧めしたくない。
ぶっちゃけ相葉ちゃんも剣心くんもこの程度の作品でくすぶる人たちではないと思うので、もっといいタイトルに出てから見てほしい。

2.「アルバトロス」配給の映画じゃないんだぞ

さてこの映画最大の難点について話したい。
それは「和製SFホラーもの」という奇をてらった作品であるにもかかわらず、そのストーリーや演出などがテンプレに粉をはたいて油で揚げたテンプレから揚げかドーナッツみたいな、意外性ゼロの作品であるという点だ

そもそもポスターや予告編全てにおいて、”それ”の正体をひた隠しにしているにもかかわらず、映画の序盤でぼんやり「あれ?もしかして”それ”って宇宙人じゃね?」と、察することができてしまう。
そして主人公の息子である一也の友人が襲われる、結構序盤のシーンで
「やっぱり宇宙人じゃん!!!!!」と分かってしまうのだ。

ぶっちゃけ「宇宙人だったのか!!!!」みたいなカタルシスは一切ない。
しかもその襲撃シーンもベッタベタのベタ。
足元にぬるぬるがあることに気が付き顔を上げると襲われる、という一連のシークエンスは、もはや古典的過ぎて拍手したいくらいだ。

そしてこうしたSF作品の要ともいうべき宇宙人の造形についてだが、
2022年によくもまぁ、こんなテンプレなグレイタイプを映画に出せたな!と感心してしまった。
CGのクオリティ的にも2022年の作品か?2000年代初頭の作品では?と疑問に思えてしまう。
ちなみに宇宙人はめちゃくちゃ弱そうで、私が殴ったらすぐ死にそうな見た目なのに弱点はオレンジをむしばむ菌というこれまたビミョーなオチつきだ。

また登場するキャラクターにも意外性は一切ない。
個人的には
「主人公の息子が実は宇宙人になりかわられていたのでは?」とか
「東京モンということでいじめてくるクラスメイトの中で、唯一仲良くなってくれた息子の友達がやさし~!て雰囲気で近づいてきたけど、実はクラスメイトと共謀していじめてくるのでは?」とか考えていたが、
一切そんなことはない。
とある漫画であったけれど、「作者の人そこまで考えてないと思うよ」
まさにこれを体現する映画だ。

ここまで言いたい放題言ってきたが、もしこの作品が私がもうすっかり見慣れてしまった「アルバトロス」配給の映画だったとしたらどうだろう。
シャークネードと同じ配給だとしたならば、
「まあ仕方ないな…アルバトロスだし…」
などと思うくらいの出来だ。

だがこの映画は300館以上で上映されている、れっきとしたメジャー作品なのだ!!

こんなクソ映画のくせに300館で上映されるメジャー作品で、
堂々4位にランクインしてしまう興行収入を上げているのだから、
邦画界が衰退してもわけないなと思ってしまうのだ。

ていうかジャニーズ事務所は自分の事務所の人たちがこんなクソ映画に出演していることを何とも思わないのだろうか?
事前に脚本の内容を確認したりもしないのだろうか?
「大怪獣のあとしまつ」のあとしまつと同じくらい、この映画のあとしまつも大変だと思うんだけど??

3.中田監督はコメディを撮りたいのか?

さて、中田監督が以前メガホンを取った「怖い間取り」も、なぜか途中から除霊ミュージカル(私はこう呼んでいる)を見せられている。
「怖い間取り」はもともと原作ファンだったので、なんかよくわからない着地点になってしまって???という感じだった。

それはさておき中田監督はこの作品のインタビューでこんなことを言っている。

(前略)Jホラーも、変わっていかなきゃいけない。もちろん僕が今回やったことは一つの試しでしかないですけど。ホラー映画というのが、日本人はどうしても何か身を縮めて、身を固くして息をのんで、時々はっとため息が出るぐらいのリアクションしかしないのに、アメリカ人だともっとホラー映画を笑いながら見てたよって。

『“それ”がいる森』公開記念!中田秀夫監督、単独インタビュー!
「Jホラーも、変わっていかなきゃいけない」

つまり中田監督自身も、自らが打ち立てたJホラーの壁をなんとかブチ破ろうと藻掻いているのだと思う。
それは分かる、それはごもっとも。

だけど、観客がアメリカナイズドされているとしても、求めているホラーはアメリカ的ではない、よそはよそ、うちはうちなのだ。
それにたとえアメリカ人であったとしても、Jホラーに求めるものはJホラー的恐怖のはずだ。
日本人は日本人なのであって、アメリカ人にはなりえない。

上述した「怖い間取り」も、ひとつひとつは取るに足らないものの、実はつながっているのでは?呪いを引きずっているのは自分なのではないか?という疑心暗鬼が怖い。
はっきりと「これが原因でーす!!」と、明け透けにされても興ざめだ。
だから映画版「残穢」も怖くない。

何度か書いているけれど、ホラーがホラーであるには条件があると思う。
それは得体のしれない存在が、いついかなる時襲ってくるか分からないという意外性が存在することだ。
だからSFホラーものであったとしても、その正体は中盤から終盤まで明らかにされることは少ないし、もし正体が明らかだったとしても
「そんな技を持っていたのか!?」とか
「こんな変形をするなんて!!」みたいな、絶望感をプラスする場合が多い。
これも大きな意外性の一つに違いないから、悲鳴が上がる。

だがここまでさんざん書いたように残念ながらこの映画には、そういった意外性が一つもない。
テンプレ親子の絆再構築ストーリーに、テンプレ事件、テンプレ宇宙人、ひねりのない息子のクラスメートたちに、終盤に向けてのご都合主義の展開…
言い方は悪いが、登場するキャストだってどこでだって見れる人たちという意味で意外性は全くない。

その意外性のなさがなんだか滑稽で笑えてくる気さえする。
「アルバトロス」配給の映画じゃない、と言いつつ限りなくその映画の要素を強く持っているこの映画は、「シャークネード」のように友達とぎゃあぎゃあいってケチをつけ、爆笑しながら見るものなのかもしれない。
そういう意味では監督の目論見は成功している。
ただ、Jホラーという枠を破壊できているかというと全くそんなことはない。

ということで、友人が相葉ちゃんファンなのであまり厳しいことも言えず、もやもやを抱えて帰ってきたことをすべてここに吐き出してみた。

正直この映画、いったい誰得なのだろう?

相葉ちゃんファンにも勧め難いし、ホラーファンには言わずもがな。
SFファンなどほかにもっと見るべき映画はあるだろうし、このつまらない映画を見てがっかりする人も多いと思う。

ちょうどtwitterでは実写版「ゴールデンカムイ」の配役が物議をかもしているなど、相変わらず日本映画の人気のなさはこういうところにあるんだなと感じさせられてしまうことばかりだ。

一体今の日本映画って誰向けに作っているんだろう?
どの映画を見てもみんな同じ俳優ばかりが出演していて、漫画の実写化をしても評判が芳しくないものばかり。
だからといって海外の映画が完璧というわけではないけれど、たくさんの人々に影響を与えた日本映画はもう帰ってこないものなのかなぁと思ってしまうのだ。

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