夏物語 仙川さんのエピソードについて
川上未映子さんの夏物語を読みました。
まじで最高の小説だったからこの本みんなに読んで欲しいんですけど、私の中で超刺さって、「これについて人に話したい!!」ってなったエピソードについて抜き出して書きたいと思います。
かなり話の内容をすっ飛ばして感想を書くだけなので読んだ人しかわからないと思います。
でも、読んでない人にも伝われって思いつつ書きますね。
この小説の中に、バリキャリの編集者「仙川さん」という女性が登場します。
その仙川さんが酔って夜中に夏子を呼び出すシーン。
すごく共感して切なくなってしまった。
自身の抜群に恵まれた生い立ち、経験しなかった結婚、出産に対する思いを、普段はリスペクトしていて、大切に思っているけれど、自分が「劣っているところのない」と心のどこかで思っている夏子にこぼしてしまう感じ。
これはもう痛すぎて、ぐっときてしまった。
この仙川さん、普段はきっとめちゃくちゃ優秀だと思うんですよね。
夏子と初めてあった日に、夏子にかけた言葉は自分の仕事をある程度信頼していないとでてこないのではないかと思います。
だから、きっと通常運転の仙川さんはこんな話は人にしない。
自身の生い立ちについては、人を不快にさせる可能性の方が高いって十分にわかってるし、むしろ、それで自分自身嫌な思いをすることもあったと思います。(あいつは実家が太いからとか、お嬢様はとか、いろいろ嫌なこという人いますもんね)
でもね、お酒飲んで、独りぼっちでいるとね、誰かに構ってほしくて無意味なアピールしたり、攻撃的になったり、嫌な部分がでちゃったりするんですよ。
特に結婚してなかったり、出産してない女性って、ふとした瞬間に見下されることが割とあって、でも毎回そんなことに目くじらを立てる方が疲れるし、かっこ悪いから、少しずつ少しずつ鬱屈とした気持ちをため込んでしまいがちなんじゃないかと思います。
で、これって結構根深くて、この気持ちを明るく吹っ切れる人ってなかなかいないんじゃないかしら。たとえ優秀であっても。
仙川さんはきっと「女性として」「編集者として」自分を高いところにもっていくことにプレッシャーをかけながら、プライド持って、一生懸命なんだと思います。
だからさ、たまには自分の頑張りを優秀さを特別さをちゃんとわかってほしいじゃないですか。
「私」を肯定したいじゃないですか。
優越感に浸って、気持ちよく安心したいじゃないですか。
そんなことかっこ悪くて情けないから普段はできないんですよ。
自分が優越感に浸れるところがある相手、出自でも学歴でも見た目でもなんでも、劣ってるところがない相手、そういう人にいやらしく甘えたくなってしまうことがある。
でもね、普段は違うんですよ。
そんな考えは浅はかなことで、その相手のこともちゃんと大切に思ってるんですよ。
きっと次の日は後悔するんですよ。自分に嫌気さしちゃうんですよ。
トイレで夏子さんを抱きしめたのは、自己嫌悪と罪悪感からなんじゃないかと思いました。
もうね、そういう葛藤とか、苦しさ、情けなさ、痛さがぐわんぐわんきちゃって、めちゃくちゃぐっときてしまいました。
私は、仙川さんというキャラクターが好きです。
だから、最後はとてもとても悲しかった。
まじでね、生きてくことってしんどいんですよね。きっと誰でも。
でも、今日生きるの。今生きてるの。
生まれちゃったから、よくも悪くも誰かと関わって、たくさん言葉にできない感情を持って、生きるの。
で、いつか死ぬの。絶対。
死んだことないから、生きるのと死ぬのとどっちが苦しいかは本当はわからないけど、どうか仙川さんが辛くありませんように。
この小説、本当に良かったです。わたしは好きです。
ゴリゴリにネタバレしておいて恐縮ですが、もしまだ読んでいらっしゃらない方にこの文章が目に留まるようなことがあれば、大変厚かましいことですが、どうか読もうと思う一因になることを願います。