【代理ストーリー】「出向:系外惑星テラフォーミング」
注意1:少し内容が暗い
注意2:もちろん全てフィクションです
生まれ育ちの研究施設、惑星研究機構地球研究所日本支所で研究員に就いてしばらく経った杏。データ集め、実験、実験装置の製作、研究論文の執筆はもちろん、研究所の色んな雑務や被験体などをこなしていく上で少しずつ業務に慣れてきた様子だ。
そんな彼女に突然、とある辞令を言い渡された。
おおいぬ座π星。
地球からは約95光年離れた恒星系。ワープ航法が発明されて50年も経たない23世紀の後半においては、最新の技術を搭載した機体でも半日はかかる距離。
この恒星を回る4番目の惑星には、テラフォーミング事業が行われている最中で、人類が定住できる環境になるまで最低あと5年はかかるという試算だ。
研究施設の構内には生活できる環境が十分揃っているけれど、大きな街や宇宙ステーションはおろか、そもそも人がいない。
「なんで私があんな宇宙の片鱗に飛ばされなきゃいけないの」と不満げな様子だった。生物研究者の杏には、どうやら"特別なミッション"があったようだ。
2天文単位程度の半径で主星(F型主系列星)の周りを回っているこの星は、生命の営みを宿すのに程よい条件が揃っている。
天王星に引けを取らないぐらい70度近く自転軸が傾いたこの星も、地球と同様、単細胞から多細胞まで多種多様な生命体で溢れかえっていた。地球と同じく水の大洋が広がっていて、山は木々で生い茂っていた。(地球のそれとは色や形が若干違う)
ところが、テラフォーミングが始まってから1、2年の時、現地の作業員らはとある異変に気付いた。
「この星の原生生物たちが大量死してるんだ」と。
当然だ。
大気の成分を作り変えようとして、何を今さら。
4、5年も経つと、そんな感じで、ことごとく地上の生き物たちは一掃されてしまった。
事業開始から10年ほどの今。残るは海を泳いだり佇んでいる海洋生物の一部のみ。地上では、代わりに地球などから持ってきた植物の苗木だけが植えられている。
そんな光景を見た彼女は深い絶望に陥った。目の前で繰り広げられる残酷なな破壊行為を止められないことに己の無力さを突き付けられた。
今日もまた一つ生態系が丸ごと消し去られた様子を研究報告書にまとめながら、杏は吐息を吐いて、自然と頬に伝う涙を拭うしかできなかった。
すべては「人類の繁栄」という大義名分のために…。
付録
(画像はSpaceEngineで生成)